ミシマ社の話

第35回 いったい、これはなんの本?

2011.08.05更新

前回の最後に予告をしました。
「次回は、オープン化した組織におけるルールについて考えてみたい」
当然、今回はこのことから始めるべきでしょうが、いまこれを書いている時点では何も思いついてません(申し訳ないです・・・)。というのも、前回の掲載直後から事態が急変したのです。

おかげさまで本年10月に、創業5周年を迎えることができます(これについてはあらためて)。
そしてそのタイミングで、他社の編集者と話していた流れから、急に、この5年間のミシマ社の活動をベースにした本を出すことになりました。で、この1カ月は、一日の休みもなく、書いて書いて書きまくっていました。当然のことながら、平日はほかの仕事がありますもので・・・。

最初は何を書けばいいのだろう、と戸惑いもあったのですが、書き、考え、書き、考え、をくりかえしているうちに、こんな感じの本になりそうな気がしてきました。

「小さな総合出版社・ミシマ社らしい本」

つまりは、どのジャンルにも属し、どのジャンルにも属さない、ボーダレスな一冊。
そんな本があったら、自分も読みたいですし、そういう本を目指したいなぁと思いました。
一度そう思ったからには挑戦しないわけにはいきません。
というわけで、本書の可能性をいろいろと妄想してみました。

(ケース1) ビジネス書ととらえたばあい――。
「ミシマ社が創業した2006年、出版社の数は前年より122社減、創業は11社。あれから5年、出版不況といわれるこの時代にあって、いかに逆境を跳ね返してきたのか? 閉塞感漂う現代の風穴を破る一冊!」
こんな宣伝文句になるんでしょうか。「これまで」のやり方にとらわれないで、「これから」のやり方をとったからこそ会社は存続しえている。その「これからのやり方」を紐解く一冊。なんてふうに。

角度を少しずらし、
(ケース2) エンタメ系ノンフィクションをめざしたばあい――。
「メンバー全員が全チーム所属。「野生の感覚」を大事にするのはいいが、みんな突発的行動のくりかえし。あらゆる販促物は手書き。出版社なのに誰一人、Macも使えない。すべての会議はちゃぶ台で。築50年の一軒家オフィスの庭には柿ノ木・・・ほんとにここは出版社!? ありえないドタバタな日々を痛快に描いた本」
「痛快」かどうかは置くとしても、このようなコメディタッチの読み物にはなる可能性はありますね。

一転、
(ケース3) ハードボイルドな手記ととらえると――。
「周りの反対を押し切り、単身起業。すぐに訪れたどん底の日々。。『あのとき決断していなかったら、自分は死んでいたと思う』・・・誰にもいえなかった孤独の時間をはじめて告白」
(笑)。自分で書いていておかしいです。

さ、気分を入れ替え、
(ケース4) ほっこりエッセイとしたばあいを考えましょう。
「ある日はねずみの大運動会。ある日は庭で野菜栽培。もちろんお昼はちゃぶ台かこんでお弁当。学生さんやらいろんな来客が来てはみな口をそろえて言う。「おばあちゃんちに来たみたい』。殺伐となりがちな出版社にあって、驚異のほっこり感をかもし出す、自由が丘のほがらかな出版社。その日常をつづったエッセイ」
うん、これは「あり」な気がします。「おばあちゃんちに来たみたい」は、来客者のほぼ全員がぽろっと言うセリフですし、「がつがつしてないこの空気は珍しいですね」とも、よく言われますし。

さて、ちょっと背伸びして、
(ケース5) ミステリーととらえてみることは?
「事業計画がない? しかも、金融からも一度として一円も借りたこともない? それでどうして会社はまわっているのか。原点回帰の出版社に潜む「謎」。いま、一枚一枚そのヴェールがはがされていく」
これいいなぁ。というか、気になる。自分でもわからないことなので、すごく知りたい。

最後に、あえて
(ケース6) 自己啓発書として見てみると。
「会社も個人もうまくいかなくなると、すぐに「計画的」になろうとする。目標を定め、無駄をなくし、「きっちり」やろうとする。けれど、実はそれは逆効果。よくないときこそ「無計画」に。そのほうが、自分の感覚がぞんぶんに活かされ、元気も沸く。感度が高まり、元気があふれる状態にすること。優先すべきは、こっちでは?」

まあ、好き放題、妄想してきましたが、本音をいえば、上記に書いたような要素をすべて入れ込んだ本にしたいと思っているんです。けっこう本気で。
もちろん、そんなことが可能か、と問われれば、わかりません、というほかありません。
けれど、挑戦だけはしてみようと思います。

本来、本にジャンルはない。便宜上分けているにすぎず、本はあくまでも本。
いつもは、編集者として、その本の持っている可能性を最大限に探りたいと思っていますが、今回は書くほうの立場から探ってみたい。
すくなくとも、一冊に無限の可能性を信じるところから始めたい。
魂をこめた本は必ず伝わる、そう信じて。
そうした本をめざすこと自体が、小さな総合出版社を謳い続けている「ミシマ社的」でもあると思います。

と、心意気は軒昂そのものですが、いったいどうなることでしょう。
現在、3百枚くらいまでは書きましたので、次回、タイトル案とともに、その一部を公開したいと思います。
本人的にはけっこうおもしろくなったと思ってるんですけど。いやはや、はたして。

最後にひとつだけ。
今回書いてみて痛感したのは、書き手にとって編集者の存在ってなんて大きいんだ、というものでした。
1カ月ほどでここまで書ききることができたのは、ひとえに伴走してくれた編集者の方のおかげです。

編集者の方が待っているから、その人ならわかってくれるはず、という絶対的な信頼感があるからこそ、上記のようなむちゃな企画であっても、やりぬこうと思えました。
そういう意味でも、この1カ月の最大の成果は、自分の本業である編集という仕事の本質を違う角度から体感できたことかもしれません。
この経験から得た感覚を今後でるミシマ社の本に詰め込んでいきたいと思います。
そして、もっともっと、著者の方からの「魔球」をキャッチできる編集者でありたいとも思いました。

「一冊」への入魂量を増しつづけるミシマ社本、これからも、どうぞご期待くださいませ。

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三島邦弘(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。1999年大学卒業後、PHP研究所に入社。単行本の編集者となる。2003年退社後、東欧などを旅する。同年10月、別の出版社で編集活動を再開。2006年10月株式会社ミシマ社を単身設立。「原点回帰」の出版社を標榜し、編集・営業・仕掛け屋などチームの枠を超え、「出版は全身運動である」という思いのもと、日々、奔走中。
「ミシマ社のblog」もがんばって書いてます。

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