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第13回 2010年3月 今月の一冊(後編) 

2010.03.31更新

止まない嵐はない。

今月の一冊3月号

『勝負師と冒険家 ―常識にとらわれない「問題解決」のヒント』(白石康次郎、羽生善治、東洋経済新報社)

渡辺今日はみなさん、往年の名作が続いてますけどね、私からは、新刊をご紹介しましょう。『勝負師と冒険家 ―常識にとらわれない「問題解決」のヒント』(白石康次郎、羽生善治、東洋経済新報社)。将棋の羽生名人と海洋冒険家の白石康次郎さんが対談したという、そんな本です。

ヨットで世界の大海原を相手にしている白石康次郎さんと、畳の部屋で9×9で81マスを戦場にしている羽生さんですよ。この対極にあるようなふたりが、一体どんな話をするのか。「これはかみ合うのか?」というところもありまして、ちょっと読んでみたんですね。

この帯にあるように「三手先を読む。三日先を予想しない」とかですね、このかみ合っているようでかみ合ってないような感じが、読む前は不安だったのですが、ところがですね、これがかみ合うんですね。

足立へー

渡辺お互いに何かひとつ共通点があるとしたら勝負師っていうところですかね。棋士は対面に座っている人に対して勝負しているし、ヨットもレースですから、対戦相手がいる。

ただ、この白石康次郎さんは一人乗りのヨットでやっている人なので、ひとりぽこーんと海に放り出されたら、もう後は、凪が続けばいつ風が吹くかわからない、嵐が来ればいつ嵐が止むかもわからない、そんな状況の中に入る。

でも、なんて言うんでしょうかね。そういう極限状態でやっている人というのは、言葉が踊ってないというか、本当に実感の伴った言葉でやりとりをしているんですね。よく白石さんが言うことに対して羽生さんが「あぁそれ、よくわかります」とか言うんですけど、多分イメージしているものは違うけど、非常に共感されてるんだろうなっていうのが伝わってくるんですね。

三島なるほど。

渡辺いろんな章立てがされてるんですが、私がおもしろいなと思ったのは、第3章の「危機からの脱出法」ですね。何て言うんでしょうかね、結局、羽生さんも白石さんも自分の力ではどうしようもないところを相手にしてるわけですよ。

ところが、だからといって「どうでもいい」ということではなくて、だからこそ自分のベストを出さないことにはそこには向かって行けない。ベストを出してもそこで道が開けるわけでもない。だけど、白石さんの言葉で非常にいい言葉があって「嵐がいつ止むかなんて予想もつかないけれども、止まない嵐はなかった」みたいなことを言うんですね。

マスドリフにも出てくる。やばい。ちょっとおんなじじゃん。
ドリフのスタッフの合い言葉だよ。「止まない雨はない」っていうね。

渡辺そうそう、ドリフならお客さんにウケるかどうかわかんないところがあって、だけどそこに対して自分たちのもてるものを出し切っていく、みたいな感じですかね。
この本は、白石さんと羽生さんそれぞれの「生きる道」に対する心意気が伝わってくる一冊です。対談なのでさらっと読めますけどね、案外、これはいい本なんじゃないかと思うなあ。

ヨコ私、千駄ヶ谷で羽生さんとすれ違ったことがあるんですよ。何で気づいたかというと、歩きながら「エアー将棋」してたんです。びっくりしちゃって、ギャグかなと思ったんですが、本当にエアー将棋してたんです。

渡辺それぐらい毎日真剣勝負をしているんですよきっと。そんな生き方、このやさぐれた時代においては、もはやギャグと紙一重ですよ。

そうだ。あと、勝負事って運とかもあるじゃないですか。ヨットにしても風が吹かないと勝てない。で、運の話で言うと、運っていつも外的要因として流れているんだけど、誰もがつかめるわけではなくて、常に準備してるからつかめるところがある。私はそう理解しているんですけど。

この本で羽生さんが言うには、将棋にも戦法とか戦型にトレンドがあるらしいんですね。羽生さんの場合は、常に最新の流行型に対応できるようなオールラウンドプレーヤーを目指しているそうなんですが、その一方でずっとクラッシックな型にこだわりを持ってやっている棋士もいる。

で、そういう人はいま運をうまくつかめていないのかもしれない。だけど、いつかまた、トレンドがクラッシックな型に回帰するような状況がくるかもしれない。だから、そのときが来ることを信じて準備をしていないと、回帰したとき、やっぱりつかめないということになってしまう。こうやると決めたら、それを続けるのも才能だと。白石さん的に言うなら、凪が続いたときも、風が吹くことを信じて、準備を怠らない。むしろ、凪の時のほうが、やること多くて忙しいそうなんです。

羽生さんや白石さんの話を聞いていると、運をつかむというのもそれは運だけじゃなくて、実力が伴ってこそなんだと思えてきます。そして、日々、目指すところを見据えて、続けることです。そういう部分は、自分も日々仕事に向かい合うなかで、非常に考えさせられるなと思いました。やっぱり真剣勝負の最前線に立ってる人の言葉というのは、響きますね。

え? 語りすぎてる?
じゃぁ、松井さん。

軍隊生活は社会の縮図?

今月の一冊3月号

『神聖喜劇』(大西巨人、のぞゑのぶひさ、岩田和博、幻冬舎)

松井僕は今回マンガなんですけど、『神聖喜劇』(大西巨人、のぞゑのぶひさ、岩田和博、幻冬舎)です。「日本文学の金字塔」といわれる長編小説をマンガ化したもので、2年くらい前に2巻まで読んで保留にしてたんですが、最近6巻まで全部読んですごくおもしろかった一冊? です。

内容としては、太平洋戦争勃発直後が舞台で、ひとりの兵隊の3カ月間の軍隊生活を描いています。ただ、作者の大西巨人は原作を書き上げるのに25年かかっていて、その長さは400字詰め原稿用紙4700枚。すごくこってりとした濃い作品です。マンガでもすごく字が多いです。

うまく説明できないんですが、とにかく、主人公の東堂太郎という人は記憶力がよくて、軍の内務規定の全文を覚えることができるんですね。で、その正確な記憶を軸に、上官の理不尽な命令だとか、まちがった思い込みだとかに立ち向って行く。読みながら、ぼんやりとした認識がちゃんと論理的な言葉に置き換えられていくのが気持ちよくて、とにかくすごいなと思いました。

ヨコまだまだ知らないマンガってたくさんあるんだな。これって、書店で売ってます?

松井売ってます、売ってます。おもしろいのでぜひ。

三島作者ももう90歳超えてるのか。すごいなぁ。1918年生まれ。

戦争の語り部ってどんどん亡くなっていく時代じゃないですか。僕は毎年実家に帰ってるんですが、それってじいさんの話を聞くために帰ってるようなもんなんですね。

マスへー。

うちのじいさんは海軍に所属してたんですけど、「海軍精神注入棒」っていうすごい棒があるらしくて、「月一でケツを叩かれた」って言ってました。それと、「台所で肉を盗んだだけで竹の棒で殴られて死ぬ」っていうことがあったとかね。実際そこにいた人の話を聞けるって貴重だなとよく思います。

マスそういう話を直接聞く機会ってなくなってますもんね。

大越今でもはっきり覚えてますが、30年ぐらい前は、傷痍軍人の人たちが町にいたんですよね。幼稚園の遠足のときに出会ったんですが、手とか足がなくて、ハーモニカ吹いてお金をもらっていたりして。

ヨコあ、いた。新井薬師に。

大越でも、いまはもう見かけない。

渡辺僕の小学校のときの先生も戦争を体験されていて、そういう話を折りに触れてするわけですよ。まだ身近に戦争はあったんですよね。

マス小学校時代に公園で「はだしのゲン」の上映会とかありましたよね。

ヨコあったあった。「はだしのゲン」ね。

渡辺僕、ヒロポンとかいう単語は「はだしのゲン」で知りましたからね。
でも、もうあと10年、20年経ったらだいぶ世界も変わってるでしょうね。

大越そうでしょうね。でも、戦争があった時代って実はそんなに昔の話じゃないんですよね。意外と最近の話だったりする。

マス映画ができたのも意外と最近ですもんね。

今月の一冊3月号

松井さん(右)熱弁にむせる(?)三島

松井そうそう。まぁ、そういう感じで、この本も軍隊生活の話なんですが、読んでいくと意外と自分とは関係ない世界の話じゃないなと思えてくるんですよ。社会の縮図が描かれているといいますか、ややこしい人間関係があったり、差別やいじめがめじろおしで他人事じゃないなと。とてもおもしろいのでぜひ読んでみて下さい。
じゃぁ、三島さん。

もう、すべてが想定外。

今月の一冊3月号

『天使のナイフ』(薬丸岳、講談社)

三島私は『天使のナイフ』(薬丸岳、講談社)です。これは、ミシマガジンの「今日の一冊」で少年犯罪を描いた傑作と紹介されていたので、さっそく買って読んだ本です。そしたらもう土曜日の夜、途中で止まらなくなって、さらに読み終わっても興奮し過ぎて朝の5時まで寝られませんでした(笑)。

マスあははは。すごいですね。

三島もう、こんなの読むんじゃなかったと思いましたよ。いろいろ伏線があって、読み終わったあとも「あれがそうだったのか・・・」とかいろいろ考えてしまって寝られなくなってしまったぐらい、久しぶりにそういうのを味わった一冊でした。

マスへー。またそれはやっかいだなぁ。恐ろしくて読めないです。

三島内容は、少年犯罪がテーマのミステリーで、第51回江戸川乱歩賞受賞作です。そのときは、他の作品に余地がなかったくらい選考委員に絶賛された作品で、実際それくらい一気に引き込まれてしまう力があります。

描写は一見平凡に思えるんだけど、「最後にこうくるかぁ・・・」っていうのがあります。僕もこれを読んではじめて知ったんですけど、少年って15歳までは、人を10人殺しても死刑にはならないそうなんです。可塑性という言葉があって、少年はまだのびしろがあるっていう考え方をする。だから、人権派弁護士たちは「何歳で殺人をしても、それはそれまでのことであって、社会復帰を正しくさせてあげるのが僕たちの役目だ」と、そう主張するわけです。

ここで起こる事件というのは、20歳くらいの奥さんが、子どもがいる目の前で殺されるんですけど、殺したのが12、3歳の少年3人だったんですね。それに対して旦那は納得いかなくて、いろいろ問うんだけど、「少年法はこうですから」と言われてしまってどうすることもできない。すごくやるせない思いがあるわけです。憤りも、どこにも持って行きようがない。
というところからいろいろ始まって行くんですよ。

渡辺新聞に載る記事としては、奥さんが殺されたところまでで、一応事実として終っていて、そこからいろいろ展開すると。

三島またねぇ、いろいろ絡んで来るんですよ。殺された奥さんに、旦那も知らない過去が出てきたりとかね、いろいろあるんです。

ヨコ4転するんですよね。

三島2転までは「なるほど」って意外とわかるんだけど、「3転? え? 最後にここ?」みたいな。

足立なるほどねぇ・・・

マス確かに気になりますわ。

三島これは、見事ですね。構成がすばらしい。
「天使のナイフ」、これもこのタイトルしかないっていうのが、あとでわかるんですよ。途中までは、「こういうことでこのタイトルなのかな」って思っているんですけど、違うんです。

渡辺想定外なわけですね。

三島想定外なんですよ。読者の途中までの想像を超えちゃうんですよ。これはいい作品でした。じゃぁ、最後、足立さん。

Kポップの男性ファンを増やしたい。

今月の一冊3月号

『ミュージック・マガジン 2010年3月号』(ミュージックマガジン)

足立私は雑誌なんですけど、『ミュージック・マガジン』の3月号で、「燃え広がるKポップ!」っていう特集、最高です。

三島これ、この表紙気になって今日見た。誰これ?

足立これは、カラっていう女性トップアイドルグループなんですけど、K・A・R・Aで、カラ。
カラにめちゃめちゃはまっている劇団ひとりへのインタビューがあって、アルバムを40枚くらい買っていろんな人に配ったり、ラジオで毎週一曲はカラの曲をかけたり、熱烈に応援しているようなんですよ。つい誰かにすすめたくなるほど、今、Kポップは本当にやばいんです。

大越これまでの韓流とは何が違うんですか?

足立これまでの韓流やKポップのファンは女性が主体でした。例えば、ドラマからテーマソングへの興味とか、東方神起から他のKポップのグループへ向かう流れで女性が主体だったんですね。でも、去年韓国で、女性アイドルグループが大ブレークしたんです。

で、満を持して、今年その女性アイドルグループが日本に上陸すると。カラは今年の始めに来日したんですけど、赤坂ブリッツでの公演が5分で完売して、追加公演をしたくらい超人気なんです。

ヨコそれ行く人は男子ですか?

足立それが、6割女性、4割男性で男性がまだ少ないんですけど、私としてはこれをミシマガでやって、男性ファンを増やしたいんです(笑)。

ヨコ直球企画ですねぇ。

足立あと、カラもかわいいですけど、東方神起の後輩の少女時代っていうグループもめちゃめちゃかわいいんです。

三島へーー。知らんなぁ(笑)。

今月の一冊3月号

足立さん(右)はこの日も熱かった!

足立韓国名だと「ソニョシデ」っていうんですけど、どこか懐かしいんですよ。みなさん、80年代のアイドルで、おニャン子クラブやウィンクのダンスの振り付けを真似しましたよね。あんな感じで、Kポップって楽曲もダンスも、どキャッチーなんです。一度聴いたら頭のなかでループするメロディに、鏡の前で真似したくなるようなダンス。そこがなんか「あ、懐かしい」と思ったりする。

ルックスも高校時代の「2コ上のきれいな先輩」みたいな、パッと見、堀ちえみ風、原日出子風な、なんか今の日本のアイドルとは違う昭和っぽい素朴さがあるんです。

大越なるほど。

足立彼女たちの楽曲の幸福感たるや、すごいですよ。なので、ちょっと元気ないな、というサラリーマンに向けて、カラとか少女時代を布教したいんです。元気になるように。

三島足立さん布教するねぇ〜 本当に。いろいろ布教しないといけないのあるねぇ。

足立大越さん、好きかもしれないですよ。

渡辺大越さん、けっこうアレですもんね。

大越グラビアアイドルは嫌いじゃなかったですね。小野真弓とかね。

足立あぁぁぁぁ〜 けっこう近いかも。

三島大越さんグラビア系詳しいですよね。以前ブックフェアにミシマ社が出店したとき、どこかのブースにグラビアアイドル来たでしょ。

今月の一冊3月号

酔っぱらい隊長!

大越南明奈。

三島ブックフェアに出店してるから、僕らは販売やってるわけよ。でも大越さん「おお、アッキーナだ」とかいって、向こう行っちゃうんだもん。ブースほったらかして(笑)。

一同はははは(笑)

大越アキバ系の男とかに混じってね(笑)。

三島背伸びして見てましたよね(笑)。雑誌業界のブースに来てたんですけど。

足立そうだったんですか。そう。それで、『ミュージック・マガジン』って、音楽雑誌の中でも老舗の雑誌なんですけど、最近ではパフュームや菅野よう子とかを特集していて、ジャンルにこだわらず、今おもしろい音楽を紹介したいという視点にたっているんです。そういうなかでの「Kポップ特集」っていうところが、めちゃくちゃ熱い。

三島なるほど。その文脈が大事なんですね。

足立かなり大事。この特集ではKポップの歴史、メジャーとインディーの棲み分けの話、Kポップ最新CDのレビューと、Kポップ入門としては最適だと思います。

ヨコ今年ブレークしそうな感じなんですか?

足立ブレイクする可能性はあると思います。今年、カラは日本と韓国で活動するみたいです。少女時代の活動予定はリリースされていないんですけど、彼女たちが日本に来たらすごいと思います。あと、やっぱりKポップは、是非動画を見ていただきたいんです。

ヨコへー。

足立男性グループだと、今、韓国で大人気の2PM(ツーピーエム)っていう「猛獣アイドル」っていうくくりのグループがいるんですけど、これもやばいです。

渡辺「猛獣アイドル」ってどういうことですか(笑)。

足立歌番組の演出で氷の板をかちわって出てきたりして、大袈裟なくらいワイルド(笑)。ふだんは親しみやすい雰囲気なんですよ。でも、曲に入ると表情や目つきががらっと変わる。曲やダンスの構成もよくできていて、ひとつのショーみたいな感じなんです。今の私は2PMを見なきゃ寝られないくらいです(笑)。

みなさんにおすすめしたい動画は、少女時代の「Gee」、カラの「Mr」、2PMの「Heartbeat」。これは是非見て下さい。

三島ピンポイントで来ますね(笑)。なるほど、そんだけ言われたら見ますよ。
この表紙は今日気になったな。けど、Kポップのアイドルだとは思わなかったわ。イラストを見て戸田恵梨香かと思ってたもん。

というか、このまま行くと止まらなくなりそうなので、とりあえず「今月の一冊」はこのへんで(笑)。今日も熱い本が出ましたね。ほんとに、ありがとうございました〜。

2010年3月今月の一冊(後編)


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