みんなのおむすび

第8回 ガラスの器を作る 新居百合子さんの「赤梅酢むすび」

2015.12.23更新

 ほかほかごはんに好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。 なのに、口にすると不思議な満足感がーー。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けします。今回は、食との関わりを何より大事にしているという新居百合子さんがむすぶ、「赤梅酢むすび」です。


 新居百合子さんは、吹きガラスで生活日用品を造っている方。日本を代表するガラスメーカー「カガミクリスタル」で15年間、勤めていましたが、結婚を機に大阪府箕面へ移住し、現在は自分の作品を製作する日々を送っています。
 住む環境と食を大切にしたいと、以前から畑を借りていた能勢町に移住することを決意。30年間放置されていた古民家を改装しながら、今は移住の準備中です。

「作っている人の顔が見える食材を使うことが何よりも喜びです。食に関わることはガラス製作と同じぐらい大事」と、百合子さんは地元の人に教わりながら野菜や穀物を育て、味噌、梅干し、餅、乾物など、加工品を作っています。


 白大豆、青大豆、くらかけ豆、黒豆など、百合子さんは様々な豆を栽培しています。
 「白大豆」、通称 "あぜ豆"は水田のあぜ道で育て、味噌や豆腐などの加工品に。「緑大豆」はもっちりしていて粒が大きいので煮豆にするとおいしいそうです。


 百合子さんの新しい住まいは、都会の喧噪から離れた山間の里山地域にあります。栗林があり、焚き火の匂いがする懐かしい風景。その光景が人をやさしく包み込み、温かさと懐の深さを感じさせてくれます。


 「息」が造る形が好きです、と語る百合子さん。ガラス製作は体力のいる仕事です。ガラスを溶かす温度は1200〜1400℃の熱さに耐えながらの作業のなかで、迅速に形を作っていかなければなりません。ガラス製作の技術はもちろん、持久力も必要になります。

 そんな百合子さんの重労働を支えるのが「おむすび」。百合子さんは2合のお米で4〜5個のおむすびを作り、仕事場に持っていきます。朝早くから夜遅くまで、製作中にお腹が空くと一個、また一個と食べながら仕事をするそうです。

 百合子さんにとっておむすびとは? と質問すると、少し考えてから「作ってもらうと嬉しいもの」という答えが返ってきました。
 なるほど、おむすびを食べるときはそこに何か、心を通わす相手やご褒美的な対象がありますね。おむすびは自分と何かを結ぶパイプの役割があるように思えます。人、モノ、想い、情景......、自分が共に喜び合う何かをおむすびが接着してくれるのでしょうか。

 おむすびは普段とは少し違う特別な日に作ることが多いと思います。おむすびで何かを表現したいときです。応援したり、自分の心を高めたり、喜びを表すとき。その一番身近な表現方法として「おむすび」があるのかもしれません。


手にまぶすのは梅酢


 塩ではなく、梅酢を手に付けて握ります。この梅酢は梅を漬け込むときの副産物で、下漬けした梅と赤紫蘇を本漬けするとこの汁が生まれます。ドレッシングにも使えそうですね。


 百合子さんはモチッとしたごはんが好き。だから圧力釜で炊きます。白米3合に対して大さじ1の黒米を入れます。たった大さじ1の黒米で、お米が美しい紫色に!


自家製の保存食を味わう喜び


 梅干しは減塩で作っていますが、変な甘さがなく昔懐かしい味がしました。味噌は濃い褐色をしているのですがとてもマイルド。酒粕のような香りとたまり醤油が混ざったような味で、味噌汁にすると旨い!


 「自分で作ることの喜び」を表わした食卓ですね。味噌汁の具は人参、干し椎茸、里芋、油揚げ。甘味は白玉、小豆、栗の甘露煮。庭の栗の木から収穫した栗をシロップ煮に。

 仕事と日常の暮らしを分け隔てなく、同じ目線で見ながら「モノを創る」ことに情熱を注いでいく百合子さんの姿と暮らしぶりが印象的でした。暮らしと仕事、このふたつが合わさってはじめて「工芸」が生まれるのだと実感した取材でした。



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おむすびの心 その八

おむすびはカラダと心のエネルギーとなり、支えてくれる。そして相手(人やモノ)を結び付ける接着剤にも!
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新居百合子さん
ガラス工房「百(もも)」
URL:*****準備中*****

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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