みんなのおむすび

 ほかほかごはんに好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。 なのに、口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けします。 今回は、長野県松本市で醤油屋を営む大久保文靖さんの「発酵」が秘訣のおむすびです! 

第5回 大久保文靖さんの「醤油屋のおむすび」

2015.09.16更新


 大久保文靖さんは長野県松本市にある大久保醸造店の三代目。漆で塗られた木桶を使い、昔ながらの製法で醤油を製造しています。できるだけ人の手で醤油を造りたいと、その生産量を限定し、原料選びから製品になるまで、いっさい手を抜きません。その味は保証済み。料亭や蕎麦屋をはじめ、多くの料理人に支持されています。

 そんな大久保家では日々の食材にも徹底したこだわりがあります。普段から口にするのはすべて生産者が分かっているものだけ。調理する際も電子レンジなどは使いません。「原始的な生活ですよ」と大久保夫妻は笑います。


 発酵食品について、大久保さんはこう語ります。
 「醤油や味噌などの発酵食品には、分析しても目にみえないものがいっぱい入っている。手をかけ、時間をかけて作ることによって、命にやさしいものがたくさんできるんだ。台所を預かる女性だって同じだよ。一家の健康はその手の中にある。だから女性がしっかり家族の『食』を守らなければいけないよなぁ」

 「台所を預かる者の責任」という言葉が心に大きく響きました。
 発酵食品は時間をかけて作ることによっておいしくなり、カラダに良い作用を及ぼすもの。料理も同じです。キッチンに立ち、食材と向き合う。発酵させるように時間をかけて料理が熟成していきます。日々、それを繰り返していくうちに、料理に対する真心が本物になっていくのだと思います。

 大久保さんのおむすびを食べたときの、お米一粒一粒の芯の強さとふっくらした味は、長い年月をかけて培った大久保家の味。「心を発酵させていくこと」でおむすびも自然とおいしくなるのですね。その生き方や考え方がおむすびに凝縮されているようでした。

 大久保さんが取材の最後に「大久保家の信条」を語ってくれました。

ー日々の料理こそ明日の命。味は心で五味調和ー


 日々の料理を丁寧に、ごまかさずに作ることは明日の健康に繋がる。真心込めて料理し、酸味、苦味、甘み、辛み、塩味、この五味の調和がとれた味を目指すことが、身体と心の調和に繋がる。
 このような解釈になりましょうか。おむすびのおいしさというのは、材料の善し悪しだけではなく、五味調和のとれたカラダと心が鍵を握っているのかもしれません。


自家製の漬物や野菜を具材に


 大久保さんの作るおむすびは自家製の漬物や野菜が中心です。梅干、たくあん、野菜の味噌漬け(ミョウガ、昆布、しその実、うり、菊芋、大根葉、根深みそなど)、ゆかり、煮大豆(味つけする)など、すべて大久保家で作られている具材です。



 照れくさそうにどんどんおむすびを握っては皿に並べていく大久保さん。もっと大きなおむすびを想像していましたが、意外と小さい?


囲炉裏で本格焼きおむすび


 焼きおむすびは根深ねぎ味噌(根深ねぎと味噌を混ぜ合わせる)と大久保醸造店の「甘露醤油」を使って囲炉裏で焼き上げます。
 おむすびに使う食材はすべて大久保家で作られたもの。お米、大豆、梅干し、味噌や醤油を使った漬物など......それぞれの食材が極上品です。そして、それらが合わさって、足し算どころか、かけ算となった味わいを持っていました。今回、取材という形で大久保家の食卓を垣間見ることができ、とても幸せなひとときを過ごしました。



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おむすびの心 その五

「日々の料理こそ明日の命。味は心で五味調和」
時間をかけて心を発酵させ、五味調和を目指して日々精進。
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大久保醸造店
長野県松本市にある蔵と工場で醤油や味噌を製造、販売している。
〒390-0221長野県松本市里山辺2889
Tel. 0263-32-3154

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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