ミシマ社通信オンライン

ミシマガ10月号のトップバッターは、「今月の一冊」。しかし今回は、いつもとは趣向を変えて「人生の一冊」について聞きました。今月号は、いつにもまして、気合いの入った本がそろいましたよ~。

第5回 2009年10月 3周年特別記念版「私の人生を変えた一冊」

2009.10.01更新

大越 今日はミシマ社3周年特別記念版ということで、「私の人生を変えた一冊」がテーマです。今回のゲストは、ライターの松井さんにきてもらいました。そんなわけで私も今回は特別に、郷里の茨城弁で司会したいと思います。トップバッターは誰から行くべ?

三島 じゃあ・・・・・・じゃんけん、ほい!

一同 ええ!?

(・・・・・・結局、じゃんけんをしました)

●『兎の眼』は子どもの眼

今月の1冊 人生を変えた本

『兎の眼』(灰谷健次郎、角川文庫)

亜希子では、わたしからいきます。
さっきまで何にしようか悩んでたんですが、私にとって大きかったのは、灰谷健次郎さんの『兎の眼』(角川文庫)っていう作品ですね。

木村あぁ・・・・・・。
 
亜希子小学校の3年生か4年生のときに、担任の先生が毎朝、授業が始まる前に5分間朗読をしてくれたんですね。本の内容としては、新米の小谷先生が阪神工業地帯の小学校に赴任するところからはじまります。

それで、その先生が赴任した小学校には、ゴミ処理場で働く子どもたちや自閉症の子がいたりして、すごくカルチャーショックを受けるんですね。自閉症の子はハエをすごく集めている「ハエ博士」って呼ばれている子だったりして、先生としては結構衝撃的なクラスだったんですよ。

でも、小谷先生とその子たちのやりとりを通して、教育の大事さとか、人と向き合うことの大切さとかを教えてもらった気がして、子ども心に衝撃を受けた作品でした。

へー。

亜希子大人になってから、障害児の施設に行くボランティア活動に参加していたのですが、考えてみれば『兎の眼』が私の心の奥にずっとあったのだと思います。小学生くらいの時って、自分の置かれている状況があたりまえだと思ってたんですけど、この話を聞いて、いろんな生活の人がいるし、先生は子どもの教育をこんなに大事にしてくれているんだなと気づかされた一冊でした。

大越名著だよね。涙なぐしては読めねぇ。

窪田本当にあった話なんですか?

大越灰谷健次郎はもどもど教師なんだ。そのときの実体験つうか、理想主義に燃えた先生が出てくるんだよね。

亜希子『兎の眼』の先生は女の人だったけど、そういう体験をもとに書かれた感じです。

●『変身』読んで変身?

大越んじゃあ、次は誰だっぺ。

亜希子じゃぁ、松井くんで。

今月の1冊 人生を変えた本

『変身』(フランツ・カフカ、新潮文庫)

松井はい。僕は、大学1年生の終わりくらいに読んだカフカの『変身』(新潮文庫)です。

三島そうなの?

松井大学に入って、高校までとはちょっと違う友だちが増えて、いろいろ影響されたりして、気持ちが少し浮いた状態になっていた頃というか。そんな時に、ふと家にあった『変身』を読んでみて、特に強い衝撃を受けたわけではないんですけど、好きになっていったという感じですかね。

変な話なんだけど、その中で日常が淡々と描かれていくというか、そういったズレてる感覚が気持ちよかったというか、好きな感覚だったというのがありますね。
解説を読んで、「実存」とか「所属」とかっていう言葉にも影響されたりして、そこらへんから「自分の考えていることは自分の所属している環境にすごく影響されているんだな」と思うようになって、その後大学を卒業したら、いろいろ旅をしてみようと思ったきっかけの本でもあるのかなと。

木村はぁ、なるほど。

三島松井くん自身を変身させたと。

木村うまいこと言いますね。

渡辺ま、絶対誰か言うだろうと僕は控えてたんですけどね。

亜希子年の功的な発言ですね。

松井『変身』より、『審判』とか『城』のほうがおもしろかったですけど。

三島『審判』、おもしろかった?

松井わけわからないのがすごくおもしろくて。

三島どこにいくのかよくわからないよね。
カフカは未完の作品が多くて、版によってまとめかたが違ったりするしね。

松井『審判』は、1章から読んでいっても話が続かないから、確か解説に「1章、3章、8章、5章・・・・・・ の順番で読むとわかりやすい」っていうようなことが書かれてるんですよ。

三島それだったら、その順番に並べてよ、みたいなね(笑)。
ところでカフカが『変身』を書いたときの、カフカが置かれていた状況っていうのはどんなだったのでしょう?

松井文学だけでやっていきたいと思っている一方で、午前中は役所、午後は父親の工場で管理を任されるといった状況に不満を持っていたとか、そんな父親との対立があったり、なんていうか、自分と置かれていた状況に違和感をもっていたというところですかね。

三島それと、いろんな意味で孤立してたわけだよね。チェコのプラハの旧市街のはじっこに住んでいて。でもユダヤ人ってことでチェコの世界からもはじきとばされていたりね。

松井「ぼくは、ぼくの家庭のなかで、他人よりもなおいっそう他人のように暮らしている」なんていう言葉もかっこいいなと。

大越カフカはわげがわがんないよね。「なにごじゃっぺ言ってんだ、おめえ」と言いたい。

● 15歳・同級生の本に衝撃!

大越次は誰だっぺ。

松井では、林さん。

今月の一冊 人生を変えた一冊

『四人はなぜ死んだのか――インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」』(三好万季、文藝春秋)

私はですね、雑誌以外ではじめて「本」というものをほしいと思ったのが、この『四人はなぜ死んだのか――インターネットで追跡する「毒入りカレー事件」』(三好万季、文藝春秋)だったんですよ。

木村あぁ、懐かしい。なるほど〜

渡辺それは、著者がべらぼうに若いんですよね。

同い年なんですよ。それで当時「私と同い年の人がこんな本まで書いちゃうのか」とすごい衝撃を受けたんです。
これは、1998年に起きた和歌山のヒ素入りカレー事件について、15歳の少女が「そもそも、保存のきくカレーで食中毒っておかしくないか?」っていう素朴な疑問をもったことから「カレーで食中毒がおきる可能性はあるのか?」を詳しく調べて行くんですね。

窪田なるほど。個人的に。

それで、調べて行くうちに、被害にあった方の症状っていうのは、食中毒じゃなくてヒ素中毒の可能性の方が高いということを突き止めていくんです。実際に病院や被害に遭われた方の家に取材にいったりとかもしながら。それで「なんだ? この子は」と思って。

渡辺当時はすごい話題になったんだよね。

大越同い年でそういう子がいるとショックで、いじやげっちまうよね。

それで、私としては、報道とかメディアの情報にも疑問をもつとか、自分できちんと調べるとか、盲信しないことの大切さを教わったといいますか。

窪田すごいですね。いまその人は何をやられてるんですかね?

医者になりたいとは言ってたんですが、彼女のホームページのプロフィールでは2000年の16歳で高校中退した以降の足取りがつかめないんですよね。
でも、彼女のそういう姿勢は、その後私の人生のスタンスにすごく影響を与えました。

木村すごいね。15歳ってわたし何してたかなぁ〜 って思うくらいぼんやりしてた気がする(笑)

窪田著者紹介の写真が制服だ。すごいなぁ。

● 袋の中にしまわれた一冊

大越 ほんでは次のひと。

今月の1冊 人生を変えた本

では、次は渡辺さん。

渡辺はい。今日は袋に入れてきたんですけど。

大越あれ、付箋とか貼って、気合入ってんね?

渡辺今まで聞いてきて思ったんですけど、「人生を変える」というのは、今まで自分中心でまわっていたものが相対化される経験をすることだと思いましてね。僕はあんまり一冊の本を繰り返し読むことはしないんですけど、これに関しては10回以上は間違いなく読んでいるというところで・・・・・・(袋からおもむろに出す)・・・・・・『詳説世界史』(山川出版社)になります。

今月の1冊 人生を変えた本

木村まー なるほど!

渡辺僕、高校生の時は勉強を全然しなくて、もう英語とかは嫌で嫌で、数学も0点とったりしてたんですけど、世界史に関してはそうじゃなかったんですね。
それで、自分を相対化っていう意味でいうと、教科書の記述だからそんなに脚色がなくて、おもしろいところはないと思うんですけど、そこに想像力を働かせたりするのがおもしろかったというのがありますね。それと、一つの地域で起こっている出来事を同時代的に横に並べてみたりするときに、何かくっきりと立ち上がってくるようなところもすごい好きで。

例えば、よく言われることですが、幕末や明治維新の頃になんで日本は欧米に植民地化されなかったのかというと、同じ時期に欧米諸国は戦争していて疲弊していたからっていうのが理由のひとつでもあるんですね。日本という遠い場所にちょっかいを出せるほど余裕がなかったからだと。

イギリスは植民地にしてたインドで反乱が起こったり、フランスはプロイセンと戦争していたり、ロシアはクリミア戦争をやっていたり、アメリカでも南北戦争やら、当時はメキシコにフランス軍が出兵したりとかで。メキシコにフランス軍なんて、ちょっと想像できないでしょ?

大越うん、できねえ。

渡辺それで、幕末・明治維新を日本史で見るといろんな人たちが活躍してそれはそれでおもしろいんだけど、世界史的に見た時にまったく違った見え方をしてくる。
そういうのとか、クリミア戦争で闘った兵隊のことを考えた時に、それと今の自分の状況、学校の授業だりぃな、とか言ってるギャップを感じたりとか。
あとは、自分の祖先というか親の何世代か上に遡っても、今の場所に住んでるとは限らないということを想像すると、何か立ち上がってくるものがあって、それがすごいゾクゾクするというか。

大越オレも高校で世界史選択したんだけど、苦手だったなあ。

人名とかカタカナで長いですもんね。

今月の1冊 人生を変えた本

大越そうそう。「なにが耶律阿保機だ」みでえな。

渡辺それはやっぱり一工夫ですね。暗記よりも流れを感じたときのゾクゾク感とか、いろいろ繋がって今があるんだっていうリアルを感じる臨場感がいいんです。いま読むとまた違ったおもしろさを感じられるかもしれませんよ。機会があったらぜひ、みなさんご一読ください。

●「これで芸人めざしました」

渡辺じゃぁ次は、同じ営業チームの窪田篤さんにお願いできればと。

今月の一冊 人生を変えた一冊

『浅草キッド』(ビートたけし、新潮文庫)

窪田私は久しぶりすぎて手元になかったので、昨日買ってきました。ビートたけしで『浅草キッド』(新潮文庫)です。

木村あぁ〜。

窪田僕、これを読んで芸人になろうと思ったんですよ。
この本は、たけしが浅草のフランス座っていうストリップ劇場の深見千三郎っていうコメディアンに弟子入りしたくて、そこのエレベーターボーイとしてもぐりこむところから話がはじまるんですね。

当時、僕は岡山の高校生で、浅草ってほとんどイメージの世界だったんですよ。だけど、圧倒的にこういう世界にあこがれてしまいまして。なんか、非常に臭いというか、町がにおってくるようなすごく狭い世界なんだけど、何か暖かみもある、というのがすごく魅力的に感じられて。

へぇー。

窪田この中の世界が本当にあるのかはわからないんですけど、当時はこういうところに行きたい!って思いました。昨日読み返してみても、やっぱりおもしろいですね。まさに「人生を変えた1冊」だなと。

大越んで、結局、芸人になんなかったんだっぺよ(笑)。

窪田でも、これを読んだことで、あきらかに道が変わりましたね。そして、流れ着いた先がここ、みたいな(笑)。

亜希子なるほど。

渡辺僕も高校生くらいのときに読んでるんですよね、この本。・・・・・・・・・・・・でもおれは変わらなかったな。

大越ははは。

木村渡辺さんは世界史ですからね。

渡辺でも、おもしろい本ですよね。たけしが本当に生きてるっていうか、タップダンスをエレベーターホールでやったりして。

窪田そうなんですよ。

渡辺情景が浮んでくるんだよね。

窪田まず、エレベーターボーイをやって「弟子入りさせてください」っていうことを売店のおばちゃんに伝えてもらうんですね。そこで、深見千三郎と話す機会をもらって「おまえ何か芸できるのかよ?」って聞かれるんですけど、たけしは「ジャズは好きです」って答えるんです。でも「聴く方になってどうすんだよ。人に見せたり聴かせたりするのがコメディアンなんだよ」って言って、師匠がパパパっとタップをやってみせるんです。

それで「おまえこれ、来週までに覚えておけ」っていうところから、一週間ずっとそのエレベーターホールで練習したりして、やりとりがはじまるんです。そうしているうちに、あるとき弟子のひとりが突然辞めてしまって「人がいないからたけし来い」ってことで舞台に入れるようになるんです。

木村ふーん。たけしは映画でタップやりますよね。

窪田そうそうそう。だから、あれはその時のことを思い出しながらやってる感じでもあるんですよね。
最後、師匠のもとを去るときがまたおもしろくて、そのストリップ劇場で段々人気が出てきて、注目も集め出すんですけど、本当は浅草演芸ホールに出ないと、その先のテレビには行けないとわかってきてそっちに行きたくなる。でも、そこに行くってことは師匠を裏切ることになるわけで。

木村ふんふん。なるほどね。

窪田師匠も「頑張って行ってこい」なんてことは言わないわけですよね。「あいつは裏切りもんだ」って。すごく慕ってきた師匠を裏切る。そこで縁が切れちゃうんです。それで、何年後かに訃報を聞いて、深見さんの死を知るというエピソードがあって。

三島なるほどね。そこはすごく大きいよね。捨てたものが大きいっていうのは。

窪田うかつに読むと芸人になりたくなるので、気をつけたほうがいいですよ。
本当に、今持ってるものは全部捨てようと思ってしまいますからね(笑)。「今の暮らしは捨てねばならぬ」と。

三島なるほど(笑)。

●『街場の現代思想』は人生のバイブル

窪田じゃぁ、三島さんで。

今月の1冊 人生を変えた本

『街場の現代思想』(内田樹、NTT出版)

三島お、ありがとうございます。自分の場合はどれかっていったら、やっぱり、『街場の現代思想』(内田樹、NTT出版)ですね。自分が編集した本でなんなんですが。
ここに書かれている「ワークモチベーションについて」とか、「転職について」とか、「社内改革について」とか、僕がちょうど悩んでた時代に、砂漠のオアシスみたいに、一番求めてた答えを提供してくれた本だったんですね。

窪田ミシマ社をつくるずっと前ですもんね。

三島ちょうどそのころ社内改革をやろうとしてたんですよ。

窪田はぁ?

三島いろいろと人事部長なんかに、改革の提案とかを書いて、編集者が生き残って行く道とか、ドラスティックに変える案を提案したんですよ。
「出世というものに対して、多分僕たちの世代は誰も欲望してないと。そんなことはどうだっていいと思ってる。現に僕はそうだ」と。

窪田はいはいはい。

三島そしたら「斬新な意見やなぁ」って言われて。

木村(笑)。

三島それで、そういう思いの中、内田(樹)先生に、たとえば、「社内改革をやって組織を少しでもよくするべきですか。それとも組織を飛び出して転職やベンチャーをやるべきですか? そもそも、社内改革って可能なものなのでしょうか?」って質問したんですね。
この本は、僕と内田先生との間で、こういう往復書簡的な形から始まったものなんですね。

窪田なるほど。じゃぁ、その本に載ってる質問って全部自分なんですか?

三島半分くらいは。ここは完全に僕の質問です(笑)。
それで、後ですごく役立った箇所が「転職希望者とは、すでにして一度選択に失敗した人間であるということを前提に申しあげたい」というところから始まって「二者択一になった時点でもうダメなんだよ」と。

例えば、選択肢に「辞めるか辞めないか」の岐路に立った時にはすでに遅くて、その手前でオプションとして選択肢をいくつかもてるくらいの行動をとっておかないといけないよ、ということを書いていてあるんですね。

窪田確かにそうですね。

三島「これまで正しい決断を積み重ねてきた人の前には、判断に迷う二者択一は出現しない」と。

窪田おお。

三島内田先生の考え方には、長く生きて行くための、人間の根本的な欲求をどうやって素直に認めて、それを満たして行くかっていう発想が根底にあると思うんですね。

衝撃だったのは、徹底的に個人を作り上げることが、他者と関係を作って行くためにも必要だっていう論調が盛んだったときに、内田先生は「"個"をいくら追究しても幸せにはなれない」ということをスパっとおっしゃったんですね。

大越「おひとり様」なんつう、でれすけの考え方とは真逆だっぺよ。

木村確かに。

三島「ワーク・モチベーションについて」の項では、給料カット、ボーナスカットといわれている時代で、「給料が下がっていくなかでモチベーションを落とさず、仕事の質も落とさないでやることって可能なのでしょうか?」っていう質問をしたんですが、内田先生は「答えはノーだ」っていう。

でも、その理由が「給料が下がることと、モチベーションが落ちることがリンクしているという点で、そのおじさんたちにはもう未来がないのである」って書いてあって、なるほど、と思いました。

木村はっきりと言いますね。

三島「質の高い仕事をする人間にはいくつかの種類がある。おもしろそうだから、とか暇だったからとか、頼まれたからとか、人生粋に感じたからとか、どうでもいいような理由で仕事をする人間。普通こういう人たちが一番質の良い仕事をする。」
ここの部分は、メールでパッと送られてきたとき、何回も読み返して当時は人に会うたびに語ってた一節ですね。

窪田なるほどな。

三島これは、本当にいま読んでほしいと思いますね。

木村そうですよね。

●「謎の空白期間」が人を伸ばす

三島じゃぁ、大越さん。

今月の1冊 人生を変えた本

『青春漂流』(立花隆、講談社文庫)

大越はい。オレのイチオシは立花隆の『青春漂流』(講談社文庫)です。

木村大越さんらしい〜。

大越これは、オレが茨城のド田舎の中学を出て、高校1年生の終わりくらいに鼻水をすすりながら読んだんだげど、ものすごい名著なので、ぜひ皆さんも読むといいと思います。20数年前のスコラの連載をまとめた本で、立花隆が当時これから活躍しそうな人たち11人に取材したんだよね。当時まったく無名だったソムリエの田崎真也さんとか、猿回しの村崎太郎さん、動物カメラマンの宮崎学氏とかナイフ職人、鷹匠、食肉職人などいろいろな人に話を聞く。

それで、空海の「謎の空白時代」について書いた、立花隆のあとがきが素ん晴らしい。空海というのは18歳で当時の大学をドロップアウトし、31歳で全く無名のまま遣唐使船に乗り込むんだけど、その間のことがほとんどわかっていないんだよね。唐に渡った空海は、たちまち頭角を現し、向こうの高僧に認められて密教のすべてを伝授される。それで日本に戻ってきて高野山を開いて、日本の密教体系を作り上げるわげですが、それを可能にしたのが空海の「謎の空白時代」の修行だったと、立花さんは書いでんだよね。

三島なるほど。

大越それでこの連載では、取材対象者一人一人の、十代後半から二十代にかけての空白期間に迫って行くというのが軸になっている。その一人一人のエピソードがものすごく強烈なんです。

こればかりは読んでみてちょーでえ、としか言いようがない。この本を読んで私が受けた影響というのは、「ノンフィクションとはこんなに感動的なものなんだっぺか」ということです。これを読んで、オレも将来、新聞記者とかになれるといいなあ、と思ったんだよね。

三島ほう。

大越「人に話を聞いて文章を書く」「それを本にすることで、人に感動を与えられる」と思った、ある意味、今の仕事に就く直接のきっかけとなったのがこの本ですね。

木村ふーん。

大越青春に悩んでいる人にぜひお勧めだっぺよ。

●ほくろマニアにすすめられ

大越最後ですね。じゃあ、木村さん。

木村はい。ちょっと恥ずかしい。ベタだし。前も紹介したし(笑)。

窪田ほんとだ。2回目だ。

今月の1冊 人生を変えた本

『モモ』(ミヒャエル・エンデ、岩波書店)

木村他にもいろいろ考えたんですけど、幼いとき一番最初に自分で読んで泣いた本が『モモ』(ミヒャエル・エンデ、岩波書店)だったんですよ。これは、小学校の時に、男の子から告白をされた時にもらった甘酸っぱい本でもあって(笑)。

三島きゃー。

木村印象的だったのは、モモっていう主人公が特別何かできるわけじゃなく、ただ人の話をじっと聞いてるだけで、相手を心から幸せな気持ちにさせる不思議な少女だったということですね。

当時、私は体の弱い子どもで、みんなとやりたいことが同じだけど、できないことがいっぱいあったんですけど、それでもいいんだって本を読んで思ったんです。他者と関わるときに、ものすごく跳び箱が跳べたりという得意なことがなくても、私はありのままできることをしていけば、それでいいんだなと。

今月の1冊 人生を変えた本

窪田はいはい。

木村それと、白黒の世界なのに読んでいて色がみえた、はじめての小説でもあるんです。「あぁ、これはきっと七色で」とか「花びらはこういう形で舞ったんだろうな」とかいろいろ想像力をかき立てられて。読み返す度に一番最初に描いた色が蘇ります。

へー。

木村最後、時間どろぼうに盗まれたみんなの時間を戻すために、マイスターホラが時間を止めて、それをモモが取り戻しにいくんです。時間を戻した瞬間、今まで一緒にいた亀のカシオペイアが「飛んでお帰りモモ、飛んでお帰り」って言ってそのままいなくなってしまいます。ここまで読んでこないとわからないんですけど、そこの一文で小学生の私は号泣しました。「みんなー、時間が元に戻ったよ!!えーん!!」って。

窪田なるほど。

木村私の中で、ゆるやかにずっと大切にしている本です。

大越その男の子は、桃ちゃんだから『モモ』の本をくれたんけ?

渡辺どこが好きだって書いてあったんですか?

木村え、いいですそれは(笑)。そこかぁ・・・・・・ っていう感じでしたから。ほくろが好き、とかそんな感じでしたから。

渡辺どういうことですか?

木村わかりません。なんか、そう書いてあったんです・・・・・・。

マニアックですねぇ。

今月の1冊 人生を変えた本

木村ははは。・・・・・・あー、ホントざんねん。

大越それでは最後にみなでご唱和を。

一同4年目もよろしくだっぺよ!

大越今日もありがとうございました。


2009年10月1日。今日からミシマ社は、4年目に突入します!
ひきつづき、温かい応援のほど何卒よろしくお願い申し上げます。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

ミシマ社仕掛け屋チーム

バックナンバー