みんなのおむすび

 ほかほかごはんに好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。 なのに、口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けします。 今回は、長野県木曽郡にあるイタリア料理屋「base」(バーゼ)の、オーナー兼料理人・神出夫妻が結ぶおむすびです。

第6回 「小さなイタリア料理屋の夫婦むすび」

2015.10.21更新


 長野県木曽郡の山あいにある小さな村にイタリア料理屋「base」(バーゼ)はあります。baseとはベース(基部、根元、土台)という意味。「木曽」とも掛け合わせて、木曽という土地で基礎を大切に仕事していきたい、という気持ちが込められています。

 このお店のオーナー兼料理人である、神出達樹さんとさくらさん夫妻。共にイタリアで料理修行し、イタリア人の食に対する考え方や、食材の質の高さ、うさぎや豚1頭をさばき、余すところなく使うことなどにも衝撃を受けたそうです。
 イタリアの家庭料理をこよなく愛す二人は、帰国後、さくらさんの実家がある今の場所でお店を始めました。
 テーブル席が二つある母屋と、グループのための離れというこじんまりとしたスペースで、落ち着いて食事が楽しめます。達樹さんの手打ちパスタや地物を使った料理、さくらさんのパンやデザートを求めて、食通たちが遠方からも足を運ぶ隠れた名店です。


 そんな二人が作り出す料理は温かく、親しみやすく、丁寧、そして気取りがありません。過度に飾らない美しい料理は、素直でシンプルな生き方をしている彼らの人柄を表わしているようです。
 
 彼らが料理するときに守っている「三か条」があります。
 まず「食材の質」。当たり前ですが結局のところ、この「質」ですべてが決まるので大切です。
 二つ目が「おいしくなるように作る」。味だけではなく食べる人の年齢や好み、コース全体のバランス、時間のタイミング等、すべてが含まれて「おいしさ」になりますから、なかなか深い言葉だと思いました。香り、味の繋がり、食感に違和感がないように日々努めているそうです。
 最後は「組み合わせのシンプルさ」。コースのバランス、一皿のバランス。複雑な味にせず、引き算で料理をしていく。この三か条は毎日キッチンに立って料理するすべての人にとっても、良い心得になるのではないでしょうか。

 そんな二人が作ってくれたおむすびは、家で代々伝わってきた具材の組み合わせです。ゆかりと野沢菜のおむすび、そして味噌汁と漬物。シンプルな組み合わせですが、これ以上何も足す必要のない完結された形です。今までの取材でも感じましたが、やっぱりこのシンプルな組み合わせが最強ですね。
 
 引き算で生まれた形が「おむすび」であるならば、添える料理もまた引き算なのです。それが「おむすびの食卓」のちょうど良い加減。二人の基本姿勢でもある、「おいしくなるように作る」ためのコツなのだと思いました。


炊飯はフランス製の鉄鍋で


 イタリア料理屋にふさわしく、おむすびに使うご飯はフランスの鉄鍋で炊きます。オーヴァルの美しい鉄鍋で炊いたご飯がとても美味しそう!


 ゆかりは達樹さんのお母さまのお手製。幼いころから、よく作ってもらったというおむすびの具材です。野沢菜の炒め物はさくらさんの家に代々伝わるおかず。


形も大きさも対照的な「夫婦むすび」


 さぁ、二人が同時におむすびを握ります。達樹さんは小さな俵型のおむすびを丁寧に形よく握り、ゆかりを全体にまぶして皿へ。その隣でさくらさんは茶碗いっぱいにご飯を入れ、野沢菜漬けの炒めものを入れて大らかに握ります。


 さくらさんの肝っ玉母さん的な大きなおむすびと、達樹さんの小さくて緻密なおむすび。対照的なおむすびがとても印象的です。
 味噌汁の具材は、信頼を寄せている農家から手に入れたもの。大根の漬物と味噌は自家製です。


 形も大きさも違う二人のおむすびですが、 その両方に二人の温かい人柄と、素直で謙虚な心が現れていて、baseのお料理とも重なりました。
 
 最後にさくらさんに質問をしました。
「どんなときにおむすびを握りますか?」
「お腹が空いたときに! パンを焼く忙しい朝などにも握りますし、ちょっと出かけるとき、朝ご飯としておむすびを作って持っていきます」
 イタリアに住んでいたときの朝食は甘いパンにカプチーノだったそう。
 ところ変われば品変わる、で食文化と住む場所は密接な繋がりがあります。おむすびはさしずめ、日本のbase(根元)のような食べ物でしょうか。
 そしてその人自身を象った「オブジェ」のようなものだとも思いました。大小、形も様々だけど、そこに込められたその人自身の姿がおむすびとなって現れるのかもしれません。
 
 今年には長女「桔花」(きっか)ちゃんが産まれ、幸せいっぱいの三人のぬくもりが、このイタリア料理屋に反映されますね。ますます楽しみです。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
おむすびの心 その六

おいしくなるように作るーその心がけがおいしいおむすびを作る最初の一歩。食材、味、バランス、すべてが調和された形が「おむすび」というオブジェになる。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


base
長野県木曽郡木祖村小木曽1786
連絡先:basedal2006@gmail.com

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

バックナンバー