ミシマ社通信オンライン

第14回 2010年4月 今月の一冊

2010.05.05更新

今日はGW最終日ですね。
大変遅くなりましたが、ゴールデンウィーク特別編ということで、「今月の一冊(4月編)」です。
今回は、新メンバー・ほっしー(orホッサム)こと星野を加えておこないました。

大越 ではジャンケンほい!

暑いときに読んでもらいたい。

今月の一冊4月号

『八甲田山死の彷徨』(新田次郎、新潮文庫)

窪田では、トップバッターやらせてもらいます。今日は、新田次郎の『八甲田山死の彷徨』(新潮文庫)です。これはすごいおもしろいです。先日、沢木耕太郎さんの『凍』(新潮文庫)を読んで、たまらなくおもしろかったと、有隣堂八王子店の店長に話したところ、「新田次郎もおもしろいよ。一冊読んだら、全部読みたくなっちゃうよ」とすすめられて読んだ一冊です。

内容をざっくり説明しますと、明治35年、日露戦争を目前に控えてごたごたしているときの実話をもとにした小説です。設定としては、今後ロシアと戦うにあたって、寒い地域での戦いが予想される。だけど、日本軍は寒中での戦闘の経験があまりになさすぎる。ということで、あくまで、「訓練として青森と弘前の間にある八甲田山越えをやらないか」という提案がされるんですね。
 
それで、それぞれが交差するように進んでいく行程で、青森の第五聯隊と弘前の第三十一聯隊どっちがそれぞれの目的地に効率よくたどりつけるかを競争しました。で、その結果、青森第五聯隊は参加者のほぼ全員、200人近い人が凍死。そして、方や弘前第三十一聯隊はひとりの死傷者も出さずにゴールに辿り着くという結果になりました。

両者の大きな違いは、隊長の行動にあらわれてくるんですね。成功した弘前の隊長(徳島大尉)は、まずその危険な訓練、ほんとうはみんなやりたくないんですが「わかりました。やります。でもすべての指揮、あらゆる判断を私に任せてください」と約束した上で引き受けるんですね。
で、一方、青森の隊長も引き受けるんですが、その隊長のさらに上層部の指示に従わざるを得ない状況で進んでいく。

人選も、聯隊の規模を決めるときも、いちいち上官がいらぬことを言ってきて、リーダーもその一言に従わざるを得ない。その結果、局地的な場面で、あらゆる判断が思う通りいかず、最終的にみんな死んでいってしまう、という悲劇がおこってしまった。

逆に、弘前聯隊は、リーダーの瞬間瞬間の圧倒的な判断力によって、時に冷酷なときもあるんですが、それが的確に進むことによって危機を切り抜けた。その対比が両者の場面を行ったり来たりしながら描かれていて、非常におもしろかったですね。

なるほど。

窪田これは、どっちが優秀だとか、良い悪いということではなくて、どっちも人間としてあり得るし、それが実際、現実にそういう事件があって、現実にたくさんの人が死んだということがあった、というのを作家の想像力も含めて描かれているのに驚きました。

三島徳島大尉が自分に全権を委ねてほしいと上の少佐に頼むときのセリフが印象的ですよね。「雪地獄の中で一人の落伍者が出ればこれを救うために十人の落伍者が出、十人の落伍者を助けるために小隊は全滅するでしょう。雪地獄とはそういうものです」。こう言って、「全権委任」と「小聯隊での編成」を求めるんですよね。

危機に際して、組織がどう動けばいいかを切実に教えてくれる事例だと思いました。大聯隊ではなく、小聯隊を組む。自分たちが置かれるだろう危機を骨の髄まで感じきっている人に全権を委ねる。そして、一糸乱れぬ統率のもと動く。危機をどう乗り切るかを知るためにも、すごく勉強になる本でした。

大越映画にもなってますよね。

渡辺高倉健が出てる『八甲田山』でしたっけ。

窪田まぁ、『凍』と比べてどっちがおもしろいかはわからないですけど、ぜひ暑いときに読んでもらいたい一冊です。すごく寒くて凍える、怖い話なのでこれからの季節にいいかもしれません。冬に読むとへこんじゃうかもしれないのでね。じゃあ、次は渡辺さんで。

新入社員の人より2年目、3年目くらいの人に読んでほしい。

今月の一冊4月号

『世界で一番ゆるい 王様の時間術――これで残業もゼロになる』(水口和彦 著、タラジロウ イラスト、ダイヤモンド社)

渡辺私は久しぶりに、ベタにビジネス書を一冊。ダイヤモンド社から出ている、『世界で一番ゆるい 王様の時間術――これで残業もゼロになる』(水口和彦)というものです。

大越なるほど。時間術ですか。

渡辺この本は非常にいいですよ。ちょっと物語風なストーリーを盛り込む工夫があって読みやすく、簡潔に時間術のキモが網羅できます。

ストーリーは、裕福でヒマそうに見える大国「明るい国(こく)」の王様の元へ、なんだかうまくいっていない小国「ヒマナイ国(こく)」のヒマナイ王子が修業のためにやってくる、という枠組みとなっておりまして。

王子によれば「ヒマナイ国」には、「計画庁」という省庁があるそうで(笑)。なんでもヒマナイ国では、計画性が第一とされているのだとか・・・。あらゆることを一分一秒たりとも無駄にせず計画に盛り込むんですが、いろんな事情で計画通りにはならず、計画を立て直すために、計画の修正をやる部署まであるらしい(笑)

三島イラストも入ってますね。

渡辺そう。このあくせくしているのがヒマナイ王子です(笑)。

そんなヒマナイ王子がが明るい国で、王様にいろいろと仕事術を教わりながら、最終的には明るい国のお姫様とデートをしたりしつつ(笑)、タイムマネージメントを身につけてまた国に戻っていくというハッピーエンドなストーリーに仕上がっております。

仕事をたくさん抱えているときに、どう仕事を進めていったらやりやすいのか? といった辺りに「もやもや感」を持っている方には、この本は非常に効きますよ。すぐ参考にできそうなことがたくさん書いてあります。

よく「仕事って何?」ってなったときって、つい「働き方?」とか「生き様?」というほうに頭がいってしまいがちになるのですが、それ以前に実務的なところで「あなたの今日やる仕事はどういうもので構成されてるの?」みたいな問いにパッと明確に答えられる人って、案外少ないのかなと思っているのですが。

僕自身もかつては、「あなたが今日する仕事、明日する仕事はなんですか?」と聞かれたら、一瞬答えに詰まったりしたものですから、そういう人には特におすすめです。

例えば、仕事というのは「アポイントメント」と「タスク」に分けられるという話があります。「何時に誰々、何時にどこどこ」という時間が付随した仕事と、時間に縛られてはないけれど、今日中にやらなければいけない仕事、このふたつがある。

そういう枠組みを知るだけで、頭の中を整理できたりするので、こういう概念を知識として知っておくのはよいかなと思います。
他にも、予定の立て方や手帳の使い方とか、具体的な例がたくさん載っているので、これで1429円+税はなかなかお得なのではないかと思いました。

三島なるほど。

渡辺実は、先日この本を林さんに貸し出したところ、夜に貸したのに翌日の朝に返ってきて驚いたんですけど、そのくらいすぐ読めてしまいます。でも、これを読んだ後の林さんの社内スケジュールの入れ方が劇的に変わったの、みなさんご存じですか?

(一同、首をふる)

実は、この本が林さんのきっかけだったのだ・・・と、勝手に思っているのですが(笑)。

大越流行のビジネスエンタメという感じなんですかね? 

渡辺別に、エンターテイメント性が高くてストーリー自体がおもしろいということは全くないんですけど(笑)、この舞台設定が本自体を読みやすくしている感があります。案外、新入社員の人より2年目、3年目くらいの人に読んでほしいかなと思いますね。ひととおり何かやってきたものを、一度整理するという部分で非常よいのではないかなと思いました。

大越なるほどなるほど。ありがとうございました。では、次のご指名をおねがいします。

渡辺じゃぁ、今日はこういうまわりで、こうだから、こうですね(注:座っている順の対角線を指名するという意。汗)。

でも、ミステリーなんですかね? これ。

今月の一冊4月号

『独白するユニバーサル横メルカトル』(平山夢明、光文社文庫)

えっと、今日は『独白するユニバーサル横メルカトル』(平山夢明、光文社文庫)です。
この本に出会ったきっかけは、吉野朔美さんと平山夢明さんの『狂気な作家のつくり方』(本の雑誌社)という対談集を読んだことでした。もともと私は吉野さんが好きだったので、その吉野さんが絶賛していた平山さん、でしかも「このミステリーがすごい!」で第1位になっていたので読んでみました。

そしたらまぁ、世にも奇妙な物語みたいな短篇で、グロテスクな話もあるんですけどすごくおもしろかったんですね。

特におもしろいなと思ったのは、乞食が町に住んでいて、その乞食と少年がやりとりする話ですかね。乞食と少年の間でいろいろ小さな事件が起きるんですが、最後に乞食のおじさんは、池で溺れて死んでしまうんですね。
何で溺れたかというと、乞食のおじさんは、少年に小さな置物をプレゼントするんですが、少年は「こんなものいらない」といって捨ててしまうんです。そのプレゼントを拾おうとして、うっかり池に滑って死んでしまった。

それで、「えーっ」と思ったのは終り方で、乞食のおじさんが死んだ理由を後で知った少年が、「あの人はこんなものを拾うために死ぬなんて、本当にくだらない人だったんだなと僕は思いました」という感じで、いきなり終わってしまうんですよ。

三島平山さんおもしろいよね。

なんというか、子ども、というか人が本来持っている残酷さというのは、気をつけないとサッと出てきてしまうものなんだなと。そういうのがいろいろな短篇に随所に入っていて、すごい気をつけようと思いました。
そして、こういう話、けっこう嫌いじゃないんだなと気づいた一冊でした。

大越平山さんの文章って独特ですよね。

淡々としてますよね。

大越でも、電車の中で若い女の子が平山夢明のこの本を読んでたら、けっこう驚くな。というか、いいセンスしてるなと思うな。

三島平山さんは、狂気と笑いのラインを常に行き来してる人ですよね。「SPA!」のエッセイは完全に笑いの方に行ってらっしゃって、でもときどきグロテスクな話をぼーんと出すからすごい。ほんと、むちゃくちゃですし(笑)。

でも、実生活は家族仲良く、子どもが2、3人いるお父さんで、顔もほがらかな人なんですよね。いや、本当になんか惹きつけられる人です。とにかく、この一冊はぜひ、おすすめです。でも、ミステリーなんですかね。これ。

三島ミステリーじゃないけど、無理やりジャンル分けすれば、そうなるんでしょうね。

大越SFでもあり、ホラーでもあり、という感じだよね。では次は・・・。

星野さん!

普通の人が使ってない潜在パワーを使って生きているおふたり。

今月の一冊4月号

『賢い身体、バカな身体』(桜井章一、甲野善紀、講談社)

星野私は、『賢い身体、バカな身体』(講談社)です。桜井章一さんと甲野善紀さんの対談なんですけど、ちょっとこのふたりの組合せだけでときめきました。

三島なるほど。

星野甲野さんは武術の方から身体の研究をずっとされている方で、桜井さんは麻雀をずっとされてきた方です。特に武術をやってきたわけではないようなのですが、すごく身体論に精通しているというか、本能的に長けている人で、そのふたりが身体についていろいろ話しています。
 
私がいちばんおもしろいなと思ったのは、「日々のちょっとした身のこなしって大事だよね」という話あたりです。昔はみんな、混んだ道とかで人とすれ違うとき、無意識にちょっと肩を傾けて当たらないようにすることができてたのに、最近はそういう自然な仕草ができない人が増えている、と言ってるんですね。そういう感じで、細かいことの積み重ねで、みんないろんな感覚が鈍くなってきているのではないか、ということを話しています。

私も日々の積み重ねとか、身体に関することとか、第六感みたいなことは大事だと思っていて、「道を歩いていて、今日はなんとなくこっちの道をあるいてみよう」とか、「隣で働いている人、今日は体調悪いのかな」となんとなく思うことは気をつけたいと思っているんですね。

そういうなんとなく思ったことを流さずに、ちゃんとひとつひとつ積み上げて生活していくと、この二人の境地のようなものに達することがあるんだなと、対談を読んでいると思えてくる。なんか勇気がわいてくるといいますか。「普通の人が使ってない潜在パワーを使って生きているおふたり」という感じも、なんかすごい。わたしもそういうふうになりたい、そういうことを心がけていきたい、と思った本でした。

大越桜井章一さんをリスペクトしてる人ってすごく多いですよね。

渡辺そうなんですよ。実は私も。なぜなら今日、この本を紹介しようか迷ってたくらいですから(と本をいきなり出す)。『努力しない生き方』(集英社新書)たぶんこれが桜井さんの本で一番新しい新書です。しかもこれ、サイン本ですから。

星野すごーい。何でサイン入りの本もってるんですか(笑)

渡辺紀伊國屋書店新宿本店に行ったとき、「サイン本あります」と書いてあったので買っちゃいました。

三島これは貴重ですね。

星野なんか、頭で考えて言っているというよりは、本当に経験則で言葉が書かれていますよね。

渡辺一旦自分が感じたものを自分の言葉で表現しなおしているところがありますよね。当り前のように使われている「努力」という言葉も桜井流の「努力」という言葉の解釈のしかたがあるというか。たぶん身のこなしとかも、師匠がいるわけでもなくて、自己流の解釈でやってる感じなんですよね。
でもこれで甲野さんと話がかみ合ってるのだとしたら、ものすごいことですよね。

星野そうなんですよ。甲野さんが桜井さんをリスペクトしている、そのしっぷりにびっくりしました。

三島へー。

星野甲野さんが桜井さんと初めて会ったときに、「ものすごい驚きと畏怖に近い感情が起こった」と話されていて。「甲野さんにそこまで言わせるってどういうことなんだ?」という感じがして。

三島すごいな。桜井さんの「20年間無敗」っていう経歴もすごいな。そんなことって可能なんだね。

渡辺「ほんまかい」って思うんですけどね。でも、もはやそれが本当でも嘘でもどっちでもいいですよ私は。

大越将棋って基本的に全部見えてるじゃないですか。でも麻雀は相手の手のうちとツモれる牌が見えないんですよね。だから、そこで勝ちつづけるってすごいことですよね。

渡辺やっぱり「感じるしかない」っていうのはあるのかもしれないですよね。桜井さんは麻雀打ちをやろうと思ってやってきたわけではなくて、たまたま麻雀打ちを続けてきただけだって言い張るんですよ。本能的に、何か感じとる力がすごいんでしょうね。

でも、感じるんだけど、感じたことにあまり惑わされていないようにも見える。というところが生き物としての桜井さんが持っている特質なのかなという気は少ししたところです。とにかく興味深い人なんですよね。

星野そうですよね。おもしろいですよね。本当に、おもしろいのでぜひ。
じゃぁ、次は大越さん。

文章でボクシングを見事に描ききっている希有な小説。

今月の一冊4月号

『BOX!』(百田尚樹、太田出版)

大越私は、『BOX!』(百田尚樹、太田出版)であります。最近文庫も出て、この五月には映画にもなり、大ヒットしている小説ですが、青春スポ根小説が好きな方はぜひ読まれるといいと思います。
 
簡単にあらすじを紹介しますと、アホでおちゃらけだけど、天才的なボクシングセンスを持つ鏑矢というやつと、幼なじみで中学時代いじめられっこだった、木樽くんという少年二人が主人公の、青春ボクシング小説です。このふたりは仲良しで同じ高校に入るんですね。でも一方は特進クラスで運動も全然できない。で、やんちゃな鏑矢というやつはボクシング部に入って活躍していく。
 
でもある日、木樽くんが女の子と街で歩いていたら中学時代のいじめっこと会って、そこでやられてしまうんですよ。それで、一念発起してボクシング部に入って、努力していく。そして、最終的にはものすごく強くなっていくんですね。さらに、別の高校に「努力できる天才」、稲村と言う選手がいて、三つ巴で闘っていくという感じの話です。

そこに、身体の弱いマネージャーや美人の先生との淡い恋なんかも絡んできて、非常に映像的な話が続いていく。うちのかみさんもまったくボクシングに興味がないのに、ふた晩くらいで読み上げてしまったというおもしろい小説です。

窪田なるほど。
 
大越作家の百田尚樹さん自身、大学時代アマチュアのボクシング部にいたんですね。百田さんがインタビューで話されているんですが、ボクシングの名作というのは「ロッキー」や「レイジング・ブル」とか映画ではたくさんあるけど、小説ではほとんどなかった。それはなぜかというと、ボクサーは1秒間に3発とか5発くらいパンチを打つんですけど、それを文章であらわすのは不可能に近かったから。で、百田さんはこの小説で、ボクサーの試合中の動きを全部文章で描くことにしたんです。それがすごくスリリングな効果をあげていて、まるで試合を見ているみたいにどきどきする。
 
あと、ボクシングって競技は、見るのとやるのではものすごい違いがあって、たぶん実際にリングに上がったことのある人じゃないと本当のところは書けないと思うんですね。
 
例えば、この小説の中にも、試合が終わった後、顎が痛くて飯が食えないという話があるんですけど、本当にそうなんですよ。パンチを食らうと顎の関節が痛むから3日くらい嚙めなくなってしまう。
 
とにかく、そういう描写がリアルで映像的で、情景が浮びつつ、ボクシングの魅力が本当にわかるという感じです。
木樽くんが一日2000発とかジャブの練習をして、どんどん強くなっていくのが痺れるくらいかっこいい。読後思わずシャドーボクシングをやりたくなる。そういう小説でありました。

渡辺大越さんは高校のボクシング部だったとき、この小説を読んでたらどうなってましたかね。

大越たぶん目の色が変わっていましたね。3日くらいは(笑)。
だいたい、高校のときもそうだったんですけど、辰吉の試合があった次の日はみんな頑張るんですよ。でも、その次の日はみんな疲れちゃってこなくなっちゃう、とかありましたね。

渡辺ぐだぐだじゃないですか(笑)。

女性の誘惑力のすごさを味わった一冊です。

今月の一冊4月号

『パライゾの寺』(坂東眞砂子、文春文庫)

三島私は、坂東眞砂子先生で、『パライゾの寺』(文春文庫)です。これは、7つの短編小説で、テーマは女性の性を扱っております。その手法としては、宮本常一のような民俗学者が高知や九州で、いろいろな老人に話を聞きながらその記憶をもとに話が展開されていきます。

物語は全部「あの頃はこんなことがあったのよ」というところから描写が始まっていくんですけど、そこで提示される話というのが、女の人の性や怨念、怨嗟といったもので、坂東ワールド全開なんですね。

タイトルの「パライゾの寺」というのは、江戸時代末から明治政府が宗教を禁止して仏教でさえ廃止されていった時代に、それでも隠れキリシタンとして信仰を貫いていた人たちが長崎から高知のある村に隔離されるんですね。
そこで、そのキリシタンたちを改宗させようとするんですが、彼らは長崎から流されてくるぐらいですから強い信念を持っている。みんな改宗しないんです。

そこで、ひとつの方法として、姦通とか密通といった性的関係を持つことによってキリスト教の教義を破るという事実をつくらせたらみんな改宗するんじゃないかとある人が考えた。それでひとりずつ夜な夜な幻想的なお寺に連れられていくんですよ。そこには遊女が待っていて、いろいろ誘惑をする。だけどやっぱり信念を持ってるから、みんなぎりぎりのところで耐えて戻ってくる。それでも、ぐらっとしてしまった自分に対して罪の意識に苛まれて、みんな自信を失いながら帰ってくるんですけど、ぎりぎりで耐える。

それで、遊女たちもあんなに誘惑しても何も手を出さないので、やる気をなくしてくるんですね。でも、ある日、そこで一番キリスト教を信奉していた男が、がっと心が動いてしまった。それはなぜかというと、その男がときどき歌っていた賛美歌をその遊女は、村を散歩してたついでい遠くから聞いていて、暗記してたんですね。それで、その寺にふたりきりになったときに、それを歌ったら、「この女性もキリシタンなんだ」と思って、気づいたら交わってた。そこでも罪の意識を覚えるのだが、果たして・・・。

窪田気になりますね。

三島あとは読んでのお楽しみです。
坂東さんの魅力が凝縮した一冊です。坂東さんのモチーフは常に、大きな歴史ではなく、土俗的な民話とか説話です。それをエンターテイメントとして、ある種ホラー的に書く。これを書かせたら坂東さんの右に出る人はいないなと思うくらい、もう一気に読んでしまいました。読んだら止まらなくなる一冊です。

大越なるほど。

すごい帯コピーですよね。「隠れキリシタンたちに女体による試練が!」って(笑)。

三島この設定がすごいよね。
でもこれは一景にすぎなくて、実は他の話はもっとすごいんですよ。
すごく簡単に説明すると、村にひとり目の見えない男の人がいましたと。その人が杖をつきながら河原を歩いていたときに、女の人がからかいついでに、「左よ左、もっと左、そうじゃないと川に行くよ」と言うんですね。

その人は素直だからその言葉通りにどんどん進んで行く。で、そのままどんどん川のほうに入っていくので、からかって、みんなで笑ってたら、川の真ん中あたりでその男の人が転んで、溺れそうになるんですね。それで、慌ててふたりの女の人が助けにいくんですが、救出後、びしょびしょになった体で自宅に帰るんですけど、そこで、そのふたりの女の人が、目の見えない男の人を犯すっていう話があるのよ(笑)。すごいの、そこの描写が。

こわい〜(笑)

窪田なんで、そうなるんでしょうね。

三島それがね、必然かのように書かれるからまたすごいんですよ。あんまり言うとね、エロくなりすぎてしまうので止めておきます。女性の誘惑力のすごさを味わった一冊です。

窪田女性が書いてるところがまたすごいですよね(笑)

三島この短篇は全部、常に女性から誘惑してるんですよ。そこがポイント。「こんなふうに男を追いこんで行くんだ」というね。

渡辺この「お接待」っていうのも、「お」がつくだけでもすごいこう香り立つものがありますよね。

大越隠微な響きだなぁ。日本の闇と言うか、坂東さんの闇と言うか(笑)。

三島歴史はだいたい男性中心に書かれてたけど、女性の誘惑によっていろんな歴史は動いてたっていうことを想像せずにいられない話ですよね。これまで伏せて書かれていた部分を、坂東さんは明るみにしてる感じがします。

窪田そこを掘り起こすのが仕事なんですね。

三島さらけ出してるっていうところがさ。動物としての本能とかそういうものを赤裸々に書く。いやぁ、すごいです。
という、そんな感じです。今日もありがとうございました〜。

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