みんなのおむすび

第14回 和花屋さんの「季節の草花おむすび」

2016.10.11更新

 ほかほかご飯に好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。なのに、 口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けしています。今回は、京都にある和の花や山野草などのお店「みたて」で、職住一致の暮らしを営んでいる西山家のおむすびを紹介します。



 和花屋「みたて」は京都市北区にあります。店主である西山隼人さん、美華さんはこの場所で山野草と和花(わばな)を扱う花屋を営んでいます。

 80年前の町家をリノベーションした住居兼店舗は、しっとりとした静の空間に満ちた、美しいたたずまいです。無駄なものがなく、選ばれた道具たちが適所に置かれ、家全体がまるでギャラリーのよう。町家と和花がこの上なく美しく調和していました。



 美華さんは、小さいころからあこがれていた花屋で働いていたときに、隼人さんと出会って職場結婚。夫婦で花屋をオープンしました。結婚する前の職場では洋花を扱っていましたが、自分たちの店「みたて」は、和花の店にすると最初から決めていました。

 「和花は、自然の中で育つ草花です。四季折々、風や太陽の当たり具合によって、色や枝ぶりの形が変化します。ハウス栽培が主流で季節感を感じにくく、茎もまっすぐのものが多い洋花にはない面白さが、和花にはあるように思います。草花の素の美しさを活けることに、喜びを感じるようになりました」と美華さんは語ります。

 「みたて」の作品づくりでは、和菓子からインスピレーションを受けることも多いそうです。四季折々の和菓子の感性を仕事に生かしていく。日本ならでは美の視点です。
 暮らしの中に隠れているそこかしこのヒントをいかに見つけるか。日々の生活は宝探しみたいですね。

 保育園に通う万作君(3歳)にお弁当を持たせるときは、季節の葉っぱと一緒に小さな手紙を忍ばせるそうです。話を聞いただけでも温かい気持ちになりますね。
 西山家の暮らしには、いつも細やかな心と季節感を感じることができます。美華さんにとって、仕事も食も自分の想いを表現する「手段」であり、おむすびはその象徴でもあるのでしょうか。

 そんな美華さんに「おむすびとは何ですか?」と尋ねたら「安心」という答えが返ってきました。
 親から子へ伝えるもの。それは子どもが生活の中で、いつも親から何気なく受け取っているものだと思います。お母さんが想いを込めて握るおむすび。安心して前に進みなさい、というお母さんの愛情表現は、子供にとって大きな励みとなり、心の安定につながります。
 おむすびは子どもにとって心の栄養剤みたいなものかしら。親から子へ受け継いでいく大切なメッセージがおむすびの中に詰まっているのですね。



 仕事で季節の移り変わりをいつも感じているお二人。春は花、夏は真緑、秋は実もの、冬は枯れた木々の美しさ。それぞれの季節を活けることで学ぶことが多いと言います。草花の水上げには薬を使わず、醤油、酒、塩、酢、唐辛子など、台所にある調味料を使っています。



 今では珍しくなった削り節器。美華さんはこの削り節器でおかかを作ります。懐かしいなぁ。私の母も軽快なリズムでよく削っていましたっけ。「母の音」として今も耳に残っています。丁寧に作る食事は必ず人に伝わりますね。



 美華さんのおむすびの元になっているのは広島の「おにぎり屋・むさし」の山賊おむすび。大きなおむすびの中に、梅干し、昆布、シャケが入っているのだそうです。美華さんはそこまで大きく握れないので、具材はシャケとおかかの2種類を入れて握ります。




 おむすびはのり半切サイズに合わせて少し大きめ。丸みをおびた「なで肩」の三角おむすびがやさしい形です。上質なのりの、香(かぐわ)しさが漂ってきます。万作君用には、小さめのおむすびに、小さく切ったのりを巻いて。



 西山家ではピクニックに行くとき、おむすびを竹皮で包んで持って行きます。そしていつも季節の葉っぱをおむすびに添えます。
 竹皮のおむすび弁当というだけでワクワクしてきますね。ちなみにこの竹皮は仕事で花束を包むときにも使うのだそうです。



 美しい台所は美華さんの聖域。無駄なものがなく、すべての道具が美華さんの良き相棒です。「おいしい」を作る道具たちが凜としていて、嬉しそう。



 万作君は和花にかこまれ、上質な暮らしの中ですくすくと育っていくのでしょうね。どんな大人に成長していくのか、今からとても楽しみです。

 仕事、食、暮らしが円を描くように結びついている西山家の生き方、考え方にとても感銘を覚えました。
 自然に、そして線引きすることなくすべてが調和して流れていく日々の暮らし。草花や食で季節感を感じ取り、それに逆らわずに生活していく。仕事道具、食の道具、暮らし道具を宝物として丁寧に使っていく。身の回りのすべてのものが「生き方」を表しているのだなぁと、改めて感じました。
 おかわりしたくなるほど、おいしいおむすびでした。ごちそうさまでした。



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おむすびの心 その十四

おむすび、それは「安心」。
おむすびを握って「大丈夫。安心して前に進みなさい」というメッセージを伝えよう。
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みたて
http://www.hanaya-mitate.com/

お知らせ

宮本しばにさんの最新刊『野菜たっぷり すり鉢料理』が10月19日に発刊になります!
日本の台所道具・すり鉢を使った、「すり鉢料理」のレシピ集。
基本のごますりや定番のごまあえをはじめ、和・洋・中・エスニックからデザートまで、さまざまな料理に活用できます。野菜を多く使った個性豊かなメニュー揃いで、すり鉢の魅力を再発見できる一冊です。

えー、すり鉢ってこんな使い方もできるんだ! と、その活用力にびっくり。
表紙になっている「そばサラダ」から何から何まで、むちゃくちゃおいしいです。ぜひ!


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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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