ミシマ社通信オンライン

第20回 2010年7月 今月の一冊(前編)

2010.07.29更新


三島今日は白川密成さんをゲストに迎えての「今月の一冊」です。はるばる四国から「このため」だけにお越しいただきました〜。

密成い、いえいえ。他にもありますが(笑)。よろしくお願いします。

三島ではまず、密成さんが適当に指名してください。

密成そうですか。では、窪田さん。

正面からぶつからない「横から営業」。時には筆談も

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『病んだ家族、散乱した室内―援助者にとっての不全感と困惑について』(春日武彦、医学書院)

窪田はい。ありがとうございます。最初にやらせてもらいます。
今日はトップバッターとして、ヘビーな本を持ってきました。春日武彦さんで『病んだ家族、散乱した室内―援助者にとっての不全感と困惑について』です。医学書院さんの「ケアをひらく」シリーズですね。

春日さんは、もともと産婦人科医だったのですが、障害児を出産した母親と接しているうちに、その精神的なフォローを考えていこうと精神科医に転向された方です。

この本では、春日さんがいろいろなお宅に訪問して、病院に来る前の患者さんを診ていくということをされています。そこで、「こんな家族が実際にいるんだ・・・」というような人たちと出会います。虐待やら近親相姦といったケースはけっこう多くて、しかも「家」という狭い世界のなかで行われているので、本人もどうしてよいかわからずどんどん病んでいってしまうんですね。

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だから、春日さんいわく、病院に行った時点でもう1/3くらいは治療が終わっているんだそうです。病院に行くことができた時点で、かなり治療は進んでいると。そこまでがたいへんなんだ、ということを言っています。

これはどちらかというと専門書になりますが、専門知識がない人たちに向けても書かれているので、非常におもしろかったです。

たとえば、アルコール依存症の治療のところでこんな話がありました。
家族というのは不思議な存在で、現状を変えようとしているようで、実は現状を維持するようにみんなが無意識に動いていることもあると。本当に回復させようとしたら、家族を崩壊させる可能性すらあるんですけど、それを無意識に拒否してしまう家族がいる。でも、客観的に見ると、壊すリスクを負ってでもやらないといけない場合がある。

木村なるほど。

窪田夫婦でも、本当に治療した際には離婚してしまうかもしれない。離婚してでも、ちゃんと独り立ちして暮らしていくのがいいのか、そのままずっとズルズルいくのがいいのか、というところで後者を選んでしまうことがある。そういう話がたくさん書かれています。

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密成そうすると、治るって何かっていうと難しいですよね。

窪田そうですね。それと、僕はある種、実際にケアに行くときのポイントとかも営業の仕事に絡めてこの本を読んでいました。

「具体的な対処方法のいくつか」というところなんですけど、「まず正面から近づかない」。正面から近づくと、相手に緊張感を与えることがあるので、「そっと横から近づく」のが大事だと。「大きな声は禁物である」とか。

密成「カップルは隣同士でご飯を食べる方が仲良くなる」と言ったりもしますよね。

窪田そうそうそう。

密成「じゃかぁしいや」って感じですよね(笑)。

三島お坊さんお坊さん。

密成正面から向かうと敵になるんですね。

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窪田そう。よく会議とかでも面と向かって話しあうより、横に座ったほうが同じ仲間として話しあえるということもあるらしいので。
「幻聴や妄想のある人に大きな声は禁物である」というのは、たとえば「スパイが家の外からずっと自分を見ている」という妄想をもたれている方からすると、自分の話を聞かれてしまうことをものすごく嫌がる。そこで「時には筆談も」必要らしいんですね。

木村へー。

窪田「まえがき」もすごく読ませるんです。まず、「私は民宿が苦手である。嫌なのである。民宿のいかにも家族の中に入っていくのはすごく不快だ。気持ちが悪い」と。「なんでお金を払ってまでそんなところに入っていかないといけないんだ」ということをおっしゃっている。

渡辺本当に書いてある?

窪田あります(笑)。でも、「仕事になると一気にそういうのも気にならずに入っていけるし、馴れ馴れしく接することもできる」「誤解を恐れずに言うならば、好奇心や職業上の関心が前傾に出てくる。結局家族的なるものをグロテスクだ、などと言いながら、それに惹かれて病まない部分が自分にはあるらしい」とおっしゃってるんですね。だから、単純に診察も善意だけではないんですよね。でも、それがあるからこそいろいろな方と対峙できて、実際に治療もしていけている。

密成お寺っていうのが、けっこう心に負担のある方が来られるんですよ。寄付台帳に突然「そのことは中尾彬さんが知っています」と書かれていたりするんですね。「栄福寺の住職は弓矢を習え。そして○○寺の住職を撃て」とか。

窪田へー。

密成それは何か、正面から受け止めてしまうと、ちょっとどうなってしまうかわからないですよね。なので、どう接してよいかわからないときもあります。「本に書いてあったんですけど、私は上杉謙信の生まれ変わりです」とか。

窪田いろいろな人がいるんですね・・・。

密成ちょっとこの本、読んでみようかな。

三島気になる話でした。ありがとうございました。

窪田じゃぁ、次は星野さんで。

なんで私いま貝谷くんなんだろう?

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『青が散る』(宮本輝、文藝春秋)

星野私は宮本輝さんの『青が散る』(文藝春秋)を持ってきました。こないだ『遊牧夫婦』のやる気ナイトのときに宮本輝さんの話が出て、帰ってチラッと読もうと思ったら、また全部読んでしまいました。

この本は高校、大学で何回か読んでいて、この小説のなかに出てくる風景が自分のなかに出来上がっている、という感じなんですね。今回読んでみておもしろいと思ったのは、読む自分の年代によってこの小説のなかで印象に残る箇所が変わってくるんだな、ということです。高校のときは、自分がテニスをやっていたこともあって、テニスの描写がすごいというのが一番の印象でした。

大学のときは青春の部分で、今回読んで自分が気になったのが、いままではあまり印象に残らなかった貝谷くんというキャラクターの存在でした。

貝谷くんは、いつもみんなのことを端から見て分析しているような立場の人なんですね。だけど、分析してしまう自分のもどかしさをすごく感じているキャラクターなんです。その彼に感情移入する自分の不思議さ、「なんで私いま貝谷くんなんだろう?」と思いました(笑)。

木村この前の飲み会で、宮本輝さんのファンが多くて、盛り上がったんですよね。

星野宮本輝さんはモテモテな方という話が出て、そういう目線でこれを読むと本当にいろいろな男女の心の動きがわかっているから書けるんだなと思いました。

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密成「宮本輝は知っている」

渡辺お、懐かしいCMですね、「違いがわかる男の、ゴールドブレンド」。

三島宮本亜門も出てた。

星野出てましたね(笑)。

三島僕が一番印象に残ってるところは殴るところですね。殴るんだっけ? 石を投げるんだっけ?

星野石で殴るんです。

木村一番ひどい(笑)。

三島「その気持ちわかるけど、そこまでしていいのかな・・・」って思いながら読んだ記憶がある。

どんな話なんですか?

星野内容の説明してなかった(笑)。一応、学生の青春ど真ん中小説ですね。大学生の、初めてその学校でテニス部をつくった人たちの4年間の話です。

三島まっすぐすぎて痛いくらいだよね。まっすぐな美しさを書いてるんだけど、まっすぐだとぶつかるよっていうことが書かれてるよね(笑)。

星野そうですね。

三島青春小説として、素晴らしい作品です。

窪田文庫だけど、1985年の初版だ。絶対親御さんの買った本ですよね。この焼け具合とか。

渡辺新聞広告見て買った可能性ありますよね。「今月の新刊」とかで。

窪田なるほど。ありがとうございました。

あの百田尚樹が時代小説を書いた

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『影法師』(百田尚樹、講談社)

大越私が紹介したいのは、百田尚樹さんの『影法師』(講談社)。昨晩読んで、涙したばかりの本です。百田さんの小説は、太平洋戦争の特攻隊員、オオスズメバチ、高校のアマチュアボクシング、整形手術で顔を作りかえる女性といった具合に、一作ごとにテーマがまったく違いますが、この本は、江戸時代の武士二人を描いた時代劇です。「あの百田尚樹が、時代小説を書いた」ということだけで、もう絶対に読まねばと思いましたが、期待に違わぬ一冊でした。

この本については、あらすじを紹介しても仕方ないと思うので、ひとつだけ。とにかく百姓一揆のシーンまでぜひ読んでみてください。「時代劇でしか書けない男たちがいる」ということが、心底理解できます。

講談社の本の紹介ページで、この本が生まれるきっかけは、「百田さん自身が考える、かっこいい男の姿が読みたい」と担当編集者に言われたことだったとあります。百田さんはこの本を書きながら、「恥ずかしいことに私は何度も泣きました」とそこでお書きになっていますが、私も読みながら何度も目頭が熱くなりました。

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木村かっこよかったですか?

大越ええ、とても。読みながら、中学二年生ぐらいのときに、吉川英治の『宮本武蔵』を最初に読んだときの感じを思い出しました。ページをめくって結末に近づくのがもったいなく感じるぐらい、面白い小説でした。

木村時代小説って背景描写が大切だったりしますよね。

大越その辺の時代背景の描き方や、登場人物の会話も非常にしっくりときて、自然に読めます。では、木村さん。

三島あら、あっさり。

女の人のいろんな人生が書かれています

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『私という運命について』(白石一文、角川書店)

木村はい。今日は白石一文さんの『私という運命について』(角川書店)です。5年くらい前にハードカバーで初めて読んだときに、すごく感情移入した一冊です。

どういう話かというと冬木亜紀という女性が主人公なんですが、彼女の29歳から40歳までを切り取った小説です。冬木亜紀が29歳のときは携帯電話が普及する前だったり、40歳になったときは世間はどうなっているとか、時代背景もしっかり書かれていてリアルです。

それに、女の人の29歳ってすごく微妙な年頃なんですよね。この主人公は独身なんですけど、微妙な年頃から結婚を決めようとしたけどダメになって、というのが2回くらいある。まわりの友だちも、結婚したけど別れてしまった人とか、様々な女性の人生が書かれています。

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女性が読んだら共感するところは多いと思います。けど、私は男性にもぜひ読んでいただきたいなと思います。

女の人は結婚することで自分の世界が急速に変わっていくのを感じると思います。男の人もそういうところはあると思うんですが、環境が変わって、さらに子どもを産んだり、結婚したけれど産めなかったり、自分の心が日々揺れる。自分で選んでそうなっているとはいえ、乗りたくない船に乗ってしまって出発してしまうということもある。そういう瞬間みたいなこともたくさん書かれているので、ぜひ読んでいただきたいなと思います。

装幀も象徴的なんです。自分でまわしているはずのゼンマイなんですけど、まわした時点では、実は自分自身にもどこへ行くのかわかってない。ひとつひとつの選択が自分の未来につながっていくんだけど、その未来は誰もが自分が望むものを実現できるわけではない。回り道することもあれば、思ったよりはやく行けるときもある。

密成今回のミリさんの本もそうですよね。女性がどういうふうに生きて行くのか、という問いがあったり。葛藤があったりとか。

木村私もミリさんの作品を読んでからまたこれを読んで、ミリさんの作品を思い返しながら読みました。

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それを男性が書いてるっていうのがすごいですよね。

木村そう、宮本輝さんもそうだけど、白石さんはストーリーテラーっていう感じです。

窪田へー。

木村ぜひ、お薦めです。では、次、ナベやん。

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