ミシマガシネマ

 今月の映画部には、なんと!
 顧問である恵文社一乗寺店店長・堀部さん、京都・木屋町にある「立誠シネマ」スタッフの塩出さん、趣味は映画の字幕制作という装丁家・矢萩多聞さんの強力な3人のメンバーが増えました。
 なんと塩出さん、多聞さんは「映画部に入りたい!」と立候補。うれしいですね!

 今月はいったいどんな映画が出てくるのか......
 週末の息抜きに、仕事帰りの癒しに、なにかとにかく映画を観たい! という方に、映画部部室トークを、今日ものんべんだらりとお届けします。

<今回のメンバー>
     

*簡単紹介
ホリベ...顧問(恵文社一乗寺店店長・堀部さん)、タモン...装丁家・矢萩多聞さん、シオデ...立誠シネマスタッフ・塩出さん、ヒラタ・ハセガワ・アライ...ミシマ社メンバー

2015年6月 今月の一本

2015.06.18更新


 前回は3人だったのが、今月は一気にメンバーが増えました。嬉しいですね。


 たくさんいるとテンションがあがりますね。ではまずは早速、顧問・堀部さんから最近観た映画でよかったものを教えてください!

 僕は最近だと、ポール・トーマス・アンダーソン(通称PTA)監督の最新作『インヒアレント・ヴァイス』を観ました。『グランド・ブタペスト・ホテル』などで知られるウェス=アンダーソンと、このポール・トーマス・アンダーソンの「アンダーソン監督」は、一番好きな監督たちです。これは、トマス・ピンチョンの作品『L.A.ヴァイス(原題:インヒアレント・ヴァイス)』を原作にした映画なんですね。なんというかまあ、とにかく、わけのわからん映画です。

全員ええ〜!(笑)

©2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC, AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC ALL RIGHTS RESERVED


 60年代から70年代初頭、ヒッピーカルチャーやカウンターカルチャーなんかの若者文化が徐々に陰りを見せ始めた時代を舞台にした、私立探偵ものです。PTAの前作『ザ・マスター』でも主役を演じたホアキン・フェニックスが、ちょっとC調で、ずっとマリファナ吸って、ラリってる探偵を演じています。この探偵がいろんな陰謀に巻き込まれるんだけれども、この陰謀の構図というのが、カウンターカルチャーVSエスタブリッシュメントという分かりやすい構図ではないんですね。カウンターカルチャーみたいなものは、結局、彼らが発信しただけじゃなくてものすごく入り組んだもので、陰謀というものは起こっているんだけれど誰に起こされたのかはわからない、しかもホアキンはずっとマリファナ吸っている、という......脚本がすごくわかりにくいので、大失敗作と言われてます。アメリカでも打ち切りになったりとかしていて。

 なんか全然オススメしていないという感じですけど(笑)、そういう監督なんですよ。わかりやすい話ではなくて、なんじゃこりゃ? というような作品がすごく多いんだけれど、重厚で人間の描き方も素晴らしくて。フィルムの映像も綺麗だし、音楽のセンスもめちゃくちゃいい。『パンチドランク・ラブ』とか他の作品から見てもらって、PTAの感じというのがわかれば、世界観を味わえるかなと思います。僕はもう、PTAの新作というだけで観に行こうと思えるというか。筋がわかりやすくてストーリーが面白い=いい映画というわけではない、という、なんというか映画っぽい映画を撮っている監督だなと思います。

インヒアレント・ヴァイス
公式サイト http://wwws.warnerbros.co.jp/inherent-vice/
4月18日(土)より全国順次公開

*京都みなみ会館では、7月29日より公開。「ポールトーマス・アンダーソン 特集ナイト」も開催されるとか!



 私の今月の一本は、河瀬直美監督の『あん』です。話も演技ももちろん素晴らしいんですが、それ以前に、光や音がすごくよくて。木がざわわと揺れている音だったり、蛇口から水が出ている音だったり、そういう普段気にもかけないような音が印象的な映画だったなと思います。
 永瀬正敏演じる千太郎はどら焼きやの雇われ店長で、お客さんも中学生とかがおやつに買いに来るくらい。特段やる気もないし、単調な日々を送っていたんですね。そこに樹木希林演じる徳江さんがやってきて、「ここで働きたい」と渡されたあんこがめちゃくちゃおいしくて。そこから千太郎は徳江さんの時間の流れに引き込まれていくんですけれど、実は徳江さんはハンセン病の元患者だったということがわかって......という話です。

©2015 映画『あん』製作委員会/COMME DES CINEMAS/TWENTY TWENTY VISION/ZDF-ARTE


 ハンセン病の話はもちろんテーマの一つでもあるんだと思うんです。そうなんだけれど、日々生活したり生きていくなかで、自然のなかに人間がいる、ということ、なにか成功したりとかやり遂げたとかそういう以前に、まず生命を持ってそこに生きている、ということをすごく感じる映画でした。あんこを作るために使う小豆にも、自分の手元にきてくれた「小豆」に対するおもてなし、というふうに徳江さんはあんこを作っていて。煮立てている小豆の灰汁をとるシーンなんて、動きは少ないし何もないんだけれど、一つひとつの所作を時間をかけて丁寧に映像で撮られていて、すごくいいなあ、と思いました。

あん
公式サイト http://an-movie.com
5月30日(土)より全国公開



 おすすめというとすごく難しいんですが、最近観た映画のなかでよかったのは、『サンドラの週末』という、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌというダルデンヌ兄弟の監督作品です。
 『サンドラの週末』は、現代のベルギーが舞台です。病気でしばらくお勤めを休んでいた一人の女性・サンドラが、ようやく復職できそうなタイミングになったところ、経営が厳しいから、彼女が復職をするか、チーム全員がボーナスを諦めるかどちらかだ、という選択を迫られるところからはじまるんですね。そこでいきなりくじけてしまうんですが、夫の支えや仲の良い同僚の励ましによって、みんなにボーナスを諦めて、私の復職のほうに投票をしてください、と週末を使って同僚の家を訪ねていく、という話です。

©Les Films du Fleuve -Archipel 35 -Bim Distribuzione -Eyeworks -RTBF(Télévisions, belge) -France 2 Cinéma


 本当に身につまされるというか、すっごくリアルなんです。くじけそうになるところとか、ひとりひとりに歯を食いしばって会いに行って、ちょっとしたエピソードで気持ちがあがったり「もうだめだ」となったり、社会経験がある人は誰でも共感ができるんじゃないかなと思います。サンドラ役のマリオン・コティヤールの演技も素晴らしいし、社会的なテーマをうまく映画にしているヒューマンドラマです。そういう選択を迫られたときに、人はどういうふうに生きていくのかというのを見る人側にも突きつけてくるような映画でした。みんなにも見てもらって、語り合いたいなあと思うような作品です。

サンドラの週末
公式サイト http://www.bitters.co.jp/sandra/
Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、京都シネマほか全国公開中



 わたしの今月の一本は『セッション』です。よかったという表現がいいのかわからないんですが、映画館に行かないと意味がないと言ってもいいんじゃないかなと思いました。音や迫力が、映画館でないと勿体ない!
 ニーマンという19歳の男の子が、名門音楽校に入って、ドラマーとして研鑽を重ねているところ、ある日名門ジャスバンドの鬼教師にスカウトされて、友だちも少なくてやぼったい感じだったところから、一気に晴れがましい場所へと出て行って......という話です。ニーマンは練習もすごくがんばるんだけれど、とにかく厳しくて練習中にビンタとか普通にされるんです。ドラムを投げられたり、蹴られたり、練習しすぎて血まみれになったりするんですよ。シンバルの上に血がポタッと落ちたり......もはやホラーです(笑)。本当に終始眉間に皺がよる感じというか! あっという間で、見終わったあとはぐったりしました。もう一度観たいくら良い映画だったんだけど、あれだけ消耗すると思うと二度と観たくないという感じでした(笑)。あ、褒めてるんですよ、もちろん!

(C)2013 WHIPLASH, LLC. All Rights Reserved. 配給:ギャガ

 僕も観ました。音楽版のスポ根漫画をリアリズムタッチで撮ったような感じでしたね。血まみれになりながら床を這ったり、半分ギャグやなと思って僕は笑ってしまいました(笑)。けれど迫力はすごかったですよね。

セッション
公式サイト http://session.gaga.ne.jp
4月17日(金)より全国公開



 わたしは『チャッピー』を紹介します。近未来の南アフリカが舞台。デーヴ・パテール演じる超優秀エンジニア、デオンが作り出した警官ロボットの普及によって、だいぶ治安が安定してきたところ、デオンが学習型の人工知能を開発します。それで廃棄になる予定だった警官ロボットに、そのAIを入れてしまう。このAIが入ったロボットが「チャッピー」なんですが、チャッピーははじめは人間でいう赤ちゃんみたいなもので、何も知らない状態なんです。このチャッピー、ギャングに誘拐されて育てられるんですけど、ギャングが使う言葉遣いを覚えたり、ギャングみたいな歩き方をするんですよ。

 それまでの警官ロボットは演繹型なので、こういう場合にはこういうことをしろ、というのが組み込まれているんですよね。でもチャッピーは機械学習型AIなので起動直後は赤ん坊同然。ゼロから、環境によってどんどん自我みたいなものが出てきたり、成長していくロボットなんですよね。

© 2015 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

 そしてそのチャッピーを作り出した天才エンジニア・デオンをものすごく妬んでいる別のエンジニアがいて、その嫉妬やギャングの争いに、チャッピーもデオンも巻き込まれていって......という話です。

 大事なのは、このデオンを妬んでいる、ヒュー・ジャックマン演じるムーアが設計している警官ロボットというのは、人間が操るリモートコントロール型のロボットだというところです。それと人工知能のチャッピーとの能力的な争いにもなるんだけれど、チャッピーは人を超越したような存在になっていくんですよね。まさに独立研究者・森田真生さんが「数学ブックトーク」で話してらっしゃった世界にも通じる話です。

 エンタメ映画であり、人工知能と人間の複雑な問題を扱ってもいつつ......ニール・プロムガンプ監督の作品、面白い! もうこれはね、とにかく観てください!(笑)

チャッピー
公式サイト http://www.chappie-movie.jp
5月23日(土)より全国公開



 僕は『イマジン』というポーランドの映画を。アンジェイ・ヤシモフスキという監督の作品です。リスボンの町中の、視覚障害者のための診療所が舞台。そこには子どもから20代の人たちが暮らしているんですが、ある日、一人の先生がやってきます。彼も目が見えないけれど、絶対に白杖を持たないで歩くというこだわりを持っている。なのに、まるで見えているかのように歩くんですね。生徒がいたずらして、通り道にものを置いていてもわかる。なぜわかるのかというと、舌を鳴らしたり手を叩いたりする、その音の反響音でどこに何があるのかを探りながら歩いているからなんです。もっと感覚を研ぎ澄まして想像したら見えるんだ、と、その方法を診療所の子どもたちにも教えようとする。隣部屋の盲目の美女との恋もあって、二人で杖なしでデートもする。けれど、診療所側からは、白杖なしでは患者にとって危険だ、と反対されはじめる......。

Ⓒ ZAiR


 俳優の演技もいいのだけど、とにかく、音がすごいです。ふつうに暮らしているシーンを撮ったときに、その音は入らないよね、という音がいっぱい聞こえる。目が見えていると、視覚の情報が多いから、それをもとに遠い音・近い音の演出もするじゃないですか。その距離感がぐっと変わってしまう。撮られている映像も、人物のアップか、ごく周辺しか写していないんですよ。フレームアウトした世界は音で想像してください、という映画なんです。それがラストシーンにきいてきて、もうね、このラストのためにこの演出だったのか...!という感じです!

全員み、観たい・・・・・・・!

イマジン
公式サイト http://mermaidfilms.co.jp/imagine/
4月25日(土)より、渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開後、全国順次公開





・・・


 今回は一気に人も増えて、すごい盛り上がりましたね!



 堀部顧問とミニシアタースタッフという最強コンボですね。


 ぜんぶ、観たい映画ばかりです......。映画館ハシゴしても、したりないですね!


【次回予告】
次は、みんなでひとつの映画を見る!というお題をもうけ、その映画について話します。
テーマとなる映画は、現在公開中の『トゥモローランド』!一緒に話し合いましょう〜!

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

ミシマ社 映画部

2015年、映画をもっと楽しもうと、ミシマ社有志で発足。
ミーハーながらも、映画の面白さを共有できれば嬉しいなあと思っています。
たくさん映画観るぞー!

バックナンバー