みんなのおむすび

 ほかほかごはんに好きな具材を合わせるだけ。
 シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。
  なのに、口にすると不思議な満足感が――。
 そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けします。

 記念すべき第一回は、京都府南丹市にお住まいの刺繍と天然藍染めの「こちょこちょ」デザイナー・谷尾展子さんを訪ねました。

第1回 谷尾展子さんの「エゴマおむすび」

2015.05.01更新


 「おむすびは単純に練習を重ねるだけでは上手くならない」とかねてから感じています。そこに「純粋な思い」と「あたたかい記憶」が込められて、初めておむすびレシピが完成されるのではないかと。
 そういう意味でおむすびは「料理」のカテゴリーとは一線を画しているような気がします。握る人の素直な心を直に伝えるのがおむすびであり、だからこそおいしいおむすびを完成させるのは易しいようで難しく、深いのかもしれません。
 学べば一様に作れる料理とは違い、その人自身がおむすびという形になって表れる。握る時間はほんの数秒だけれど、大げさに言えばその人の人生すべてがおむすびに込められるという、ごまかしのきかない世界があると思うのです。

 そんなおむすびに秘められた「心」を紐解きたい。日本各地で暮らす様々な人たちが握る「お店では買えない」おむすびを、冒険心と好奇心を持ってこの連載を書いていきたいと思います。
 子どもにとって、母親の作るおむすびは"心の安定剤"のようなものだとも思います。厳しくて、優しくて、あったかい、母親の記憶。ままごとをしたり、虫や植物と遊んだあの日――。今回訪ねた谷尾展子さんのおむすびは、心の中にそんな懐かしい映像を蘇らせてくれました。

 谷尾さんは、手刺繍や天然本藍染めの布製品を制作する「こちょこちょ」というブランドの店主です。小さく描かれた刺繍の中に、温かさとユーモア、そして存在感のある独特の世界を創り出しています。お客様のリクエストに応えて、下絵を描かずにいきなりチクチクと糸で描いて10分程で仕上げてしまうという、まさに「一本勝負技あり!」の手刺繍ライブを、各地で催しています。

 そんな"かっちょいい"谷尾さんが住むのは京都の郊外、静かな里山風景が広がる南丹市。
 家の前から少し遠くに前をやると、単線電車が走っていて、その周りは原っぱです。
 細い道の奥からは、学校帰りの子どもたちの元気いっぱいな声が聞こえてくる。そんなどこか懐かしく、心がやわらぐような場所にある工房に到着すると、谷尾さんのやさしい笑顔とご飯の炊ける香ばしい匂いが出迎えてくれました。


自生したエゴマの葉をおむすびに

 谷尾家の定番は、エゴマのおむすび。エゴマの葉を醤油漬けにしたものを、丸く結んだ炊きたてごはんに一枚、ふわりとのせる。
じつはこのエゴマ、谷尾さんの大家さんでもある農学博士が、何年も前に蒔いた種が広がり、近所のあちこちで自生するようになったもの。
 家のまわりや畑の隅に自生したエゴマの葉を収穫して、醤油漬けにして保存。これでおむすびを結んでみたら、とても美味しく、谷尾家の定番になったそう。


エゴマはひと晩醤油漬けに

 エゴマはシソ科の植物で、見た目も青シソにそっくりだが、味や香りは青シソとはまったく違う。
 エゴマの醤油漬けは、葉と葉の間 にニンニクとたまねぎのスライスをはさんで重ね、醤油を注いでひと晩漬ければ完成。エゴマの葉は薄いから、すぐに味がしみて、翌日には使えるのも手軽で魅力的だ。


十穀米と合わせ、海苔を巻いていただきます

 ごはんは十穀米。薄いえんじ色がきれいだし、香りもよい。そのうえ栄養満点だから、おむすびのときはいつもこの米を使っている。
 また、炊いたお米は必ず一度おひつに入れる。こうすることでお米が余分な水分を吸い、おいしさが増すという先人からの知恵。そのひと手間がすばらしい。

 俵型のおにぎりの上から、海苔をくるりと巻いたら、おむすびは完成。
 エゴマと海苔のいい匂いがほわ〜んとただよって......。その場にいたみんなのお腹がぐうぐう鳴り始めた。


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おむすびの心 その一
美味しいおむすびは心の安定剤。
その土地で育った味と愛情のひと手間が込められている。
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*谷尾家はその後、同集落内のログハウス「ごまろぐ」に引っ越されました。
ログハウス「ごまろぐ」
https://www.facebook.com/gomalog.kyoto
谷尾展子さんが主宰する刺繍と天然藍染めの「こちょこちょ」
http://www.cochococho.com/

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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