ミシマ社の話

理想と現実、理論と実践、表と裏、S(出版社)とM(ミシマ社)......。「出版社をつくる!」、「ミシマ社のばあい」という二つの視点から、100年後のミシマ社メンバーに向けて、「ミシマ社が目指すもの」を語る。

第7回 原点回帰の出版社(2)

2009.10.06更新

ミシマ社のばあい(5)―― 原点回帰を志す

この10月。
おかげさまでミシマ社も創業3周年を迎えることができました。この3年間、かかわっていただいたすべての方々に心から感謝しております。
本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いいたします。

この間、お世話になった方の数はもはや数え切れないくらい多い。
このミシマガジンやミシマ社の公式ホームページをつくってくれているミノハラさんもその一人。初めてお会いする方のなかには、「いいサイトですね」「ホームページを見て、ミシマ社が好きになりました」とか言ってくださることも多いが、それもすべて彼のおかげ。僕自身は、ネットのことはまるでわかっていないのだから。

今でこそ、"そういう"人に褒めていただけるサイトだが、創業したての頃、一時的に「すごい」サイトであったことを知る人はほとんどいない。
白の背景に、テキスト文字が並んでいるだけ・・・。
それも数行・・・・・・。

どうしてそんなことになったかというと、僕が友人のアキラに「無理やり」頼んでつくってもらったから。彼は、ネット業界で活躍してはいるものの、ネットの「制作者」ではない。ディレクターとかそういうふうに呼ばれる仕事らしい。

らしい、というのは、実のところ、よくわかっていなかった(今もよくわかっていない)。
よくわからないものだから、「(ネット関係だし)きっと彼ならできるにちがいない」ということでお願いした。
それで、しぶしぶ、つくってくれたのだ(今でもたいへん感謝している)。

とにかくそのときは、一日も早くホームページを立ち上げたかった。
というのも、一冊も本を出していない出版社にとって、ホームページだけが社会との唯一の接点だと思っていたからだ。そして、それは名刺代わりになる存在でもある、と。

作業は、彼の京都の部屋でおこなった。
「ヘッドに入れる言葉どうする?」
「んん? 何? どこに入れるの?」
「ホームページを立ち上げたとき、一番上にコピーが入ってるやろ。会社名だけでもいいけど、たとえばアマゾンなら『通販 ファッション、家電から食品まで』ってあるやろ」
「なるほど。んじゃ・・・」
と、口をついて出てきた言葉がこれだった。

「原点回帰の出版社、おもしろ、楽しく!」

そう声に出して言った瞬間、キーボードを打つアキラがかすかに笑った。
「んん。なんか変、かな?」不安気に言う私。
「いや、ええと思うよ」
あら。いいんだ。これで。「もうちょっと会社らしくしたら」とか言われそうでちょっぴり不安だったのに。
「いいんちゃう」
こっちの心を見透かしたかのようにアキラは念押しをしてくれた。

「よし、これでいこう!」

ぽちっ、とアキラがボタンを押す。この瞬間、ネットという広大な宇宙空間に、mishimasha.comという小さなちいさな命が浮かびだした。

「・・・けど、ちゃんとした人にサイトはつくってもらうほうがええよ」
とにかくスタートできて満足する私を尻目に、アキラはまっとうな助言も忘れなかった。

その後、しばらくして、デザインをミノハラさんにお願いし、いまのホームページの原型ができあがる。
新刊本の紹介ページ、インタビューページなどの「あそび」ページ・・・いろんな要素を盛り込みたくなるなかで、ひとつだけ会社として欠くことのできないページがあった。

「会社概要」。

つまり、それがどんな会社であるかを知るために、ユーザーが最初に訪問するページだ。
会社の肝となるページ。そして、「これから」の命運を決めるページ。
それだけに、プレッシャーはあった。

ミノハラさんからも、「早く書いてください。ここができないと、サイトをスタートできませんから」と何度か言われた。

「はい、やります・・・」と言ったものの、ずるずると数日がすぎていった。
この時期、本の発売元が決まりかけ、いよいよ、「モノ」が動きだそうとしていた。編集作業は急ピッチで進み、発売元とは売り方から条件の詰めまで、連日打ち合わせがつづいた。その合間をぬって考えた。

「どうして、原点回帰の出版社にしたいと思ったのか?」、と。

原点――。
少なくとも僕にとっての出版の原点は、小学校時代にさかのぼる。

子どもの頃から、とにかく、本が好きだった。
じっとしているのは嫌なくせに、本を読んでいる時間は無上に楽しいものだった。
ある日、どうしても読みたい本が出てきた(タイトルは全く覚えていないのだけれど)。

それでいくつかの本屋さんに行って、「ありますか?」と聞いたところ、「ああ、もうないわ。絶版やなぁ」と言われた。
(ぜっぱん?)
そのときの違和感は今も強烈に覚えている。
(ぼくは読みたいのだ!)
(どうして、読みたい本が読めないのだ!)
正直、意味がわからなかった。

ある日、『アンクル・トムの小屋』の分厚いノーカット・バージョンを読みたくなった。
それで近所の"町の本屋さん"に行って「ありますか?」と尋ねた。
すると、「ああ、ないなぁ。注文しよっか?」というので、「お願いします」と答えた。

「ほな、来たら連絡するわ。たぶん、三週間くらいかかると思うけど」
(さ、さんしゅうかん!?)
「なんでや、おっちゃん。本はあんねんろ。取りに行って、もらってきたら、そんな時間かからへんやろ。田舎のおばあちゃんが、"ちゃんぽん麺"送ってくるときでも、二、三日やで」
「本はちがうんや。取次ぎというところに注文してやな・・・」

本屋のおっちゃんは、たぶん、取次ぎ店から書店に至るまでの流通システムのことを、わかりやすく説明してくれたのだと思う。
けど、小学生の頭にはチンプンカンプンだった。
ただ確実に覚えているのは、「それは、おかしい」と子どもながらに確信し、軽く憤ったことだ。

絶版にもなっていない本が、何週間も届かないというのは、どう考えてもおかしい。
とてつもなく簡単なことを、「小学生でもわかることやろ」と大人は表現することがあるが、それはまさに「小学生の僕でもわかる」ことだった。

そういうことを思い出しながら、「原点回帰の出版社」としての設立の言葉を考えた。そしてある日、移動の最中に、ざざっといっきにノートに書き付けた。

「一冊の力を信じること」

こうして、会社概要の言葉はできあがった。

原点回帰の出版社、スタート
1.出版活動を通じて、「世界を面白くする」ことに貢献する
2.読者の方々と「つながる」ことを何よりも大切にする
3.「明るく、面白い出版社」をめざした会社運営を心がける

一冊の力 設立の言葉にかえて
子どものころ、気づけば周りには、いつも本がありました。
絵本、漫画、探偵モノ、伝記・・・・・・ジャンルを問わず、読むと必ず、「新しい世界」に出会うことができました。
たとえば、『少年少女の伝記 シュバイツァー』。
「生命への畏敬」をかかげ、生涯、医療活動に従事したその生き方に、子どもながらに感銘を受けました。そして、まだ見ぬアフリカの大地へと思いを馳せたのを、今も鮮明に覚えています。
本は、自分と新しい世界とをつなぐ、大切なもの。まさに友だちでした。
思えば、そのころ、出会う一冊、一冊が自分の可能性を広げていってくれたような気がします。

歳を重ねるにつれ、出会う本の種類も増えていきました。小説、新書、ミステリー、実用書・・・・・・現実世界で生きていくための「知識」や「考え」に触れることができました。

私にとって本は、素晴らしい先生であると同時に、よき友人でありつづけています。

「一冊」が育む、想像力、生きる力。
そして「一冊」とわかちあう無上の楽しみ・・・・・・。
本には、そうしたかけがえのない出会いを生み出す力があります。

小社では、「一冊の力」を信じ、本づくりに従事します。

思いをこめた本は、子どもから大人まで、世代を問わず楽しんでいただける。
読んだ人たちが、ちがう世界へと羽ばたくことができる。
たった一冊で人は成長できる。

「一冊の力」を信じること――これが小社の考える原点回帰です。
かけがえのないこの一冊を通じて、皆様にお会いできますことを心より楽しみにしております
2006年
株式会社ミシマ社 代表 三島邦弘

この言葉は、最初に掲載して以来、一度も変えたことがない。
今もまったく同じ思いだ。

・出版を通じて、「世界を面白くする」ことに貢献する

そうした思いから今年、寺子屋ミシマ社というワークショップを始めた。

・読者の方々と「つながる」ことを何よりも大切にする

この思いの根底には、自分が子どものころ「読みたい本に会えなかった」悔しさがある。
「読みたいものが読みたい」
「面白いものを読みたい」
こういう読者のかけがえのない気持ちに「応える」ことが、出版社にとって「原点」ではないか。一冊の力をひたすら信じて。

3年たった今、その「思い」をどれだけ実現できたかというと、多少心もとなくなる。
だが、現状での「できてなさ」を含めて、「思い」はますます強くなっている。
だから、これから何年かかろうとも、実現していかなければいけないと思っている。

Just do it.
4年目――。あとは、やるだけだ。

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三島邦弘(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。1999年大学卒業後、PHP研究所に入社。単行本の編集者となる。2003年退社後、東欧などを旅する。同年10月、別の出版社で編集活動を再開。2006年10月株式会社ミシマ社を単身設立。「原点回帰」の出版社を標榜し、編集・営業・仕掛け屋などチームの枠を超え、「出版は全身運動である」という思いのもと、日々、奔走中。
「ミシマ社のblog」もがんばって書いてます。

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