ミルコの六本木日記

第36回 LIVING FOR THE MOMENT

2012.07.06更新

三年前に出版社を退社して以来、初めて文学賞のパーティに出た。
江國香織さんが「犬とハモニカ」という短編で川端康成文学賞を受賞したので、お祝いにでかけたのだ。
平成が始まった頃からのお付き合いだが、久しぶりだった。
しかしいつ会っても声も顔も髪も纏っている空気も完全なる江國香織。
「犬とハモニカ」は空港で折り重なる幾人かの人生を切り取った見事な短編で、私は読み終えるとともにスタンディングオベイションのイメージを、心の中で江國さんに送った。
江國さんは川端賞を「遠くにある美しい賞」だったと言い、江國香織らしさで抱き締めていた。

久しぶりに出る豪華なパーティ。浦島太郎だろうか、私。
けれど、行ってよかった。
仲間や作家たちとの出会いに、生まれた作品に、オークラのお料理に、感謝をあらたにする。
会社の先輩、同僚、他社のベテラン編集者さんと再会。
彼らがいまも文芸界の第一線で本をつくっているかと思うと本当にすごい。尊敬する。
唯川恵さんや角田光代さんとも久しぶりにお話でき、本気で嬉しい。もうたんなるファン。浦島だし。
三年間寝てばかりいた私であるのに、いろんな方があたたかく声をかけてくださり、ほんとうにありがたかった。

会社を辞め、すになった私が見た門出のドラマ。
授賞式では三島由紀夫賞を取った青木淳悟さん、感激と緊張のあまりだろうか、言葉をつまらせたスピーチに、彼となんの接点もない私だが、家族のようになみだぐむ。
そんな青木さんへ、賞を授与する高村薫さんの、彼に向かってのばした腕が、子どものようにまっすぐで、清潔で、見ていて胸がいっぱいになった。
高村薫さんも、唯川恵さんも、秋山駿さんも、受賞者におくるスピーチには心がこもっており、誠実で知的、いつまでも聞いていたかった。
こんな感動シーンあふれるイベントに、かつていくらでも出られる機会があった私。いまさらながらもったいない。一流作家の肉声に、輝く言葉たちに、じかに触れることができたというのに。
何もわかっていなかったなァ。
いまがわかっているわけでもないのだが。
ひとつずつ味わえば、フレッシュな感動に満ちているものだと、ボブ・ミンツァーの新譜「FOR THE MOMENT」を聴きながらバンドのリハへ。


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7月16日(月)発売の「がんサポート」8月号(鎌田實の「がんばらない&あきらめない」対談)で鎌田實さんと対談しています。

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山口ミルコ(やまぐち・みるこ)

プロデューサー、編集者として出版社で20年、現在はフリーで芸能、文芸のさまざまな企画にかかわっている。趣味は楽器演奏。「ジャズジャパン」、フリーペーパー「BIGBAND!」、富士通テンの音楽情報サイトKOBE jazz jp などにエッセイを書いている。
著書に『毛のない生活』(ミシマ社)がある。

http://kobejazz.jp/

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