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第4回 2009年9月 今月の一冊

2009.09.01更新

大越今日はくぼやんから行きましょうか

『冷血』(トルーマン・カポーティ、新潮文庫)

窪田トップバッターありがとうございます(笑)。ぼくのおすすめは、『冷血』(トルーマン・カポーティ、新潮文庫)です。

一同ええーーっ

木村くぼたん、意外!!

窪田このお盆休みは旅に行っていたんですけど、その間もずーっとこの本を読み続けていました。
田舎ののどかな風景と、冷血な殺人事件を同時に楽しむという(笑)。
最近ノンフィクションがマイブームで、沢木耕太郎が好きなんですけど、その沢木さんが
影響を受けたというのが、トルーマン・カポーティのこの一冊なんです。

大越ほぉー。

窪田『ティファニーで朝食を』とかは、いっさい読んだことないんですけど、沢木さんが薦めるなら読んでみようと。これはアメリカの片田舎で実際に起こった、一晩で4人家族が惨殺されてしまった事件を、小説風に描いたノンフィクションなんですが、二人組の犯人が犯行にいたるまでの背景や、殺された一家四人の関係性、そして村全体の人々の心の動きなどが、異常なほど事細かに書かれているんです。

大越なるほど。

窪田カポーティがこの本を書き上げるまでを描いた、『トルーマン・カポーティ』(ジョージ・プリンプトン)という本もあるんですが、プリンプトンがカポーティ自身について迫りたくなった気持ちが、この本を読んでみてよくわかりました。なぜ、カポーティがここまで執着し、事件について異常なほど事細かく、多角的に迫っているのか、そしてその後なぜ創作活動をやめてしまったのか・・・・・・。その理由が非常に気になる、知りたいと思わせる一冊でした。

渡辺・・・・・・やっぱり似合わないね。

大越くぼやんをも感銘させるカポーティの力(笑)。

窪田正直、最初はかったるい本に当たっちゃったなと思ってたんですけどね(笑)。読んでみると、犯人にカポーティ自身がよりそっている部分もあって、悪い人じゃないように思わせるような書き方をしていたり、家族についても、絵に描いたような温かい完璧な家族じゃなくて、いろんな問題もあった、っていうのも描いていて・・・・・・、面白かったです。

三島さっき出てきた、『トルーマン・カポーティ』の映画版も面白かったですね。

大越では次に、林さんいきましょうか。

『アジア新聞屋台村』(高野秀行、集英社文庫)

私は、図書館で読んだので実物がいま手元にないのですが(笑)、『アジア新聞屋台村』(高野秀行、集英社文庫)という本です。 
     
最初、宮田珠己さんという方の本を読んだら、それがすごく面白かったので、その方と仲が良い高野秀行さんという人はどんな本を書くのだろうと思い、読んでみました。

内容は、「社会になんか関わりたくない」という、半ば世捨て人的なスタンスで旅をしていた著者が、あるとき、在日外国人と日本人向けの新聞を発行している会社の社長に誘われて、「社員にでもなってみるか」と始めてみた、そのときの奮闘記です。

外国人ばかりのちゃらんぽらんな組織を高野さんがまとめようとして苦労して、ふと「なんで組織なんか大嫌いだった自分が、頑張ってこの会社を組織らしくしようとしてるんだろう」と自問自答し始める過程などが、詳しく描かれています。

一番面白いのが、会社がいよいよつぶれかけた時に、今までテキトーそうに見えていた他の社員の、会社との関わり方を見て、「日本人と外国人の働き方ってちがうんだ」というのが明確になる場面です。「自分が会社に依存するのではなくて、いたいからここにいる、給料がなくなっても自分ができることをする、というスタンスで働くことの強さを感じた、と書いてあって、それを読んで、私も「すばらしい!」と。

あ、ほとんど内容を話してしまった(笑)。とにかく、読むと元気になる本です! 働き方をすごく考えさせられる本です。

三島読んでみたくなった。

今度、ジュンク堂で、高野さんと宮田珠己さんと内澤旬子さんのイベントがあるらしくて・・・。接触を試みてきます!! 文章にキレがあってすごい、面白いです。

大越なるほど、では次、渡辺さん。

『仕事するのにオフィスはいらない~ノマドワーキングのすすめ』(佐々木俊尚、光文社新書)

渡辺僕も、「働き方」というテーマつながりで。 
『仕事するのにオフィスはいらない~ノマドワーキングのすすめ』(佐々木俊尚、光文社新書)

三島佐々木さんは、『謎の会社、世界を変える。』のオビに推薦文を寄せてくださった方ですね。

渡辺「ノマド」というのは直訳すると「遊牧民」という意味なんですけれども、今、フリーの方などで、オフィスを持たずに自宅やカフェ、得意先などを移動しながら、場所を選ばず仕事をする、という方が増えていますよね。
本書では、そういった「ノマド」的な働き方を実際にしている人たちのことが紹介されているほか、一月に15万字も書く佐々木さんの仕事術や、「ノマドワーキング」のために使えるITツールに関する情報も書かれています。

たんなる「ハック」的な指南書ではなく、ケーススタディとして佐々木さんご自身の具体的な一日の行動が載っているのも面白い。「朝起きてジムで5km走っている」とか「年に二度は伊豆高原で断食している」とか(笑)。

木村すごいですね(笑)。

渡辺ドゥルーズ/ガタリや、ジャック・アタリが、新しい時代の人間のことを「ノマド」と称したことなど、思想哲学畑な話しも最後にちょこっと載っていたりもする。
アテンションコントロールに関するところでは、禅の「白雲自去来」っていう言葉が突然引用されていたりとかして。

木村へぇー。

渡辺新書らしく、多岐に渡る話題が一つのテーマにまとめられていてとても読みやすい。
また、これからの働き方のスタイルが透けて見えるような内容で、自分の働き方を照らし合わせると、いろんなものが見えてくる、おすすめの一冊になっております。

大越佐々木さんの事務所に取材で一度伺ったことがありますが、かっこよかったですね。

渡辺そう、しかも毎日の食事は佐々木さん自身が1時間くらいかけて作っているそうで。なのにアシスタントが独りもいなくて、仕事は全部自分でやってるらしいんですよ。

窪田へー。それでカツカツにならないのがすごいですよね。ジムに行く時間とか、惜しくなりそうなのに。

渡辺一度大病をして、それで働き方を見直したらしくて。それであの仕事の質と量を保っている秘訣がこの本に書いてあるんです。

大越ありがとうございます。では次は・・・・・・木村さん!

『るきさん』(高野文子、マガジンハウス)

木村はい、えーと、みんな「働き方」というちゃんとしたテーマの中で、私は、コミックです。
『るきさん』(高野文子、マガジンハウス)。
1988年6月~1992年12月まで、つまり、バブルの時代に、マガジンハウスの「HANAKO」に載っていた漫画です。マンガの服装とかも「肩パット入ってんじゃないか」みたいな(笑)。

るきさんはめちゃくちゃおっちょこちょいなんですよ。たとえば、電車に乗ったら、たっぷりドアに挟まれる。おせんべくわえながら自転車に乗っていて、急カーブで踏ん張ったらおせんべが人の家の庭に飛んでいっちゃう。
     
すーごく、ゆるいんです。
もうひとりの登場人物、少しミーハーでしっかり者、ちゃきちゃきの友達えっちゃんとは対照的に、るきさんはるきさんの物の考え方が終始ぶれず、おっとりと暮しています。

私がこの本を一番好きな理由は、だれも不幸にしないところなんです。
読んだ人を、たちどころに幸せな気持ちにしてしまう。

・・・・・・私の中でるきさんは亜希子さんとかぶってるんですよ(笑)。

大越絵柄がどことなく似てますね。

亜希子嬉しいんだか悲しいんだか・・・・・・。がんばります(笑)。

小野益田ミリさんのマンガにちょっと似てますね。

木村そうかも! 心地よさは似通っているところがあるかも。

窪田時代を感じさせる絵ですね。

木村色使いもかわいらしくて、ホントおすすめです。

『慎みを食卓に~その一例』(辰己芳子、日本放送出版協会)

亜希子私は、料理本で、『慎みを食卓に~その一例』(辰己芳子、日本放送出版協会)です。
おばあちゃんの料理研究家の方で、すごく大切に、食材をいつくしみながらお料理を作られる方です。

男性もいらっしゃるのにどうしてこれをおすすめしたいかって言うと、辰己さんの書かれている文章は、愛があるし、想いもあって、生き方やお仕事への姿勢にも通じるんじゃないかと思ったので。

辰巳さんの考え方の基本は、
「主体は命。命をまもるため、命をていねいに生きるため、
人間の限界を知り、自然の法則を知り、風土とともに生きてほしいと願っています。」

という言葉に表れているのではないかと思います。

私も、仕事をしながら主婦をしていると、どうしても神経ってとがってくるんですよね。費用対効果とか、効率のいい仕事の仕方であったりとか。そういうものを会社の中で追っていると、家に帰ったときに、神経もとがったままになってしまうことがあるんです。けれども、これをたまに読むと、ああ、生活を大切に生きなければいけないって、思い直させてくれる本なんです。

一同はぁー。

亜希子梅干しの章の、おしごとにも活かせそうな、一文です。

「ものごとのあとさきを知る上で、保存食づくりは最適です。
準備をあらかじめととのえ、だんどりを考え、保存食をつくる。
(中略)
生きていることは、やりこむことなのです。
今年、じぶんのなかに残った手ごたえがあるはずです。
これこそが自信になるのです」。

――こんな文章がちょこちょこでてきて、心に響くので、料理本としてだけじゃなくて、いつも手の届くところに置いてある、私のバイブル的な一冊です。

三島「やりこむことなのです」って素敵ですね。

木村しびれる!

渡辺装丁もすてきですね。料理本にありがちな写真は使わずに・・・。

亜希子5分でラクラク簡単、とかそういうのじゃないんですけども、一方でこういうのも持っていないといけないな、って。

『あの子が考えることは変』(本谷有希子、講談社)

三島じゃあ次。ぼくは、『あの子が考えることは変』(本谷有希子、講談社)です。

一同おおー。

窪田あの人の本って、装丁が凝ってますよね。

木村装丁もだけど、タイトルがいつも素敵。

三島詩になっているというかね。
本谷さんの小説って、いつも、社会に順応できてない人物が出てくるんだけど、世間ではひきこもりだのニートだの言われてるんだけど、私の生きがいとか、生きる意味を探してゆく本というのが、本谷さんの一貫したテーマで。

本谷さんの小説って、怖くて、今まで手に取れなかったんですよ・・・。

三島近親相姦とかバンバンでてくるしね。
「あの子が~」では、登場人物は、同居している女の子の2人組で。かたっぽうの、なんにもしてない、ニートの女の子が、ある日とつぜん「私が今後生活してゆく方法は、ダイオキシンの被害者認定を受けて、区に生活を保障してもらうことだ!」と言い出して、ダイオキシンの空気を袋に集めて吸い続けて、日に日に悪くなってゆくんですよ。

窪田ええー・・・・・・。

三島それで同居人の女の子が「そんなことで道がひらけるわけがない!」って怒る。だけど二人は最後まで絶対に通じあわない。
でも、そんなやりとりを通して「人の生きる道ってなに?」というテーマが読者になげかけられてる。

すごいストーリーですね。

三島主人公二人の追い込まれている状況は、一見、狂気と紙一重の、究極の状況のように見えるけど、でもそれは実は、だれもが抱えているフツーな状況。ただだれも直視していないだけ。それを本谷さんは直視しているからこそ、ぐーんと迫ってくる。読んでいて胸が痛くなる。けど止められない。

大越この作家さんは劇団もやってるんですよね。

三島「劇団、本谷有希子」っていう。劇もキワどいんですよね(笑)

窪田劇団が先ですか?

三島うん、そう。高橋源一郎さんが、「劇団出身の作家はだめだって思ってたけど、本谷さんの小説読んで見方がかわった」と言っていたんですよ。
劇団出身の小説家で書き続けられる人ってこの年代ではいなくて。
でも、この人がでてきたことで、流れがかわったかもしれないって。

『SP』シナリオブック(金城一紀、扶桑社)

大越じゃあ最後はわたしが。『SP』シナリオブック(金城一紀、扶桑社)です。

一同ぶ厚い!!

大越『SP』は、テレビの再放送をたまたま見まして。見た瞬間に「このドラマ、ちがうな」と思ってひきつけられました。私はアクション映画オタクなんですが、アクションシーンがほかのドラマと気合の入れようが違った。興味が湧いて、原作者を調べたら金城一紀さん。「なるほど、そりゃあ面白いドラマになるはずだ」と。

このシナリオブックが面白いのは、ページの下部に注釈がたくさんあるんですね。そこには金城さんがシナリオを書く中で考えていたことが、事細かに書いてある。小説を書くのとは一味ちがう、現実の役者さんが演じるドラマのシナリオだからこその面白さがきっとあるんだろうなと感じました。

三島ぼくもドラマはほとんど見ないんですけど、これは全部見たんですよ。日本のアクション物でこんなに完成度が高いものはほかにないな!って。再放送をやるたびに、「続編放送!」っていうんだけど、毎回ダイジェスト版だけ流れて、続きをやってくれないんやけどね(笑)

大越金城さんは、ブログでもいま日々見ている映画の感想を綴っています。ある日、「先人の作ったものの影響を受け(遺産を受け継ぎ)、それを超えたものを作る(努力をする)ことは、先人に対する"恩返し"にもなるのだ」と書かれていて、その心意気は、我々の本作りでも目指さなければいけないなと。アクション映画といえばアメリカが本場ですが、日本でハリウッド映画に匹敵するものを作り出そうという、気合を感じましたね。

三島金城さんは一貫してアクションものを描いていらっしゃいますよね。『GO』からずっと、ブルース・リーがベースになっていて。

木村金城さんの作品って、毎回読んでよかった、って思えるものが多くて。どれも爽快感がありますよね!

大越寡作の作家さんですが、作品はどれもすごい。『映画篇』なんかは、電車で読んでいて涙がとまらなかった。

木村すばらしい作家さんですよね。

三島・・・・・・じゃ、ナンバーワン決める?

大越決めましょうか。

大越「せーの!」で指差しましょう。せーの!!

大越亜希子さん4票で「慎みを食卓に~その一例」(辰己芳子、日本放送出版協会)です!

一同おおー!!

亜希子うれしい!ありがとうございます。

木村わたし、くぼたんの「カポーティ」も読んでみたくなったな、ひさしぶりに。

亜希子名作ですよね。

大越というわけで、みなさん、ありがとうございました!


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