ミルコの六本木日記

第38回 「~べき」はひとつもない。

2012.09.07更新

ふと気づくと、元気にしている自分がいる。
こわい。
日々の忙しさに流されて、以前に戻るのはごめんである。
病気の治療も、二度とやりたくない。
したがって私はやはりじゅうぶんに気をつけて生きなければならない。
そんなときはわざとゆっくりやってみる。いろんなことを。

スピードについて考えている。
掃除機をかけるとき、これまでのイメージの、倍の時間をかけてやってみたら楽しくできた。
楽器の練習にしても、あるていどの速さでたくさんの音符が吹けることをめざしたりするのだが、考えてみれば自分の気持ちを表現するのにそんなに音数がいるだろうか。
お茶はゆっくり淹れるとおいしいし、食事はゆっくり噛めばおいしいうえに体にもよい。
これまで当然だと思っていたスピードは、じつは違っていて、私はまだ本物の速度にたどりついていない。
これが当然だと思っていたことは何もかも当然でないのかもしれない。
そうなると、はたしてパンツは穿かなかければならないのだろうか、とか、トイレで紙をつかわなければならないのだろうかとか、あらゆることに疑念がわく。
「~なければならない」なんてことはこの世になくて、あらゆるものは朽ちてゆくし、自分にとっての真実を見きわめてゆくほかないのかもしれない。
「~べき」はひとつもない。
森瑶子さんに取材したとき、そうおっしゃっていたことを、よく思い出す。


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山口ミルコ(やまぐち・みるこ)

プロデューサー、編集者として出版社で20年、現在はフリーで芸能、文芸のさまざまな企画にかかわっている。趣味は楽器演奏。「ジャズジャパン」、フリーペーパー「BIGBAND!」、富士通テンの音楽情報サイトKOBE jazz jp などにエッセイを書いている。
著書に『毛のない生活』(ミシマ社)がある。

http://kobejazz.jp/

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