ミシマ社の話

第49回「原点」だけに徹するのだ。

2013.10.06更新

 2013年10月1日。ミシマ社は創業7周年を迎えることができました。

 この日、この瞬間を迎えることができたのは、7年の間にミシマ社から刊行しました「一冊一冊」にかかわってくださった全ての方々のおかげです。
 この「一冊一冊」は、書いてくださった著者の方々の、本屋さんで買い求めてくださった読者の皆様の、「一冊」「一冊」の結晶にほかなりません。大げさではなく本当に。
 書く、つくる、デザインする、送る、届ける、読む、感想を言う・・・そのどれかひとつが欠けたとしても、「この瞬間」はなかったろうと思います。

 というのも、ミシマ社は企業からスポンサーなどつけておらず、本屋さんで本を買っていただいてこそ活動をつづけていけるからです。今年の4月からは、「みんなのミシマガジン」を運営するため、個人サポーターを募っておりますが、企業から金銭という形でサポートを受けておりません(紙と印刷は、製紙会社さんと印刷所さんからプレゼントいただいています!)。
 いずれにせよ、ミシマ社の本を買ってくださるお一人おひとりに支えていただいております。その結果としてこの7年がありました。
 かかわってくださった全ての方々へ、全身全霊、感謝いたします。
 本当にありがとうございました。
 
 8年目の朝、東京・自由が丘と京都のメンバー七人で話しました。
 「これからはお世話になった方々へ、恩返ししていきたいです。そのためにも、7年前に掲げたとおり、『原点回帰の出版社』に徹しましょう」
 あえてこう言うのには、この数年の経験が大きく影響しています。
 紆余曲折を経て、「原点」一点に集中せねばならない、と痛感するように至ったのです。
 というのも・・・とつづける前に、ミシマ社がめざしている原点回帰についてまずはふりかえります。

 一冊を通じて世界をおもしろくする――。
 これは、創業時よりHPに掲げている言葉です。原点回帰にこめた思いのひとつでもあります。
 あくまでも「おもしろく」であり、「良く」ではありません。
 (「良い・悪い」を言い出すと、「正しい・正しくない」という論に流れてしまい、対立構造を生みかねないですから)
 「おもしろい」とは、完全に個人的なものです。その人がおもしろいと感じるかどうか。それが全てなわけで、ある一元的価値観からおもしろいを定義づけることは不可能です。良いも悪いも、正しい正しくないも関係ありません。多種多様、千差万別、百人百様の「おもしろい」があるだけです。

 ただ、どの「おもしろい」にも、それに触れたとき次のような感覚が生じるように思います。
 なんだか心地よくなったり、気持ちよさを感じたり、身体が踊り出したり、心がうきうきしたり、あるいは震えたり、生命力が沸き立ったり・・・。
 「おもしろい」に人が触れたとき、生命の中枢的なところに響いてくるはず。
 僕はそんなふうに感じています。
 そして、そういうおもしろい本を発刊しつづけようと思えば、自分たち自身がいきいきとしていなければいけません。とも思います。
 その活動を通して、よりうきうきするか、生命力が沸き立つ感覚をおぼえるか。

 その意味でいえば、僕個人でいえば、編集者として、未知なる一冊に取り組んでいるとき、まちがいなくパワーが湧き出します。
 この数年、結果的に、いろんなことに取り組んできました。
 京都府城陽市につくった「ミシマ社の本屋さん」の店長、(実現しておりませんが)企業系の本づくり、東京と京都の二拠点での会社運営(マネジメント的なもの)、講演・ワークショップ・イベント・・・どれもこれも、まちがいなく勉強になりましたし、楽しい時間でした。やってよかった、と思っています。特に、「ミシマ社の本屋さん」は、直接読者の方々と接することができ、お声を聴くことができ、かけがえのない時間を共有することができました。そして、その時間は間違いなく、「これからの本づくり」にとてつもない励みとなっています。
(こんなに楽しみにしてくださっている方がいるんだ!)
 「顔の見える読者」が文字通りいてくださることは、嬉しさとともに、この方たちのご期待に応えなければいけない、という張りに直結しています。

 ・・・そうなんです。
 おもしろいが百人百様なのと同様、もっともパワーが出る「原点」も職業、職種によって違うはずです。
 僕たちミシマ社でいえば、未知なる「おもしろい」一冊に挑戦しているときこそ、エネルギーの原点といえます。
 「小さな総合出版社」を運営する僕にとって、もっとも力が沸き立つのは、「次」の本へ向かっているときにほかなりません。読者の方々にお会いして、直接いただいた励みなども、「次」へ生かそうとするとき、何倍、何十倍にもなった活力として現れてきます。もちろん、本屋さんをよりよくしたいという思いも同時に思うのですが、いかんせん、身はひとつ。どちらも、と思っているうちに、もとより大したことのないエネルギーが分散することになっていたのです。

 そのことをこの数年の紆余曲折を経て、痛感しました。

 その意味で、「原点回帰」に徹しようと、8年目の朝、みなで確認しあったのです。
 自分たちがもっとも活力のでてくる仕事を集中することで、かかわる人たち、読んでくださる人たちの活力も湧いてくる。
 そうありたいと思います。

 最後にひとこと。
 上記のことを実現するために、ビジネスの世界で言う、いわゆる結果(主に数的なもの)も大切にしようと話し合いました。
 パワーが沸き立って、沸き立ちすぎて、ぽしゃん。
 じゃ、いくらなんでもマヌケすぎますから。
 そうならない、いや、そもそもそんなことにならず、逆に「結果」でみてもとてもいい、そういう状態を実現することに決めました。
 そのためにも、身体が踊り出すことを最優先することにしました。
 結果を出すために行動するのではなく、身体が勝手に踊り出すようなことをやっていこうと――。

 会社論的にはものすごく間違っているのかもしれません。
 どんな会社運営に関する本にも、(最優先で)「パワーが湧き出ることをやりなさい」なんてことは書いてありません(たぶん)。事業計画を綿密にたてること、リスクを分散すること、多角化をはかりなさい、決算書を読めるようになりなさい、あるいは「選択と集中ですよ」だったり。

 けれど、生物論的には、より合っているのではないかな、と感じています。
 優先すべきは、生物として個人も会社も考えるべき視点のはずです。
 会社もそこで働く個人も「会社」としてだけ存在しているわけではありませんから。会社である前に、市民である前に、国民である前に、生物です。それがより「原点」です。

 ですから、ミシマ社がめざすのは、生物論的会社運営といえるかもしれません。
 このほうが「きっとうまくいく」(@3 idiots)と僕は思っています。
 多くの方々に納得いただくためにも、ビジネスの世界で言われる「結果」としても、生物論的に動かすほうが断然いい! というふうにしたいです。
 そうして、日本中、世界中の会社がそんなふうになっていけば、世界もより「おもしろく」なっていく。
 そうなることを信じて、今日もほがらかに励みます。

 これからも、どうぞ、よろしくお願いいたします。

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三島邦弘(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。1999年大学卒業後、PHP研究所に入社。単行本の編集者となる。2003年退社後、東欧などを旅する。同年10月、別の出版社で編集活動を再開。2006年10月株式会社ミシマ社を単身設立。「原点回帰」の出版社を標榜し、編集・営業・仕掛け屋などチームの枠を超え、「出版は全身運動である」という思いのもと、日々、奔走中。
「ミシマ社のblog」もがんばって書いてます。

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