ミシマ社通信オンライン

ミシマガ大人気企画(?)「今月の一冊」がやってまいりました。
毎回、ミシマ社メンバーの「今月読んだベスト本」を紹介しておりますが、今月は、ミシマ社メンバー以外に、ゲストをお招きしておこないました。
しかも、「鍋」を囲みながら!

今月の一冊3月号

さぁ、鍋だ!

リトルモアのマスイさん、オレンジページのヨコタさん、いつもミシマガを手伝ってくれている足立さん、松井さん、森さん、ホッシー、そしてミシマ社から大越、渡辺、三島が参加。計9人でおこなった「鍋を囲んで今月の一冊」。
畳にあぐらをかいて、「ほくほく」しつつ。そんな雰囲気で語った本の話、いつにもまして「温かい」空気が流れていますよー。
鍋をつつく気分でお読みくださいませ。

第12回 2010年3月 今月の一冊(前編)

2010.03.30更新

三島 ではでは、「今月の一冊」はじめましょうか。じゃんけんほい。

森王子、一生の一冊。

今月の一冊3月号

『ブルータワー』(石田衣良、徳間書店)

では僕から行きます。僕の「今月の一冊」は、石田衣良の『ブルータワー』(徳間書店)です。これを最初に読んだのは大学時代のある夏でした。そのとき僕は無気力な学生で、人生の目的もなく、うつうつと暮らしていたんですね。しかも実家住まいだったので働く必要もなく、勉強する必要もない。もう、最悪なコンディションですよね(笑)。そんなとき出会ったのがこの本です。

当時、石田衣良は『池袋ウエストゲートパーク』(文藝春秋)が売れて名前が出てきたところでした。これは、徳間書店発行の文芸雑誌「問題小説」で連載していたものをまとめたSFです。内容は、脳腫瘍になった主人公が頭の中で別の世界に飛ばされて、その世界でヒーローになって活躍するという話なんですが、その世界っていうのが、その当時のちょうど自分が逃げたい場所だったんですね。

マスなるほどね。うんうん、わかるわかる。

あの人も30歳半ばくらいまであまり目的もなく、小説家にもなれるかわからない人生を歩んでいた人なので、随所随所で感慨深い一言が出てくるんですよ。なので、すごく彼の人間性が投影された一冊だと思います。これで救われたところがあって、もう10回くらい読んでますね。本気で好きな一冊です。装丁もすごく綺麗です。

マス今月というより、一生の一冊じゃないですか(笑)。

ヨコ森王子の原点みたいな感じですね。石田衣良って、意外と読むと感動しちゃったりするんですよね。

大越僕も好きですよ。

彼は主にSF小説がおもしろいと思うんですね。『池袋ウエストゲートパーク』も身近な設定でありながら、信じられないくらいファンタジーの要素が強いというか。この『ブルータワー』も、暇があれば何度も読みかえしてしまうくらい世界観がおもしろい。そして、自分にとって、本というものに励まされた最初の記憶だった、というかそんな一冊でした。

三島なるほどなるほど。ありがとうございました。

じゃぁ、次は大越さん?

『DUO3.0』、ボブのダメっぷりがおすすめ。

今月の一冊3月号

『DUO 3.0』(鈴木陽一、アイシーピー)

大越いやいや、今日は参加しない予定。

渡辺さっき「『DUO 3.0』にしようかなぁ」とか言ってましたからね(笑)。

三島はっはっは。それ、英単語集じゃないですか。

大越今月読んで一番感動したのは『DUO 3.0』(鈴木陽一、アイシーピー)なんてねぇ。だから、今月はでない。

ヨコデュオかぁ、懐かしい〜。意外といい文章載ってたりするんですよね。デュオって。

大越そうなんだよね。あのね、デュオには500くらい例文があるんですけど、とりあえずボブとジェニファーっていう登場人物がいるんですね。

足立ジェニファーって(笑)。

大越で、最初はボブとジェニファーがいい感じで知り合って、つきあい始めるんですけど、そのうち「ボブはマンガばかり読んでいてしょうがないやつだ」みたいな例文が出てきて、評価が下がっていくんです。

そこに、ニックっていうやつが出てくる。ニックは根性が悪くて、「ニックは同僚を踏み台にして出世した。恥を知れ」とか、奥さんに浮気がばれたりとかするんです。例文で。

ヨコどろどろしてますね。

大越そうそう、そうなの。読んでるだけでおもしろいの。最終的に、ジェニファーは金持ちの男のもとに去って行くのね(笑)。

渡辺なまなましいじゃないですか(笑)。

大越他にも、パーティーに行ったボブが女の子と全然話せなくて、「どうしたの、ボブ? そんなに暗い顔をして」「ほっといてくれ。君には関係ないことだ」とか、「ボブは変装をしていたけれども、一目で彼だとわかった」とかね(笑)。

渡辺ちょっと! 単語を覚えるための本を超越してませんか?

大越ボブのダメっぷりを想像するのがなんかね、本当におもしろい。だから、英単語を覚えるんじゃなくて、ボブのことを知りたい人に『DUO3.0』をおすすめしたい。さらに『DUO3.0』の厳選版に、『DUOセレクト―厳選英単語・熟語1600』というのがあるんですが、そこでさらにボブの人生が語られているらしいです。そんな感じで以上です。ありがとうございました。

渡辺そんなことになってるなんて知らなんだ。デュオちょっと読んでみよう。

大越「DUO ボブ ジェニファー」で検索すると、けっこう研究しているページなんかが出てくるよ。

マスすごい。そんな奥深い世界なんですね。知らなかったです。

大越すみません。予期せぬ一冊で。では、ヨコタさん

20年間も現在進行形で愛し続けられるなんて、すごい。

今月の一冊3月号

『赤めだか』(立川談春、扶桑社)

ヨコ今日はですね、『赤めだか』(立川談春、扶桑社)をもってきました。私は大学生の頃から落語が好きで、もともと談春さんの高座を聞いてたんですけど、「こいつねちっこくて嫌だな」と思ってたんですよ。けど、この本が出たときにその理由がわかったといいますか、なんだか好きになってしまったんですね。

マスへー。

ヨコなんでかといいますと、この本は、談春さんが談志に惚れ込んで、19歳で入門してから真打になるまでの青春記録みたいな内容なんですけど、なにしろしつこくいろいろなことを覚えていて、すごく細かい。また、情景と心の機微が伝わってくるんです。

この人がひたむきに師匠に惚れ込んできたという、何か熱い、強い気持ちと強い愛を感じるエッセイなんですよ。私は会社とかで大変なときがあったときは愚痴りたくなるんですけど、愚痴ってもしょうがないので『赤めだか』を読むようにしています。

マスすばらしいですね。

今月の一冊3月号

オレンジページのヨコタさん、本を片手に

ヨコ20年間談志に惚れ込む、その強い気持ちにものすごい打たれるんですね。すごく男らしい一冊なんですよ。それと、「自分が惚れ込んだ人を喜ばせられないのに、観客を喜ばせられないだろう」っていう一言がいいなと。

これは、「自分が楽しめないのに、人が楽しむ本はつくれないよね」っていうことに置き換えると、モチベーションが高まるというか・・・。

大越本当にね、この本自体が落語なんですよ。笑えるし、ほろっとくるし、聞いてよかったぁ、と思える一冊なんですよね。

ヨコあと、この人自体がダメダメ。ギャンブラーなんですよ。それだけはやめられないって書いてある。この人と結婚はしたくないですね。

足立苦労するかも。

ヨコうん。でも、苦労しそうだからこそ魅力があるんだなぁ〜っていうこともすごく思います。本当に20年間も現在進行形で愛し続けられるなんて、すごい。

三島僕が一番好きなストーリーは、談志が談春に教えなくなるところですね。

ヨコ噺も4つしか教えてもらってないんですよね。なんで教えてもらえなくなったかというと、談春が風邪をひいて、「家元にうつしちゃいけないから稽古はやめておきな」と兄弟子に言われる。それを言ったら、談志が傷ついちゃったという話なんですけど。

三島それ以来、「もう絶対に教えない」って。その間、師匠と弟子の間の関係を20年続けながらも、談志は談春に何も教えていない。談志の「おれに惚れ込んで来たんだったら、全部おれの言うことを聞け」っていうセリフもね、すごくかっこいい。

ヨコいつも最後の章で泣かされてしまいます。落語を全く知らない人でも、青春日記として楽しめます。じゃぁ、次はマスイさん。

これを読むと「全然もっとがんばらなあかんな」って思います。

今月の一冊3月号

『8時だョ! 全員集合伝説』(居作昌果、双葉文庫)

マス私はこれです。『8時だョ! 全員集合伝説』(居作昌果、双葉文庫)。
この方はTBSの製作プロデューサーです。この字、読めないんですよね。何回も見ちゃうんです。いづくりよしみさん。みなさんご存知の、「8時だョ!全員集合」。30代以上ならみなさん見てますよね。

渡辺ご存知どころか、伝説の番組じゃないですか。

マスそうです。15年つくってて、放送は実際16年間なんですけど、その間、毎週土曜日の放映に向けて1本1時間つくる。800本ですよ! それって半端なことじゃないですよね。

足立ライブの生放送なんですよね。

マス収録の回もあるんですけど、ほぼ同じ面子、スタッフで、1回の放映のために作っては壊しを繰り返しているんですよね。

三島昔地元で「"全員集合"がわが町にやってくる」っていう事件があったんだけど、誰か知り合いが行ったっていうのを聞いたとき、本当に妬ましかったもん。もう、あそこに行ったっていうのは、超自慢できることで、もう町のなかでヒーローですよ。

渡辺僕の大学の同級生の西沢くんは、狭山市の公開収録を見に行って、後ろのセットがガラガラって崩れる場面で、「志村うしろー!」って大絶叫したって言ってましたからね。熱気がすごいらしいですね。

今月の一冊3月号

森王子(中央)とムード・メーカー、リトルモアのマスイさん(右)

マスそうなんですよ。地方収録も各地でやっていて、もうお化け番組ですよね。
で、なぜこの本を選んだかといいますと、私はリトルモア地下という場所の企画運営をやっていて、展覧会とかトークとか小さな舞台公演なんかもやったりして、生ものを扱っているんですね。まさにドリフの世界なんですよ。だから、身体論とかつくり手の背景に迫るドキュメントなんかの本からヒントを拾ったり、勇気をもらったりするんですよね。

で、まあ加藤茶が交通事故に遭ったり、音声来てるのに映像がまだだったりとか、生放送ならではのいろいろなトラブルが起こるわけなんですよ。

一時期、渡辺プロダクション(ナベプロ)の意向でドリフターズを番組から降ろして、クレイジーキャッツで番組をつくったときがあるんですよ。

渡辺え、そんな時期あったの?

マスあったんですよ。それで半年間、クレイジーキャッツの『8時だョ! 出発進行』っていう番組になって。その安易なタイトルも居作さんが決めてる(笑)

一同はっはっは(笑)

マスそれって、普通ありえないじゃないですか。すごい時代だなあって。ある意味ムダだったりすることもたくさんあるかもしれないけど、そうでなければ生まれないおもしろさがある。わけのわからないエネルギーですよ。

ヨコおもしろいものをつくりたいっていうパワーがすごいっていうことですよね。

大越生放送で停電になったこともありましたよね。

マスそうそれもすごいですよね。「8時何分?」「8時13分過ぎ! 全員集合」みたいな感じで始まったりして。
志村けんと仲本工事とプロデューサーが賭け競馬をやっちゃって、謹慎処分で出られなくなって、3人でやってたときもあるんですよ。

三島あったあった。志村けんがいないのは痛かっただろうね。その時代で一番笑いとってたのは志村けんだったからね。

渡辺全盛期の志村けんって、子ども同士で「シムラ」って言っただけで笑えましたからね。僕なんて今でも、板橋区の「志村三丁目」を通過するだけで笑えますから。「志村けん丁目」に空目しちゃいますから。

マスその、志村がみとめられていくところも、プロデューサーの目から書かれていておもしろいですよ。

渡辺ドリフのすごさって、僕自身が社会人として仕事するようになった今、はじめて「あ、こうだったんだな。」というのがわかるようになったりするところもあるのかなあ、と。それって仕事で裏方をちょっとでもやるようになって、はじめて見えてくるようなものじゃないですか。当たり前のようにやり続けるスゴさって。

マスそうそう、これを読むと「全然もっとがんばらなあかんな」って思います。相当画期的だったんですよ、ドリフって。

この本、ちょっと芸能本みたいになってしまってますけど、これは読まないともったいないです。マニアは絶対に読んでると思いますけど。
じゃぁ、次、ホッシー。

はじまったらもう最後まで行くしかない。

今月の一冊3月号

『精霊の守り人』(上橋菜穂子、新潮文庫)

ホシ私は上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』(新潮文庫)です。全10巻あるんですけど、ファンタジーって食わず嫌いでほとんど読んだことがなかったんですね。これは小学校のとき読んだ『ナルニア国物語』以来です。
これも特に興味はなかったんですけど、母親がすごくはまっていて、ある日机を見たら全巻置かれていて・・・。もう「読みなさい」っていう感じですよね。

それで、読んでみたんですが、本当にすごくて、久しぶりに巻が進んで、減ってくのがもったいないと思った本でした。何ていうか、ひとりの人の頭の中からこれだけの物語が出てくるのがびっくり、という感じです。

マス気になりますね。

ホシ簡単にどんな話かといいますと、主人公はバルサっていう短槍使いの女用心棒で、チャグムという一国の運命を背負っちゃう男の子と出会うんですね。最初はバルサがチャグムを守るという話から始まるんですけど、どんどん壮大なことになっていって、最後の方は国と国の争いで戦争ものみたくなっていくんです。

登場人物も10巻とおすと数えきれないくらい出てくる。でも、全員に背景があって、わかりやすい悪者とかは出てこなくて、それぞれに感情移入できるんです。「もう本当にどうやったらこれだけの物語が出てくるんだろう」みたいな本です。これは絶対に読んだ方がいいと思います。

大越すすめる人多いですよね。

渡辺仕事してると、こういうのに没頭してしまう自分が怖くて。社会復帰ができないくらいになったらどうしようって思うんですよ。

ホシ私もなりました。昼休みがすごい楽しみで、昼休みも延長してました(笑)。
文化人類学を研究されている方みたいで、背景の書き込みもすごいんですよ。全地図も頭の中にあって、どこからどこまで行くのにどれくらいかかるか、全部計算されてつくられてるそうです。本当にすごいです。

ぜひ、一週間くらいは外に出られないことを覚悟して、それくらいの時間をつくっても読んだ方がいいと思います。本当にすごかったですね。読んでよかったと思いました。

渡辺そんなこと言われてしまったら、さすがに気になりますね。

マスホッシーが言うなら確かな情報だと思います。でも、ドラゴンボールも途中で長くなってわけわからなくなっちゃったんですけど、夢中で背表紙集めてたのに・・・。

ホシこれは大丈夫ですよ。絶対読んだ方がいい。

マスじゃぁ読むわ。こわいわぁ。

渡辺きっと、ホッシーのおかんもハマるくらいだから間違いはないんですね。

ホシはじまっちゃったらもう最後まで行くしかないです。では、渡辺さん。

(つづきは明日!)

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