ミシマ社通信オンライン

第9回 2009年12月 「今年」の一冊

2009.12.22更新

三島今日は特別ゲストに、ブックファースト自由が丘店の広野店長に来ていただいています。

一同わーい。ありがとうございます。(拍手)

広野よろしくお願いいたします。

大越では参りましょう。今回は、今年最後ということで、今年刊行された本の中から「今年のベスト1」を選んでもらいました。じゃぁ、例によってじゃんけんでいきましょう。じゃんけんほい。

ユダヤ人ならではの世界観が、見事に結実した作品

今年の一冊

『ガラスの街』(ポール・オースター、柴田元幸訳、新潮社)

木村三島さん・・・ まさか、かぶった?

三島実はかぶるんじゃないかなって、昨日すこし思ったんですけどね。けど、先に紹介させてもらいます。私の「今年の一冊」は、ポール・オースター(柴田元幸訳)『ガラスの街』(新潮社)、柴田先生のサイン入りでございます。

木村いいなぁ〜 うらやましい・・・。

三島ポール・オースターは大学時代よく読んでいた作家で、最初は『シティ・オヴ・グラス』(角川書店)で読みました。でも、そのころは、なんとなくおもしろい程度だったんですね。それを、今回、新訳で読みなおして、一行目から一気に引き込まれてしまいました。その一行目というのが、
「そもそものはじまりは間違い電話だった。」
と、ここからはじまります。

気になる。

三島ちなみに、旧訳のほうを読みかえすと、
一行目「それは間違い電話ではじまった」。

大越なるほど。

三島内容は一緒なんだけど、導線が違うだけでだいぶ印象は変わって「そもそものはじまりは間違い電話だった。真夜中に電話のベルが三度鳴り、・・・」と来たとき、もう世界に溶け込んでいました。

登場人物にピーター・スティルマンという人とか、クインという人がいるんですが、名前もキリスト教やアメリカの古典文学などになぞらえていて、ひとつひとつに意味が込められていているんですね。そして、そこに適切な言葉がはいったときに世界が誕生する。そして、またそこからそれぞれの世界観を揺らしつつ、個人の存在を照らしていくんです。

窪田へー。

三島そこで、またポール・オースターの照らし方がおもしろくて「自分とは何か?」っていうアイデンティティをすごく問う国で、むしろ、自分の存在を消す、無になっていくことで「個」を照らしていくんです。
自己主張によって「個」というものが捉えられるアメリカで、「個」というものを消すことで「個」を浮かび上がらせる。そこがポール・オースターの格好いいところかなと思います。

旧訳では、こんな風には理解できていなかったので、10数年ぶりに読んで、それを教えてくれた柴田先生に感謝という一冊でございました。

木村ありがとうございます。こんなプレゼンの後、私どうしましょう。

窪田ははは(笑)。

木村でも、本当に素敵な話ですよね。じゃぁ、流れで私が次でいいですか? 

たぶん10数年後も絶対に読み返すだろうと思う一冊です

木村すみません。完全にかぶりました。今の三島さんのプレゼンの通りだと思いますが、すこし違う視点で物語を説明します。

今年の一冊

実は、この話のなかには、なんとポール・オースターという人が登場します。その時点でびっくりさせられるんですが、物語の構成も起承転結のわかりやすいものではないんですね。一冊を通して読んでみても「普通の物語」が頭にあったまま読み終えると、何を得たのかわからなくてぼんやりしてしまう人もいると思います。

けれども、この一冊でいろいろなポール・オースターの心の底にあるものが語り尽くされているし、でも、それを語ろうとして言葉を尽くしているわけではないんですね。さっき三島さんも言いましたけど、己を消すことによって回りの世界を照らし出しているというか。

それに、物語を語る上で人間が集中して読めるページ数とか、読みやすさも含めて、こんなにおもしろい本にはまぁ出会えないと思いました。それに装丁もすごい。

広野今年の新潮社はすごかったですね。売場にいてもそれは感じました。

木村すごかったですよね。なかに「赤いノート」が出てくるんですけど、この本、カバーを外すと・・・ 赤いんですよ。まさに本の中に出てくる赤いノートを読んでいるというデザイン。
本としても完璧だし、何回読んでもやっぱり新しい発見がある。たぶん10数年後も絶対に読み返すだろうと思う一冊です。いろいろな意味で超パーフェクトな一冊だと思いました。

ひとつ疑問に思ったのが、さっき「自分の存在を消して」ということをおっしゃっていたのに、本人が実名で出てくるっていうのはどんな感じなんですか?

木村本人の名前は記号として出てくるだけで、読んでも誰がポール・オースターかもわからないんですよ。

広野つまり、消されているということでしょうね。

木村そうそう。奥さんも実名で出てきたりして、すごくおもしろい。

広野「自分を消す」ことは、もしかするとわたしたちがベースで抱えている心性みたいなものとの親和性があるのかもしれませんね。

三島武道は、まさにそうですもんね。存在を消すために稽古をしているようなところがあって。

木村私はこれと同時に『愛の見切り発車』(新潮文庫)というもう絶版の文庫で重版してほしい一冊があります。抱き合わせでぜひ読んでほしいです。そして、柴田先生にはオースターの作品は、全部訳してもらいたいと思います。

今後の書店の行方が気になる一冊

今年の一冊

『一箱古本市の歩きかた』(南陀楼綾繁、光文社新書)

実は、今年一年で読んだ本を振り返ってみたのですが、ほとんど今年発刊の本じゃなかったんですね。そこで、慌てて読んでみた本がこれです。
『一箱古本市の歩きかた』(南陀楼綾繁、光文社新書)。「このなかにミシマ社のワークショップも出てるよ」ということで、どんな文脈で出てるんだろう? と思い買いました。すみません・・・。

で、きっかけはそんな感じだったのですが、読み進めるうちに、地域に根ざして本気で本に関わる人たちの「出版業界を盛り上げよう」という思いが伝わってきました。
愛知県のちくさ正文館さんや福岡のイベントブックオカ、鳥取の今井書店さんから影響を受けて本屋さんを開いた往来堂さんなど、流れや思いはこうやってつながってきたんだなと。そして、出版不況とは言われていますが、本を通したコミュニケーションをしたいと感じている人は、むしろ増えているんだなと思いました。

三島南陀楼さんの太っちょの絵もかわいかったよね。

木村記号みたいですよね。

広野古本市やこういうつながりの場が増えたのは、ネットの影響があるんでしょうね。各地で実施されている点としての取り組みに気づきやすく、また参加しやすくなっている気がします。
でも、この辺りの話題には悩ましい部分もあって。インディペンデント系の古本屋さんの台頭が目覚しいという背景には、自分の本屋を個人で立ち上げようとしたときに、実際に新刊書店での可能性としては難しいという現状もあったり。
 
三島なるほど。

広野今年は高遠でブックフェスティバルが開催されましたが、これも古本屋ですよね。新刊書店で働いている立場としては、複雑な気持ちもあります。

古本市に可能性はあるけど、コミュニティの生成ができればそれで良いのか?コミュニティをつくること自体は否定しませんが、本と出合う、探す、見つける場が求められる前提として、気が向いたとき誰もが自由に行きかい「匿名」の存在でいられることが絶対条件であり、顔見知り同士が集うことは二次的な部分だと思うんです。

つねにひらかれた場であり続けることを意識したい。たくさん小さなコミュニティができている現状と、新刊書店がどんどんなくなっているという現状と、その間で出版社さんがすごく揺れ動いている。その揺れ動きのひとつの側面ではありますよね。

先日、ジュンク堂新宿店のなかで「一箱古本市」をやろうとしていた書店員さんから、新刊書店での古本の扱い方には、非常に考えるところがあると伺いました。

広野たぶん、そういう傾向はこれからも強くなってゆくのでしょうね。結局、差別化を図るにしても、単なる品揃えだけでは難しい面がありますから。とはいえ、個人的にはあまりイベント的なものには頼りたくないんですよね。最後まで品揃えで勝負したいという思いがあります。

木村かっこいい。

広野イベントは来ていただくための手段であり、やっぱりレジに来てお買い上げいただくには、書棚の力が不可欠だと思います。

木村ふらっと入った本屋さんでも、意識の高い本屋さんはわかりますよね。「この本屋さんはこれがすごく好きなんだろうな」「こういう本屋さんにしようと思っているんだろうな」という意思は棚から出てくる。読者としては、それを見つけにいくのが楽しい。自由が丘店さんは、棚の色が見えるのが楽しいです。

広野ありがとうございます。いまは、スタッフのみんなに創ってもらっている感じです。私自身も10年前は渾身の思いで日々棚を構築していました。棚ばかりみつめていた、いま振り返るとすごく幸せで時期でしたね。

木村遠い目をしてますね(笑)

広野その楽しさとか喜びを、スタッフの皆さんにも知ってほしいと思いつつ、店長としては、そういうところを喚起する役目が今の自分の仕事なのかなと思います。ただ、理屈じゃないですよね。最終的にはなんでも。

木村そうですね。本当に。

広野すみません。なんか私がしゃべっちゃって。

いえいえ。ありがとうございました。

雑誌なんですけど、これしかないと思った一冊

今年の一冊

『ROCKIN'ON JAPAN特別号 忌野清志郎1959-2009』(ロッキング・オン)

窪田今年、僕にとって「これはえらいことになったな・・・」と思った出来事がふたつありまして、まずひとつはプロレスラー三沢光晴の死。そしてもうひとつが忌野清志郎の死です。

三島なるほど。

窪田というわけで、僕が選んだ「今年のベスト1」は、ロッキング・オン『ROCKIN'ON JAPAN特別号 忌野清志郎1959-2009』です。これは雑誌なんですけど、自宅の本棚を見てこれしかないと思いました。忌野清志郎のファンじゃない人にとってみれば、あまり興味がわかないかもしれませんけど。

三島そんなことはないですよ。ぼくも、線引きながら読んだもん。

窪田線ですか!? さすがですね。この本はまず、写真が最高にいいんですよ。大きな写真がどかんと使われていて、こういうのができるのはやっぱり雑誌ならではだなと思いました。記事は清志郎の過去の取材が中心で、そこに仲井戸麗市、坂本龍一など身近にいた方々の新しいインタビューが加えてあるんですけど、その過去の取材の蓄積がすごい!

広野たぶんロッキング・オン立ち上げた頃からちゃんと取材してたんでしょうね。

三島その愛が滲み出てますよね。

窪田はい。まさに出てますね。

三島人気が落ちてきたときのインタビューが、またすごくいいですよね。やっぱり編集した渋谷(陽一)さんの筋の通った感じがよかった。売れてるから注目しているのではなくて、「日本のロックはお前しかいないよ」ってはっきり言葉でおっしゃっていて、そこが何かぐっと来ましたね。

窪田ほんとそうですね。インタビュアーの渋谷さんがガンガン前に出てきているのが印象的でしたね。それがまさに「ロッキング・オン」スタイルなんでしょうけど、改めてすごいなと思いました。

広野インタビューじゃないですからね。批評に近いというか(笑)。でもそれがおもしろいんですよね。各インタビュアーの偏見でがーっといくところがすごくおもしろくて、そのスピリットは今も受け継がれてますよね。

三島びっくりしますよね。「日本語におけるロックができたのは、忌野清志郎をおいて他にいない」って断言しているし(笑)。

窪田言いきるのがすごいですよね。

三島忌野清志郎も、「だろ?」って(笑)。

木村個室の中の話を全部出してる感じですね。

三島いまでこそ、ネットとかいろいろあって、スタイルもあるけど、当時としては革新的な雑誌ですよね。

広告も入ってないですしね。

木村でも、ずっと持っておきたい雑誌って、こういう雑誌ですよね。

大越忌野清志郎の追悼号に広告など入れられん、という思いがあったんですかね。

三島保存版としてつくるならそうですよね。

その大きすぎる心の広さに、ただただ言葉が出ない

渡辺僕はもう、今年の一冊ということで急に身構えてしまってですね、ちょっとどうしたもんかなと思いましてね。というのも、今年の一冊は既に前回『自分をいかして生きる』(西村佳哲、バジリコ)を紹介してしまったというのがありまして。

木村すごい熱弁だったんですよ。

渡辺熱弁の割には、それを語る言葉がなくて「う〜ん、これは本当にすごいんですよ・・・」に終始していましたが・・・。

広野渡辺さんらしいじゃないですか(笑)。

今年の一冊

『国をつくるという仕事』(西水美恵子、英治出版)

渡辺本当にすごいと何も言えなくなっちゃって(笑)。
はい、それで、私の「今年のもう一冊」は、といいますと『国をつくるという仕事』(西水美恵子、英治出版)です。

これは、世界銀行副総裁だった西水さんが雑誌『選択』で連載していたエッセイ「思い出の国、忘れえぬ人々」を単行本化したものです。
どんな本か簡単に説明すると、西水さんが世銀に入行してからの23年間に関わった様々な人々、特にアジアの発展途上国のリーダーたちとの思い出が綴られています。

窪田実際、どんなことをやっていた方なんですか?

渡辺ざっくり言うと、銀行だから、途上国にお金を貸すのが仕事。ただ、単に貸すだけではなくて、西水さんは、「貧困をなくしたい」というのを使命にしていらっしゃる。ほら、政治が腐敗してたりすると、貸したお金がちゃんと貧困解消のために使われるとは限らないじゃない? だから、実際に貧困の現場に自ら足を運んで、その現実を何とかするために、リーダーに直言したりもするの。時に説教したり、時に支えたり。

窪田へぇー。

渡辺それで、私が特に印象深かったのが、ブータンのジグミ・シンゲ・ワンチュク雷龍王4世。この人はすごいです。

窪田めっちゃカミそうになる名前ですけどね。

今年の一冊

渡辺西水さんも尊敬してやまない人なんですが、彼は自ら「国王は65歳で退位する」という法律をつくろうとして国会と対立するんですよ。国会は、そんなんじゃ困ると言うんですが、国が一個人の力に頼るのは本来のかたちではないという信念によって法律を通すんですね。その他、雷龍王に関するいろんなエピソードをこの本で知りました。

自分が国王であることにしがみつくということではなくて、とにかくブータンおよび全世界の平和とか心のやすらぎというものを願って止まない人なんです。

徳が高いということさえも超越したような本当にすごい人で、その大きすぎる心の広さにただただ言葉が出ないというか、ブータン国王のすごさは、すごすぎてここで説明できないくらいです。

木村まさかとは思いましたが、またですか(笑)。

渡辺深いところで静かに感動するというか、騒がしい通勤電車のなかで読んでいても、心の中がしーんとしてくるんですね。「ははぁ・・・ こんな人がこの世の中にいるんだ・・・」と。

後は、西水さんの正義感。弱きを助け、生温いリーダーにはびしっともの申す正義感にも胸が熱くなります。
だから、また今日もなんですが「これは感動したんですよ」と勧めるには言葉足らずだなと思う感覚を味わえる一冊だと思います。

広野書店側の見方をすると、英治出版さんは最近、企業の社会的貢献とか、そういうトピックのビジネス書を多く出されてますよね。今年は原丈人さんの『21世紀の国富論』(平凡社)もすごく売れましたし、ああいう視点ですよね。だから、ある意味トレンドでもありますよね。

渡辺そうですね。さっきの「自分を主張する、自分を消す」という話とは少し違うかもしれないですが、個人のエゴイズムを超えたより大きなエゴイズムというんですかね。「社会がよければ自分もいいんだ」という感性が、この一年すごく出てきているように思います。

広野英治出版さんは、最近だと『アフリカ 動き出す9億人市場』(ヴィジャイ・マハジャン著、松本裕訳)とかありますよね。以前は、戦略とかマーケティングの本寄りだったんですけど、ある意味常にトレンドを捉えている出版社さんとして注目してます。

三島なるほど。ありがとうございました。

ブルース・リーに一度でも憧れた人必読の一冊

今年の一冊

『琉球空手、ばか一代』(今野敏、集英社文庫)

大越ついに私の出番が来ましたね。私は『琉球空手、ばか一代』(今野敏、集英社文庫)であります。

木村まさかの・・・

大越私は世の中の男というのは、2種類にわかれると思うんですよ。

窪田なるほど。

木村いきなり。

大越簡単にいうと、武道家か武道家でないか。

木村武道で切るんだ(笑)。

大越プロレスラーかプロレスラーでないか、とかなんでも分けられますが(笑)。この本は武道家でありベストセラー作家である今野敏先生が、ご自身の沖縄古流空手の修行遍歴を、ユーモアたっぷりに描いてまして、空手とか武道に何の興味が無い人にもとても面白く読める一冊です。イラストもすばらしい。

沖縄の古流空手というと、知らない人には「実戦的でない」と思われがちなんですが、もともとは薩摩藩の示現流という超実戦的な剣術に対応するために生まれた武術ですから、非常に実戦的なんですよ。

今野先生は、幼き頃にブルース・リーに憧れて以来、武道の修行を積み、いまも作家としての執筆を続けながら、「今野塾」という空手道場をつくって、ロシアにも弟子がたくさんいるという文壇一の武人なんです。

渡辺この先生、実技のDVD出していますよね。以前どこかの書店で流れているのを見て「作家じゃないの?」って思いましたよ(笑)。

大越村上春樹さんが作家の仕事をされながら、ずっと走っているのはよく知られていますが、物を書く人と身体性というのは密接に関連するとすごく思うんですよね。

木村沢木(耕太郎)さんも走ってますよね。

大越そうそう。評論家なんかでも、やたらと威勢のいいことを言ってるのに、本人がガリガリだったりすると、説得力がないじゃないですか。

渡辺ぶよぶよしている評論家もいますからね。

大越「若者は全員自衛隊に入れ」的なことを言っている人がぶよぶよだったりすると、「まずお前が鍛えろよ」とか思いますよね。

木村確かに(笑)

大越そういう点からいっても今野先生には武道家を描いた作品がたくさんありますが、その一つひとつの記述が大変説得力に満ちていて、私は大好きであります。

窪田その上ユーモアがすごいですよね。

大越そうそう。ということで、ブルース・リーに一度でも憧れたことがある人はぜひ手に取っていただけたらと思います。

売り場にいて今年一年象徴的だと思った一冊

大越では、最後、広野さんお願いします。

広野はい。いや、何か今までの話を聞いて薄々おかしいなぁ・・・ と思っていたのですが、先日三島さん「ミシマ社の本で今年の一冊選んでださい」って言いませんでしたっけ??

三島いや、ミシマ社の本以外で。

広野うわー。どうしようどうしよう。てっきりミシマ社さんの本と思い込んでいたので。うーん。どうしよう・・・。(しばし黙考)
あ、では、売り場にいてこの一年で象徴的だったなと思う一冊でもいいですか?

三島はい。もちろん。

今年の一冊

『今日もていねいに。』(松浦弥太郎、PHP研究所)

広野年初からこの年末までコンスタントに売れ続けている、松浦弥太郎さんの『今日もていねいに。』(PHP研究所)ですね。
松浦さんはこれまで書店経営、文筆業といろいろされてきて、私も折々にそのご活躍に魅了されていたのですが、数年前に『暮らしの手帖』の編集長に就任されて、そのときは個人的には「ん?」と思ったんですけど、今回この本を拝見して、ようやくしっくりするポジションに辿り着かれたのだな、と腑に落ちた感じがしたんですよ。

木村なるほど。

広野今年の女の子のファッションのトレンド知ってますか? ゆるかわ、ナチュかわ、森ガールですよ。

三島そうなんですか。

広野売り場でも、少し前までギャル系だった子たちが、この一年はふんわりとした感じに変わってるんですね。すごくわかりやすいんですよ。服装も髪型もギャルだったのが、おもいっきり「ゆるかわ?」に変貌しているわけで。

で、松浦さんは2003年に『最高で最低の本屋』(ダイエックス出版)っていう本を出されているんですが、そのときの松浦さんの生き方って、今も芯は変わってないと思いますが、何かすごく自分にも他人にも「厳しい」感じがしたんですね。そういう切れ味するどい厳しい感じが、今回はふわっとなっている。そういう雰囲気が、本当に普通に一般的になってきていて。

窪田なるほどね。

広野去年の12月に出た本ですけど、この一年はそんな感じだったなと。

木村確かに『最高で最低の本屋』を読むと、なんとも言えない厳しさを感じますよね。ドキドキしながら読まなければいけなかった。けど、『暮らしの手帖』の編集長になって、編集後記を見ると「あれ? 何で?」っていうくらい雰囲気かわりましたよね。

広野そう。その雰囲気がちょうどいい具合になじんできた頃にこの本を出されたんだと思うんですよ。この本は、うちでは平積みで一年間ずっと売れてました。

渡辺『ブルータス』の仕事術の特集でも松浦さん取り上げられてましたよね。あれってやっぱり売れました?

広野売れましたね。あれは当店でも売り切れました。弥太郎さんと安藤忠雄がけっこうフィーチャーされてましたよね。安藤忠雄は相変わらず「厳しい」!でも格好いい。

渡辺ははは。

渡辺弥太郎さんは仕事をスタッフに信頼して任せるとか、そういうことを書かれていましたよね。

広野そういう風になっていったんだろうなあ思います。

木村長く文筆業をされている方の場合、そういう風に変化が見えてくるのもおもしろいですね。

広野この本も、たぶん魂の変遷が見えますよね。声高にいっている感じじゃないところが、何かじわじわじわ〜っと染み込んでくるような。
これは松浦弥太郎さんに限らないんですが、そういうカリスマがあったり、一部の読者だった人が一般化する瞬間ってどうしてもそうなっちゃうんだと思うんですよね。

三島なるほどね。

広野だから、本人がそれをどこまで自覚的にやってらっしゃるのかは、わからないですけど、わたしが感じたのは、それこそコミュニティ的な要素で「カリスマ」としてもてはやされてきた方が、一般的な土俵にふわっと降りてきた感じがありましたね。
厳しい生き方としての象徴として、そこにあこがれる生き方もありますけど、そういう人がふわっときていることが、なんか「あぁそうか」と思った一年でした。

三島なるほど。なるほど、それでよくわかりました。

木村ありがとうございました。なんか、すみません。大混乱させてしまって。

広野こちらこそ、すみませんでした。紹介できませんでしたね『海岸線の歴史』。紹介するつもりで来たんですけど。

三島しかも、ご用意していただいて。

広野何かおかしいなと思ったんですよね。「自社本ならミシマ社さんにあるよな・・・」と思いながら「持ってくることにきっと何か意味があるに違いない」と思って(笑)。

木村まさかのミシマ社本? みたいな(笑)。

大越でも、結果的に今年っぽい本になったから、よいんじゃないでしょうか。

今年の一冊

木村雑誌も新書もハードカバーも全部揃ってますよ。

広野そうですね。ちょうど、文庫、新書からちゃんとある。すごい。

大越ということで、今日もありがとうございました。

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