ミシマ社の話

第53回 新シリーズ、始めます。

2015.02.22更新

 いま僕は、京都の街中にある、某カフェにいます。
 ふだんは前オフィスすぐのsentidoやcafé Jinta、現オフィス近くのItal gabon、sourceといったカフェを使わせていただくことが多いです。けど今日は、ふと、ここへ訪れたくなったのでした。
 大きな窓越しにぼんやりしたい。後方に本が並んでいるような空間で。そして、こんなことを考えるわけでもなく、考えてみたい。
 「カフェタイムに一冊を」

 *

 2015年5月、ミシマ社から新シリーズが始まります。
 その名は、「コーヒーと一冊」。
 デザイナーの寄藤文平さんと雑談のような話をしているなかで、ぱっと出てきた言葉でした。
 いまとなっては、ほかにはありえないほどのしっくり具合。
 ちょっと個人的な話ですが、私はコーヒーを飲まない日はないほどのコーヒー好きです。朝食のあと、コーヒーを胃に流し込まないと、起きた気にならない。起きた気にならないどころか、禁断症状のため、手が震えだし、妄言をはきはじめ、しまいには周りのものを投げつけ・・・なんてことはさすがにありませんが、飲まずにはいられないのは事実。ほとんど中毒といっていいでしょう。
 だから、シリーズ名が「コーヒーと一冊」になった、わけではありません。もちろん(結果的にそうなっただけで)。
 めざしていたコンセプトからいっても、これしかないものだったのです。
 
 当初、「ミシマガ・ブックス」という名を考えていました。
 そのコンセプトはいくつかありますが、大きく三本柱を挙げられます。
 まず編集面でいえば、「これからの書き手の方々へ」ということ。
 実際、「コーヒーと一冊」の創刊3冊は、「新人」の書き手の方々ばかり。
 いずれも「みんなのミシマガジン」連載時から好評を博した三本です。
 
 ・北野新太 将棋ノンフィクション(「いささか私的すぎる編集後記」よりベストコラムを集め、編集)
 ・松樟太郎 「声に出して読みづらいロシア人」
 ・佐藤純子 「女のひとり飯」
(佐藤さんは、『月刊 佐藤純子』という本を出されたことがありますが、継続的な活動をしている専門の出版社からは初)
 
 もちろん、新人の方のみのレーベルではありません。今後、著名な方々にも書いていただきたい。と同時に、これから活躍していっていただきたい書き手の方々が一歩目、二歩目を踏み出す場としても、積極的でありたい。そう思っています。
 ちなみに、ミシマ社をよくご存じでいてくださる方々には、言うまでもないかもしれませんが、同シリーズにおいても「ちいさな総合出版社」を貫きます。つまり、ジャンルではなく、さまざまな「面白い!」を企画の基準に据えます。
 
 そして、この一本目の柱を可能にするのが、コンセプトのふたつ目になります。
 それは、「かつての読み好き、カムバック!」。
 こんな願いをこめてシリーズを考えました。
 具体的には、「読み切る感覚をもう一度」という考えのもと、すべての本を、100ページ前後の仕上がりにします(本体価格は1000円の予定)。
 まさに、「コーヒータイム」に読み切ることだってできる。
 それにより、一冊を読了するという喜びを、体感してもらう。
 読了感覚を身体化することで、本という世界にふたたび近づいてもらう。
 (本を一冊まるごと読み終わったときの余韻がたまらない・・)
 (もっともっと浸っていたい・・・)
 そんなふうに、本シリーズの一冊が引き金になって展開していくことを願ってやみません。
「一冊を読む時間がなくて・・・」という、あまりにしばしば耳にした声にお応えするシリーズでもあります。
 もちろん、デザイン面においても、思わず読んでみたい感覚を実現。
 鞄に入れておきたい、カフェで読みたくなる、そんな軽やかで力みのないデザインになる予定です(ご期待ください!)。
 当然のこと、本好きの方にも喜んでもらえます。
 なぜなら、いっさい薄めることのない、濃縮100パーセントの読み物なのですから。
 
 そして、三つ目のコンセプトは、いきなり生々しい話をするようですが、「本屋さんに利益を」というもの。
 これこそ、もっとも太い柱にしていかねば、と思っていることであります。
 というのも、毎日、書店さんと「直取引」をさせていただくなかで、本屋さんの大変さということに思いを致さない日はありません。
 
 「書店業界というのは、やっぱりちょっと、離職率が高すぎるのかな。でも、この仕事のほんとうの魅力がわかるまでには、それは二年や三年ではわからないので、なんとかふんばってもらって、と中にいる側としては思うのですけど」
         (木村俊介著『善き書店員』2013年11月刊より)

 よく知っている何人かの書店員さんを思い浮かべても、これ以上無理という限界まで創意工夫をこらし、がんばっておられます。肉体的にも精神的にもギリギリまで。
 志のみならず、実務面においても、優秀だと私も心底尊敬している書店員さんたちが、そこまでしても「足りない」と言われる。経営を支えるには「足りない」と。
 この事態を前に、私はこう考えざるをえませんでした。
 もはや、書店員さん個人の努力や実力の問題ではないのでは? 
 どんなにがんばろうが、改善しようのない構造になっている。そのなかでいくらもがいても、終わりのない後退戦を強いられるようなものではないか。
 けれど、同じがんばりでも、その先に光があると感じることのできる状況では、人はつづけることができる。その光に希望を託して。
 具体的に言います。
 いま、書店の利益は、「流通」経由の場合、2割前後だと言われています。
 それを、同シリーズでは、買い切りというやり方をとることで、書店側が、4割以上、つまり倍以上の利益が入るようにしたいと考えています。
 そうすることで、たとえば1000冊の目標を800冊しか売れなかったじゃないか、といって責められていた書店員さんが、700冊の売りであっても、利益ベースでは倍近く儲かっている。1000冊を「無理やり」売るのではなく、本屋さんが思いを込めて届けたい本をしっかり届けていくことで、循環してく経済。
 そういう流れをつくっていきたいですし、いかねばならない。
 一出版人として、そう思わない時間は一刻たりともありません(ほんとうに)。

 読者、本屋さん、書き手、出版社、すべてが共存していくための一歩を踏み出す。
 「コーヒーと一冊」はそういうシリーズです。

 個人経営のカフェ、喫茶店を愛する人たちにも届けたいという願いもこめて始めるつもりです。
 皆さまのお力添えを切に願っております。

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三島邦弘(みしま・くにひろ)

1975年京都生まれ。1999年大学卒業後、PHP研究所に入社。単行本の編集者となる。2003年退社後、東欧などを旅する。同年10月、別の出版社で編集活動を再開。2006年10月株式会社ミシマ社を単身設立。「原点回帰」の出版社を標榜し、編集・営業・仕掛け屋などチームの枠を超え、「出版は全身運動である」という思いのもと、日々、奔走中。
「ミシマ社のblog」もがんばって書いてます。

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