みんなのおむすび

第7回「かあちゃんのおむすび」

2015.11.23更新

 ほかほかごはんに好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。 なのに、口にすると不思議な満足感がーー。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けします。 今回は、西林浩史さんとそのお母さまであるきくみさんが結ぶ、なつかしいホイル包みのおむすびです。


 西林浩史さんはスケートボードなどを販売する会社を横浜で経営されていましたが、子供を育てる生活環境や食べ物のことを考えて、4年前に家族で引越しを決意。
 「畑をやるにも、生活するにも、基本は水。水が一番大事です」と語る浩史さん。
 会社は人に任せて故郷である長野に移り、今は飯綱高原のスキー場で貸しボード屋、食堂、イベント企画など様々な活動をしながら、畑で野菜を作ったり、その野菜で加工食品を作ったりと、大忙しの日々を送っています。

 学生時代に野球をやっていた浩史さんが、お腹が空くと食べていたのは「かあちゃんのおむすび」。
 今回はお母さん、きくみさんがそのおむすびを再現してくれました。
 真っ黒で、大きくて、丸いおむすび。一つのおむすびに4分の3合ほどのごはんを使って握ります。それを海苔で真っ黒になるまで覆い、アルミホイルで包めば完成。
 そういえば昔はみんなこんなおむすびでしたっけ。
 ごはんの湯気でおむすびに海苔がぺったりと貼り付いて、アルミホイルを開けると、ごはんと海苔と具の混ざり合った香りがぷ〜んとして、それだけでお腹が空いたものです。

 海苔で覆うのはお米がアルミホイルにつくのを防ぐため。昔はアルミホイルしかなかったので、お母さんの小さな知恵ですね。
 きくみさんのおむすびを食べたとき、母の手の匂いを思い出して、しばしノスタルジックな気分になりました。
 しかしまぁ、人間の五感の記憶はすごいものです。試験の前に必死で覚えた数字や言葉はすぐ忘れてしまうのに、一度でも魂に触れた食べ物のことは忘れない。

 お母さんはいつまでもお母さんであり、子供はいつまでもお母さんの子供です。その関係は大人になってもずっと変わりません。
 お母さんの作ったおむすびは、一生子供の心の記憶として残ります。そう考えると、お弁当箱にコンビニのおむすびを入れたり、冷凍食品や出来合いのお総菜を食卓に並べることはやっぱり避けたいなと、浩史さんときくみさん親子の姿を見ながらそう思いました。
 子供がお母さんの愛情をたくさんキャッチできる環境作りがお母さんの役目かしら。おむすびはそのつなぎ役だと思いました。


親子で握る思い出のおむすび


  写真に写るのが恥ずかしいと言うきくみさんに、浩史さんが「それじゃ一緒におむすびを握ろう」と提案。ふたりともやっぱり照れくさそう。


 昔から西林家ではこの2種がおむすびの具材。刻んだカリカリ梅(左)とぼたんこしょう味噌(右)。「ぼたんこしょう」は長野の伝統野菜で、ピーマンと唐辛子をミックスしたような野菜です。味噌と合う!


 左が浩史さん、右がきくみさんが握ったおむすび。きくみさんのおむすびの方が大きい! やっぱりお母さんのおむすびは懐に包まれたような安心感があります。
 これをさらに、ごはんの色が見えないぐらい海苔で覆います。これぞ日本のかあちゃんおむすび!


 「ぼたんこしょう味噌」も西林家に昔からあるおむすびです。丸く握ったおむすびをフライパンで表面がこんがりするまで焼き、最後にぼたんこしょう味噌を塗ればでき上がり。

 私が亡き母のことで思い出すのは、いつも手間と時間をかけておいしい料理を作ってくれたこと。それが結局、心と体の力となり、柱となっています。
 イタリアではお母さんの味が家族全体をまとめると言います。日本のおむすびも同じような役割を担っているのかもしれません。大人の「忙しい、面倒だ」のツケは子供に回ってきますから厄介ですね。

 西林親子の温かい関係は次の世代、孫のひなたちゃんに引き継がれていくのでしょう。大きくて丸くて真っ黒なおむすびをひなたちゃんが握るのをいつかこの目で見てみたいな。




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おむすびの心 その七

親子の絆をおむすびで! 
子どもはお母さんの料理で成長します。「おむすび力」で子どもの成長を応援しよう。
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西林浩史
「しんせつそう」ブログ
http://shinsetusou.blog.fc2.com/

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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