みんなのおむすび

第11回 沼田みよりさんの「包むおむすび」

2016.04.11更新

 ほかほかごはんに好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。なのに、 口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けしています。今回は、福岡県うきは市在住のライフコーディネーター・沼田みよりさんのおむすびです!


 沼田みよりさんは、長男のアレルギーや喘息をきっかけに「食と心」のテーマへの関心を深め、日々の暮らしをより豊かにするための衣食住をアドバイスする「沼田塾」を主催するようになりました。古代ビーズアクセサリー作家である夫、オカベマサノリさんと、福岡県うきは市の山あいで暮らしています。


 西洋医学の薬に頼るのではなく、日々の暮らしの中でカラダと心が喜ぶ養生をしていく、というのがみよりさんの考え方。住む、着る、道具、食事......、暮らしのなかにある「気持ちいい」を提案し、形にしています。
 
 なかでも日々の食事をとても大切にしていて、野菜、発酵食品、安全な調味料を使い、だれもができるような調理を基本としています。
「腸内細菌が身体の調子や精神と大きく関わっているといわれています。腸内の環境を整えて、イキイキと動ける身体や、子どもたちの日々の気持ちを整えてあげたい。わたし自身、菌をいっぱい持っている女になりたい」とみよりさん。
 
 家族や周りの人たちのカラダと心の助けになるために、今この瞬間、自分は何をしてあげられるのか。どんな行動すればよいのか。みよりさんは常にそんな心持ちで動き回っています。その姿がとても美しく、凛として見えました。

 実はみよりさんとは以前から交流がありました。会うたびに心惹かれるのは彼女の持つ感性と洞察力です。


 相手が人間でも、モノや道具でも、みよりさんはその本質を見抜く力を持っています。より良い方向に共に進んでいくというスタンスで、思慮深く、丁寧に接しながら信頼関係を築いていきます。

 そして、その姿勢はおむすびにも現れています。
 みよりさんは、展示会などで一緒に働くスタッフや、カウンセリングに訪れた親子のために、どんなに忙しくても「わたしのお仕事」としておむすびを作るそうです。
 食べてくれる人の顔を思い浮かべながら、どんなときにも食べやすいようにと、ご飯がこぼれず、手も汚ごれず、簡単に食べられる形。メキシコの「ブリトー」に少し似ていて、作るのも食べるのも楽しい気分になります。
 いつしか「みよりん巻き」と名がついたこのおむすびは、相手を想う気持ちがそのまま形に表われたもの。大人も子どももみんな包み込む優しさと温かさがあります。


具材は発酵食品が中心


 具材は発酵食品を中心に冷蔵庫の中にあるもので。今回は(写真左/左上から時計回り)味噌+昆布+切り干し大根、鉄火しぐれ(自家製)、ふきのとう+くるみ、じゃこ、練り梅、炒りごま。
 食べてくれる人にできるだけ親しみを持ってもらえる具材を選びます。豪華な具材はあえて使いません。
 ご飯は雑穀米を入れたもの(奥)と、醤油麹+昆布(手前)を入れたご飯の2種類。羽釜やご飯土鍋で炊き上げます。


握らずクルッと巻いて完成


 一般的なおむすびと違って握らずに、手でクルッと巻くだけ。これだったら誰にでも簡単に作れそうですね。
 まな板等に海苔1枚(横長)を置き、ご飯をのせます。このとき上5cm、下3cm、横2cmほど、海苔の部分を残しておきます。ご飯の上に好きな具をいろいろのせて、指先で海苔の端に水をつけて、海苔巻きの要領でクルッと巻きます。手でご飯のところを押さえ、両サイドの海苔の部分を押さえて出来上がり。2つに切ります。


 おむすびと巻き寿司をミックスさせたような「みよりん巻き」。忙しいからこそちゃんと食べてもらいたい、という思いがこの形を作りました。
 一般的なおむすびと違い、ごはんが包まれていてとても食べやすく、具が見えるので選ぶときも分かりやすい。そして何と言っても、海苔巻き状になっているので、端から端まで具が詰まっていて、最後まで具入りのおむすびが食べられるのがいいですね。


 海苔は、市場にあまり出回っていない佐賀の海苔を仕入れているそうです。消毒を一切していません。噛めば噛むほどおいしさが出てくる海苔です。
 塩が入っている「塩壷」はみよりさんが提案し、福岡の陶芸家、石原稔久(としひさ)さんと試行錯誤して製作したもので、この塩壷に塩を入れておくと自然塩がサラサラになるという代物。味もまろやかになります。塩は調味料の基本ですから、こういう塩壷はありがたいですね。
 塩壷の上にあるのは塩麹。みよりさんはこの他に醤油麹も随時作っていて、料理をするときはこの2種類の麹をよく使って味付けをします。

 キッチンに立って仕事をする。それはどんなに大変でも、時間がなくても、ときにはやり通さなければならない仕事です。
 楽しいだけで毎日の料理はできないことのほうが多いでしょう。そんなときも嫌々ながら仕事をするのではなく、食べてくれる人のことを思い、相手が喜んでくれることを想像し、そしてそれを自分の喜びとして捉えられるかで、おいしさが違ってくるのだと、みよりさんのおむすびを食べながら思いました。
 心一つの置きどころで、なんでも違ってくるのだなぁ。



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おむすびの心 その十一

おむすびは相手を思う気持ちがあってこそ作るもの。どんなに忙しくても「わたしのお仕事」としておむすびを作る。その気持ちが相手に伝わり、心を通わせることができる。
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沼田塾
http://numatajyuku.com

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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