みんなのおむすび

第9回 鎌倉・ネイビーヤードの「潮風むすび」

2016.01.14更新

 ほかほかごはんに好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。なのに、口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けしています。今回は、潮風の隠し味が効いた、小野喜代治さんのおむすびです!


 鎌倉駅から徒歩8分。「ネイビーヤード」はオリジナル服と雑貨のお店です。入り口から中を覗くと、店主・小野喜代治(きよじ)さんがカウンター奥で、古い友人を待っていたかのように人懐っこそうな顔をして立っていました。

 店内は白とブルーを基調にした洋服や雑貨がところ狭しと並んでいます。土日はカフェにもなり、ときにはお惣菜とおむすびを出す「立ち飲みカウンター」になります。

「きよじぃ」こと小野喜代治さんは、大阪生まれの神戸育ち。東京のアパレル業界で仕事をしていましたが、10年前に独立し、パートナーの日高典子さんと鎌倉にお店を構えました。

「仕事をする上で大切にしていることは何ですか?」と尋ねたところ、「自然であること」という答えが返ってきました。
 着る人ができるだけ自然体になれるように、かっこつけたようにならないように服をデザインするそうです。
 細部までこだわったシンプルで気取りのないネイビーヤードの服は、幅広い年齢層から支持されています。


 運動会のときに作ってくれたお母さんのおむすび弁当が楽しみで仕方がなかった、と語るきよじぃに「おむすびってきよじぃにとって何ですか?」と聞いたところ、少し考えたあとに「めし!」と力強い答えが返ってきました。
 きよじぃにとっておむすびは、仕事し、愉しみ、鎌倉で生きていく中で、欠かすことのできない基本食なのかもしれません。


 今回、住む環境が人や文化を育てる、ということを改めて考えました。海のある土地柄と気候。町を歩いてみると、ひと昔前の空気感があり、その一方でおしゃれで粋な雰囲気が混在している。個人商店が多く、隣に住んでいる人の顔が見えるような暮らし。

 肩肘を張らず、開放感のあるたたずまいが鎌倉にはあります。そこに暮らす人を良い意味で脱力させ、大らかな気持ちにさせてくれる場所です。

 きよじぃのおむすびはとても楽しそうで、みんな一緒に楽しもうよ、という高揚感がありました。その土地が持っている空気がおむすびをおいしくさせるのですね。鎌倉の海の「潮風」という天然調味料が加わり、おむすびが一層おいしく感じられました。


「茶碗回し」で形をととのえる


 きよじぃのおむすびの基本はこの3種。「錦松梅」「ちりめん山椒」「いかなごのくぎ煮」、おむすびというと昔からこの3つが定番です。これらは横浜で購入するそう。

 ごはんはいつもこの土鍋で炊きます。半睡窯(はんすいがま)という仙台の陶芸家が作ったごはん土鍋。粒がしっかりとしたお米が炊けます。


 ごはんを茶碗に入れ、茶碗を上下にゆすりながらごはんを回します。この動作でごはんを適度に冷まし、形をととのえます。日高さんのお母さんの作り方だそう。面白い!


 きよじぃは終始、ニコニコ笑顔で丁寧に握ってくれました。


具をつけながら食べる塩むすび


 おむすびは塩むすび。中には何も入れません。佃煮、卵焼き、のりなどを用意し、食べるときに各自が好きなように、好きなだけ食べます。これは小野さんのお母さんが作るおむすびの食べ方なのだそうです。好きなものを好きなだけ、というところにワクワク感がありますね。

 波の音を聞きながらのおむすび弁当。弁当に必ず入れるという卵焼きは焦げ目をつけるのがきよじぃ流。
 最後に日高さんが「どうして海で食べる塩むすびってこんなにおいしいのかしら」と言ったのが印象的でした。

 そして、これこそがきよじぃのおむすびのおいしさだと思いました。
 塩の生まれ故郷は海。海で食べる塩むすびがおいしいのは当然のことかもしれません。潮風とおむすびの相性は抜群でした。







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おむすびの心 その九

おむすびは場所や空気感でおいしさが変化する。おむすびをおいしくしてくれる場所選びも大切!
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ネイビーヤード
http://www.navy-yard.com/

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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