ミシマ社庭部

第11回 庭部、コケる

2014.11.09更新

 どうも、ミシマ社で営業をしております池畑、改めコケ畑です。なにを隠そうわたくし、大のコケ好きであります。
そんなわたくしを見込んでか、ヒラタ部長から「ハタボー、コケの記事書きや」と命が下り、コケ記事を書くことになった次第。
 部長の命令は絶対であります。

 かくして、なんの見通しもないままワードとにらめっこしているのですが、コケの記事っていったい何を書けばいいのでしょうか?
 コケの写真をとればいいの? 解説すればいいの?
 でも、わたくし、ただ路上のコケをぼうっと眺めているだけで満足なので、品種とか、まったくもってわからないんですよね......

 しかし部長には逆らえません。
「部長の命に背いたものは庭を去るのみ」
 それが庭(という名のジャングル)のオキテ。
 庭はライオンもびっくりの縦社会なのです。

 ひとまず、玄関を出て、コケを見つめてみましょう。
 きっと、きっと、コケが答えを教えてくれる......はず。

*** *** ***

 腐りかけの柿がひしめく庭には目もくれず、玄関先の路地へ――
 いましたいました、ジメジメしたあいつらが。


もあもあ~~ふわふわ~~もあふわ~~

 い、癒される~~!!
 ただそこにいるというだけで、この圧倒的なオーラ(そして下水溝からただようこの強烈な臭い!)。

 ヒラタ部長! これですよこれ!
 みんなが毎日カツカツ通り過ぎる路上に、こんな神々しくもフワフワとした生き物が存在しているのですよ!!

 女子高生に見られようものなら、「何あのスーツのおじさん、キモーイ」と罵られること必至の低姿勢で、コケとの距離をぐっと縮めます。

 見よ、この輝きを!


 超接近!!

 おおっと、近づきすぎて接触してしまいました。
 でも、触れたらふわふわやわらかくて、テンションは更に上昇。
 半ば地面に頬ずりする形です。

 ついでに匂いも嗅いでみることに――
 むむ! ムシュウです! 無臭です!
 強いて言えばほのかに土の香りがします!

「さて」
 おもむろに取り出したるは『ときめくコケ図鑑』。
 コケビギナーのバイブルである。


 右がコケ、左がバイブル

「きみの名前はなんていうのかな~♪」
 と鼻歌まじりでパラパラとめくる。

 が、しかし。が、しかしである。
「こりゃあいかん!」と心のなかで絶叫。
 コケ観察における三種の神器のひとつ、「ルーペ」を忘れてしまったのだ!!

 わたくしは恥じた。
 このようなコケ日和にルーペを忘れたことを。
 そして、ルーペなしにはコケさんの名を知ることもできない己の不甲斐なさを。
 わたくしは呆然と立ち尽くすしかなかった。

*** *** ***

「おまえを太郎と名づける!」
 こうなればもうやけくそである。

 名前なんて知らなくたって、俺たちはともだちなのだ。

 にわかに生まれた蜜月。
 このまま小一時間ほど過ごしたいけれど、部長の目があるので断念。
 後ろ髪を引かれながら、3歩先へ。


 こけまっしぐら

 こちらにはまた別のコケさんがいらっしゃいますね。またまた接近を試みます。


ふさふさ~~

 なんと!
 こちらの次郎さん(いま命名)はふさふさロングヘアーの持ち主です。
 昨晩降った雨に濡れて、なんとも色っぽい。水も滴るなんとやらです。

 次郎と十分にスキンシップを取り、心が通じ合ったところで、ふたたび超低姿勢に。
 コケ目線で、自由が丘オフィスを見つめます。


 コケむす大地からの眺め(奥の赤いポストはミシマ社のもの)

 おまえ、毎日ここからオフィスを見守っているんだね......

「そろそろ時間だ」
 地面に擦りつけていた頬の砂埃を払い、颯爽と立ち上がる。

 前方よし! 後方よし!
 周囲に人間がいないことを確認して、そそくさとオフィスに帰る。

 太郎と次郎の視線を壁越しに感じつつ、わたくしはパソコンに向かうのであった。

(おわり)

*** *** ***

 さてさて、ミシマ社自由が丘オフィスの眼前に広がるコケワールド、お楽しみいただけたでしょうか。

 オフィスの敷地に入ることなく、庭には一切目もくれず、玄関先わずか5mほどの世界に広がる小宇宙(コスモ)。

 彼らはコンクリートの上にも、木の幹にも、隙さえ見つければどこにでも住み着きます。きっとミシマガ読者のみなさまのそばにも......


◆コケとふれあうときの諸注意

※低姿勢を取る際は、地面に顔をこすりつけないように十分ご注意ください。
※ご近所の方に目撃されないように、周囲に人間がいないことを確認した上での観察をおすすめします。

◆今日、ともだちになったコケ

・太郎くん(本名:不明)
・次郎さん(本名:不明)

◆お世話になったコケ本



『ときめくコケ図鑑』(山と渓谷社)
文:田中美穂/写真:伊沢正名
定価:本体1,600円+税


庭部コケ課、次回(があれば)予告!

 門前にして早くもコケたちの誘惑に籠絡されるコケ畑だったが、フワフワとした触感とけじめをつけ、ついに自由が丘オフィス正門をくぐり抜ける。
 しかし、庭へと到達した彼はそこで驚くべきものを目にする......
 どうなってしまうんだ! 果たして次回はあるのだろうか!?
 つづくかもしれない!

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