みんなのおむすび

第15回 禅僧のおむすび

2016.12.14更新

 ほかほかご飯に好きな具材を合わせるだけ。シンプルで安くて、だれにでも作れるおむすび。なのに、 口にすると不思議な満足感が――。そこに秘められた "おむすびの心" を探るべく、創作野菜料理家・宮本しばにが、日本中のおいしいおむすびを巡り、レポートをお届けしています。今回は、禅僧である羽賀浩規さんが結ぶおむすびです。



 羽賀浩規さんは、岐阜県山県市にある臨済宗妙心寺派「蓮華寺(れんげじ)」の住職。京都・妙心寺の「花園禅塾」の塾頭も兼任されています。
 ここで寮生活をしている花園大学の学生(禅僧の卵さんたち)35名の指導員として、そして「蓮華寺」の住職として、京都と岐阜を行き来する生活を6年続けています。
 取材は京都・花園禅塾で行われました。禅塾内は静寂かつ凜とした空気で、心が鎮まる荘厳さがあります。無駄なものがひとつもなく、人の動きにもそつがありません。自然に背筋が伸びます。

「毎日大変です。(学生は)生ものですからね。しかし、だからこそ愉しいのです。いかに大変ななかで愉しさを見出すか。人生は先の通らないことばかりです。だったらあれこれ不平不満を言わずに『はい』と答えて全力を尽くす。そのほうが楽です。受け入れるまでは苦しみますが、薫習(くんじゅう:みずからの行為が、心に習慣となって残ること)のなかで、それが少しずつ染みこんでいきます」
 そう羽賀さんは語ります。

 人間はどうしても我を優先します。その我と闘い、そして捨てて「はい」を言えるようになるには長年の努力と内面を観る目が必要です。自分を投げ入れてしまわないと出てこない境地と、羽賀さんはさらりとおっしゃいますが、これこそ悟りですね。禅は頭で考えるのではなく、心身一体で瞬時に受け入れる訓練法だと思いました。


復興支援で握ったおむすび



 羽賀さんは子ども時代、修業時代、そして今も外出をするときにはおむすびを作って持っていくそうです。しかし本当の意味でおむすびが密接に繋がったのは3.11の大震災のときでした。
 震災のあと、岩手県大槌町を拠点にボランティアとして、塾生たちと何度も復興のお手伝いをしに行きました。
 宿と食事を自分たちで確保できることがボランティアの条件で、普段から質素な生活をしている彼らには好都合でした。5升炊きの釜と持鉢(じはつ:禅宗の修行僧が使用する個人の食器で、宗派により応量器とも言う)を持って行き、朝はお米5升を炊いて持鉢で食べ、すぐにまた5升のごはんを炊いておむすびを作り、お昼にそれを食べながら復興の手伝いをしました。
 この復興支援をきっかけに、羽賀さんの中で「おむすび」が深い意味のあるものに変わっていったそうです。

「おむすびは不思議な食べ物です。簡単に手で作れてコンパクト。おかずがなくてもおいしく食べられる」と羽賀さん。
 なるほど、たしかにおむすびはほかの料理と違って場所を選ばず、どんなときも気軽に食べられる日本の優れたファストフードですね。そして羽賀さんはこう付け加えます。「おむすびは『にぎり加減』が難しい」

 おむすびとお坊さん。一見、結びつかないもの同士ですが、おむすびは持鉢のようにコンパクトで場所を選ばず、どこにでも持って行ける便利な食糧です。シンプルで自分をそぎ落としていく禅僧の生き方にそっくりだと思いました。


おむすびをおいしくする「呼吸」と「リズム」



 羽賀さんは毎日、お昼用のごはんをこの釜で炊いています。



 毎年一回、学生たちと一緒に火伏せの神様をお祀りしている京都・愛宕山に登っているそうで、そのときもおむすびを作って持って行きます。
 おむすびにはいつも、「ひじき志ぐれ」と「梅ちりめん」、2種類の具を入れるそうです。手間をかけずにさっとごはんに混ぜておむすびを作るにはとても便利な食品ですね。



 このくらいが、羽賀さんの「おいしいサイズ」。



 おむすびに巻く海苔は、子供の頃からずっと「味付け海苔」でした。八枚切りを三方向からくるりと巻きます。はじめて焼き海苔を食べた時は味がなくてがっかりしたそうです。おむすびに塩はつけません。



 3枚の海苔を巻いたらおむすびを重ねて海苔を落ち着かせます。



 羽賀さんが子どもの頃から食べていた沢庵(たくあん)は茄子の葉っぱを入れて漬け込んだもの。独特の香りが沢庵に付きますが、それが羽賀さんのお気に入りです。
 禅食は沢庵で持鉢をきれいにします。沢庵に大切な役割があるのです。ですから禅塾でも毎年、たくさんの沢庵を漬けるそうです。

 禅僧の修行では「呼吸とリズム」を合わせなければいけないのだそうです。
 禅には正解というものは存在せず、自分で見つけていく行為ひとつひとつに意味があるのだと、インタビューしながら思いました。おむすびも同じではないかしら。呼吸とリズム。おいしくするのは自分であり、その方法は自分で見つけなければならないのです。おいしくするにはまず、気持ち良くにぎる自分の心を持つことが大切だと思いました。
「人生は回り道していい。いらないものや役に立たないものは何もないし、経験は邪魔になりません」と語る羽賀さんの言葉が心に浸みます。

 最後に羽賀さんのお気に入りの禅語を記します。
「刻苦光明必ず盛大なり」(こっくこうみょう かならずせいだいなり)
 自分を形作るのは自分である。様々な苦しいことや大変なことに耐え抜き、自らを光り輝かせ、周囲を照らそう。


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おむすびの心 その十五
おいしいおむすびを握るコツは人に聞くものではなく、自分で見いだすもの。あれこれ頭で考えずに、晴れた心で「はい」と答えて握ってみよう。
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羽賀浩規さん

臨済宗妙心寺派「蓮華寺」
http://rengeji.sakura.ne.jp
花園禅塾
http://www.zenjyuku.sakura.ne.jp

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文:宮本しばに 写真:野口さとこ

【文】宮本しばに(みやもと・しばに)
創作野菜料理家。20代前半にヨガを習い始めたのがきっかけでベジタリアンになる。結婚してから東京で児童英語教室「めだかの学校」を主宰。その後、長野県に移り住む。世界の国々を旅行しながら野菜料理を研究。1999年から各地で「ワールドベジタリアン料理教室」を開催。2014年10月には「studio482+」を立ち上げる。料理家の視点でセレクトしたキッチン道具&食卓道具のオンラインショップをスタートさせる。 著書に『焼き菓子レシピノート』『野菜料理 の365日』『野菜のごちそう』(以上、すべて旭屋出版) ほか。日本のソウルフードであるおむすびには日本独特の精神性があると感じている。売り物ではない「家庭のおむすびの心」の部分を、全国を歩きながら探索中。
studio482+

【写真】野口さとこ(のぐち・さとこ) 北海道小樽市生まれ。写真好きな両親の元、幼少期より写真に興味を持つ。 大学在学中にフジフォトサロン新人賞部門賞を受賞し、写真家活動を開始。出版・広告撮影などに携わる。 2011年、ライフワークのひとつである”日本文化・土着における色彩”をテーマとした写真集『地蔵が見た夢』(Zen Foto Gallery)の出版を機に、ART KYOTOやTOKYO PHOTOなどのアートフェアで展示される。2014年12月より、移動写真教室”キラク写真講座”を主宰している。
http://www.satokonoguchi.com/

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