みんなのおむすび

第12回 ステンドグラス作家の「鶏めし&胡麻和えおむすび」

2016.06.13更新

 ほかほかごはんに好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。なのに、 口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けしています。今回は、九州の大分県でステンドグラス作家として活躍するカヨ・パティスンさんを訪ねました。



 カヨ・パティスンさんは、イギリス人の夫・スティーブンさんと、息子さん2人の4人家族。ステンドグラスを勉強するために18歳で渡英し、ウェールズの大学で建築ステンドクラス科を専攻しました。イギリス在住の頃にスティーブンさんと出会い、結婚。現在はカヨさんが生まれ育った大分県豊後高田市で暮らしながら、ステンドグラス作家として活動をしています。

 カヨさんがステンドグラス作家として大切にしていることは、「自分の中から出てくるものだけを大切にする」ということ。アイデアが出てくるまで、何日でも待つと言います。



 「自分としっかり繋がっていないとアイデアは生まれてこない」、とカヨさん。それには自分に正直になることが大切で、ときには醜い自分と向き合い、受け入れてやっと納得のいくアイデアやデザインが出てくるそうです。


 生活の中にある海の色や形、自然、音楽、本、食......。それらをいつでもキャッチできるようにアンテナを張っています。五感を凝縮して生み出されたカヨさんのステンドグラスは自由で明るく、どこかケルトの紋様にも似ています。

 海辺で拾ったガラスの欠片をはめ込んでいる作品があったり、海の光や空の色が写し出されていたりと、開放的なフォルムです。カヨさんにとってステンドグラスは心を投影させ、自分の内面を表現する「手段」なのでしょう。



 カヨさんの話で印象深かったのは、ある近所の養蜂家のおじさんの話。
 彼のところには学校帰りの子ども達がよく遊びにきて、おじさんはいつも、子どもたちにおむすびや簡単なおやつを作ってあげるそうです。ある日、誕生日に何がほしいかと尋ねたところ、ある男の子が「プレゼントよりお母さんの手料理が食べたい」と答えたのだとか。

 この話には、さすがに胸が痛みました。お母さんが子どもに手料理を作ってあげられないという現状は、都会の子ども達だけではなく、のんびりしているように見える田舎でも起こっている。深刻な状況だと思いました。

 大人はきっとおむすびのことを「大したものじゃない」と思っているのでしょう。けれど子どもにとって、お母さんのおむすびはかけがえのない手料理であり、大切な宝物なのだと思います。

 ごはんと塩さえあれば作れて、手間もかからない「おむすび」が、子どもの宝物になる。日本の伝統食、おむすびは家庭の温かさを取り戻す薬になり得るのです。小粒だけど力のあるおむすび。今回もおむすびの「役割」というものを考えさせられました。


大分の郷土料理「鶏めし」をおむすびに


 カヨさんの家のキッチンの広いこと! まるで外国にいるようです。
 家をリフォームするときに、絶対にアイランド型にしたいと、このようなサイズになりました。使いやすく、動きやすい。



 羽釜でご飯を炊き、フライパンで「鶏肉とごぼうの甘辛煮」を作ります。この甘辛煮を羽釜に入れて混ぜると大分名物「鶏めし」が完成。
 私は普段、肉、魚は食べませんが、とてもおいしくいただけました。鶏とごぼうって合いますね。



 酒屋を経営して忙しかったカヨさんのお母さんがいつも作ってくれたのは鶏めしや梅干しのおむすびでした。
 ふんわりと握るカヨさんの顔つきが「お母さん」。


すり鉢で作る胡麻和えを具材に



 胡麻和えが残ると、よくおむすびにするそうです。味は濃いめ。混ぜご飯にして握ります。胡麻和えは丁寧にすり鉢で胡麻をすって、ほうれん草と和えます。このひと手間でおむすびが一層おいしくなります。



 福岡で寮生活をしている息子さんたちにとって、おむすびは特別な食べ物だそうです。週末、家に帰っておむすびがあると大喜びで食べるそう。彼らが大人になったときに、お母さんのおむすびの思い出は心の肥料となって彼らを支えるのでしょう。
 小さな手間を惜しまない心づかいが、子どもの心身の成長を助けてくれるのですね。

 最近はおむすびを握らないお母さんも増えているそう。
 普段から、すり鉢や土鍋など、昔から日本にある台所道具を使っていて感じていることですが、昔ながらの台所道具がずっとあり続けるのには理由があります。
 おむすびにも、同じように意味があるはず。それを絶やさずに守っていくことは、お母さんの役目のひとつでもあるのではないかと思いました。

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おむすびの心 その十二

おむすびを握って「おいしい宝物」を作り、家族や友人とシェアしよう。
日本伝統の食文化であるおむすびが家庭料理から消えませんように。
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カヨ・パティスンさん
www.lugos-glass.com

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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