ミシマガ・ミュージック

CDが売れなくて音楽業界も不況だと言われて久しい昨今ですが、どっこい音楽生活が充実しているミシマガ編集部のアダチとモリ。

素晴らしい音楽は、今、この瞬間も奏でられ、心震わせる感動が生まれている。
そう信じて疑わない私たちは、ミシマガ・ミュージックというコーナーを新たにつくりました。自分たちの耳と目で確かめ、ぐっと心をつかまれた音楽を少しずつ紹介していきたいと思います。

第1回目にご登場いただくのは、タテタカコさん。
今年4月、季節外れの冷たい雨が降るなか、タテタカコさんと小谷美紗子さんのツーマンライブを聴きに行きました。それまで、タテさんの音楽といえば、映画『誰も知らない』の挿入歌「宝石」しか知らず、ほとんど予備知識もない、まっさらの状態でタテさんの演奏を聴きました。

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『Harkitek or ta ayoro(ハルキテク オッ タ アヨロ)』

演奏前に一時期好んで聴いていた安東ウメ子さんのムックリとアイヌ民謡が流れ、期待で胸がふくらむなか、はじまったステージ。凛とした佇まいでピアノを弾き、全身全霊で伸びやかに歌う姿に、ただただ圧倒されました。

あのきらめくような歌の数々は、どのようにして生まれたのか。
今回、会心のアルバム『Harkitek or ta ayoro(ハルキテク オッ タ アヨロ)』の制作エピソードに加え、ライブ企画を募り、人や場所との出会いをつむぎながら、一年かけて日本全国をまわるツアーについてお話を伺いました。
(聞き手:足立綾子、写真:森王子)

第2回 人と場所との出会いでつむぐツアー(タテタカコさん編)

2010.06.22更新

もっと人や場所を求めて

―― なぜ、今回、プロモーターの方に加えて、一般の人とともにツアーをつくりあげていくかたちにしたのですか?

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タテライブの企画を通じて知り合った方々が一回関わるとすごく親身になってくださることが多くて、その方々がまた出会いを広げてくれて、新しいお客さんやおもしろいお店を紹介してくださるんです。その土地の方に勝る情報源はないというか、そういうことが続いていくなかで、まだまだ知らないディープな場所がいっぱいあるんじゃないかと思ったんです。

自分から行きたいと思ってもなかなか行けなかった場所とかも、地元のみなさんやお店の方がきっかけをつくってくださって、なにか一緒にできたらと考えました。ここからここまでツアーの日程をがっつり決めて、ぎゅーっとしてやるのではなく、どこでどういう流れが来るかわからないけど、それもご縁があったら一緒に流れていく。長いスパンでいろいろなところから声をかけていただいて、おじゃまできたらいいなと思っています。

―― そのゆるやかな感じが、アルバムを聴いた印象とマッチしているなと思いました。

タテやっぱり結局人というか、あったかさというか。帰る場所って、自分の家だけじゃなくて、自分が戻る、帰る場所がどんどん増えていくうれしい悲鳴みたいなのがありますね。このまえ奈良で雨降っているなか歩いていたら、地元のおばあちゃんが、「傘、ないんだったら、私の持っていきなさい!」って言ってくれたり。そういう日常の会話や出会いがあるのもうれしくて。もっと人や場所を求めていますね。

―― 今回、三重で細かくまわられますが、それは取りまとめている方がいらっしゃるんですか?

タテはい。最初お客さんだったんですけど、その方もミュージシャンで、息子さんと一緒にいろいろな場所を演奏しながらまわられていて、その人脈がすごいディープゾーンを縫っているんです。山奥のパン屋さん、雑貨屋さん、菜食ご飯屋さんとか、どんどんつなげてくれて、気づいたら10日間で8カ所も決まっていました。

―― こういう素敵な場所があるんだよとか、タテさんに来てほしいって思っていても、最初に声をかけるとき、勇気がいると思うんですね。問い合わせするときにいちばん気になるのが、会場の大きさやお客さんの数とかだと思うんですけど、なにか基準ってありますか?

タテ特にはないですね。楽しそうだったらどこでも行くと思います。20人のところでも、そこが道端だったり、ご自宅だったりしても、みなさんとの距離がそんなに遠くないというか、そういう感じになれたらいいなと思っています。全部行ききれるかわかりませんけど、タイミングさえあえば、是非おじゃましたいです。

―― タテさんが演奏したい場所ってどこかありますか?

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タテトンネルとか。

―― おおー。声が響いておもしろそうですね。

タテそれが、逆にどうなのかわからないですけど。あとは・・・やっぱり集落。

―― 集落!

タテこのあいだ、飛騨高山のお寺さんで演奏したとき、おじいさんとおばあさんの前で歌ったんですけど、人生の先輩方に見守られて歌うっていうのがいいんですよ。あとは、なかなかできないところでもやってみたいですね。廃墟とか、みんなで行ったらおっかなくないし。

お客さんから気持ちをいただく

―― 今まで、旅するようにいろいろまわられていたと思うんですけど、場所でも土地でもまたあそこ、行きたいなとか相性がいいなというところはありますか?

タテ一番意外だったのは、石垣島のすけあくろというライブハウスですね。私、歌う前、こわくて逃げたりするんです。ライブのスタートが8時だったんですけど、沖縄の方はけっこうゆったりされているので、9時半ぐらいまではじまらなかったんですよ。そのあいだ、商店街をずっと逃げまわっていて。

―― ええーっ! そうなんですか!

タテ「いやだぁ~」って泣きながら。そしたら、店長さんが「そろそろはじめようか」って言ってくれて、「いやだー、いやだー」って入って座って歌った瞬間に「歌いたいっ!」って気持ちになって。

―― 急に転換したんですか?

タテそうですね。お客さんからぐわーってきたというか。それからひとりで歌っているんじゃない。お客さんから気持ちをいただいて演奏しているんだっていうのがわかりましたね。

―― ライブをはじめる前に、歌うのがいやだって、なんでそういう気持ちになるんですか?

タテこわいんですよね。

―― お客さんがこわいんですか?

タテステージのうえでは、丸裸で丸見えに見えちゃう。だけど、自分のなかでよく見せたいとか、どこか欲があって。こんな自分、全否定で抹消して透明人間になりたい気持ちになったりとか、そうなると逃げたいですね。

―― 今はそういう気持ちはだいぶ和らいでいるんですか? 今もそういう気持ちをもちつつステージにあがっているんですか?

タテ逃げたいときもありますけど、結局は逃げないで、そこに歌いに行くことが自分にとってはいちばんいいことですから。そこは避けて通れないし、歌った瞬間にしか味わえない気持ちよさやうれしさがあるし、自分の姿がいちばん見えるところなので、逃げたい気持ちもありますけど、ステージにのぼりたいからやっぱりのぼるんです。

―― 終わったときは、「やってよかった! またやりたい!」っていう気持ちになるんですか?

タテそう思うときと、「あーっ!」っていうときと。「やってよかった!」と思っても、次の日になると、それってもう昨日のことなんですよね。いいことも悪いことも余韻もあるけど、いつまでも続かない。またはじまる感じがありますね。

―― 他にも好きな町はありますか?

タテ青森県の弘前っていう町が好きで、県外から行っているのに、お店に入るとおばあちゃんがご近所から来たみたいに接してくれるんです。「大学イモ、100グラムください」って言ったら「200グラムもっていけ」みたいなやりとりがあったり。背伸びしなくても歩ける感じの商店街があって、町の人たちがすごくあたたかく受け入れてくださるんですよ。

甘えることがすごくいけないことだったり、こわいことだと思っていたんですけど、なんか甘えさせてくれる度量の大きさが感じられたり、心遣いもさりげなくて、しょっちゅう行っています。ほかにも数えきれないくらい、いいところがいっぱいありますよ。

―― タテさんの地元については、どう思われていますか?

タテ最近ようやく帰りたいという気持ちになってきました。田舎だし、なんにもないから、東京から帰ったら時差を感じるくらいのんびりしているんですよ。十年ぐらい前、大学卒業して地元に帰ってきたときは、こんな町にぜったい住み続けたくないと思っていました。

でも外から飯田に取材に来てくださった方に「こういう道があるんですね」とか「あの景色いいじゃないですか」とか言われると「え? もしかして、いいの?」って。そういうことの繰り返しで、どこかの田舎の町に行ったときも、こういう町並みいいなとか、じゃあ、飯田はどうなんだろうって。いろんな町の良さ悪さを知りながら、自分の町に帰ってきて、だいきらいと思っていたのが、ちょっとずつ、いいかもって思えるようになりました。まっくらでもいいかも。星が見えるからいいんだとか。外に出ていて教えてもらっていますね。

―― 外で感じたいいところと地元のいいところの似たもの探しに近いのでしょうか?

タテ自分のなかでは似たものもそうだし、でもやっぱり地元がいいよなって無条件で言える瞬間というのもあったりして、結局比べちゃいけないと思っていても、誰かとだったり、町だったり、比べてしまう性質もあって、比べることも逆にいい場合もあるんだという気がします。あの町にはこんないいところがあっていいな、でも地元にもなにかないかなってそんな気持ちになるというか。なにもないですけど、遊びにきてくださいって、やっと言えるようになりましたね。

トム・ウェイツと対バンしたい

―― 音楽づくりで、「これがないと私じゃない」みたいなものってありますか? お話を伺っていて、コントラストの強い方だなと思いました。タテさんの音楽も同じで、ひとつのアルバムのなかでも、明るい曲もあれば暗い曲もあるし、悲しい曲もあればうれしい曲もある。それは今までのアルバムで共通していることだと思うんですよね。

タテ感情の振り幅がすごいんですよ。ひとつ殻をやぶりたいとか、今回のアルバムも「峠越え」みたいななんか楽しい曲を入れたいとか、なにかひとつあるというよりは、いかにそれが変わっていくかだと思います。

「これがないと私じゃない」って、言わなくてもいいような人になりたいなって思っています。結局そういうものがなくても、最終的に残った燃えカスでも灰でもゴミでもいいんですけど、それが「あー、ワシだ」って。そんなものでいいんじゃないかっていうぐらい、まだ我がすごい強いし、感情もぶんぶんいくし、周りも振りまわすし。結局、「これがないと・・・」っていうのは「人」なんでしょうね。

―― 今日お話を伺っていて、それは合点がいきますね。

タテたぶんワシよりみなさんの方がワシのこと、知ってると思うんです。自分のこと、わかっているようでわかっていないんです。

―― 誰でもそうかもしれないですね。

タテわかっているのとわかっていないのと両方ありますよね。

―― 今後、対バンしたい相手っていますか?

タテ(即答で)友川カズキさん。あと、Mono(モノ)。Monoは海外で活動されている方たちで、めったに日本でライブされないんです。オーケストラとも一緒に演奏していて、この前、ライブを見に行ったら、もうすごかったです。

―― 今まで、さまざまなジャンルの方と対バンされていますが、それはタテさんが望んでそうされているんですか?

タテ望んでますね。わりとつきつけられるのが好きなので、ショックをうけて、腰がぬけちゃうぐらいの音楽も好きだし、「そういうのアリなんですか?」っていう表現をしている人もどんどん固定した考え方を壊していってくれるので、望んでいますね。

―― 弾き語りの人たちで、この人とやってみたいなという人は?

タテやっぱり小谷美紗子さん。あと、トム・ウェイツ

―― おっ! 海外、いきましたね。実現するといいですね!
では最後に、このアルバムを聴いてくださっている方に、どういうふうに聴いてほしいとか、聴きどころを教えてください。

タテ今までのように自分ひとりでつくってきたものではなくて、大好きな人たちとみんなでつくってきたものなので、そういう意味ではすごく最高なものができたというのがはじめて口に出して言えるアルバムです。楽しかった時間もつまっているし、すごくバラエティに富んでいるので、みなさんの生活のなかでどういうふうに、聴いて感じていただいているのか、良くも悪くも感じたことを教えてもらいたいですね。

―― 毎朝、「今日を歩く」を聴いていますよ。「♪おいっちにぃ おいっちにぃ」って、あれを聴かないと、一日がはじまらないですよ。

タテ生活におじゃましてますね。

―― おじゃまされてますね。今までどんな感想が、タテさんの耳に入ってきていますか?

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タテずっと一人の演奏を聴いてきている人たちは、最初は受け入れられないところから入って、でもタテさんには変わりないねっていうのがあったり。開けましたねというのがあったり、一人がよかったというのもあったり。いろんな意見が出て、それがいいなと思っています。

―― 長丁場のツアー、気をつけて行ってきてください! 今日は、楽しい時間をありがとうございました!


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■タテタカコさんのMy Spaceで『Harkitek or ta ayoro(ハルキテク オッ タ アヨロ)』のなかから「祝日」「今日を歩く」「誕生日」「innocence」「帰路」「眠りつくまで」が視聴できます。

■Tour 2010 "Harkitek or ta ayoro"企画を募集中。「我こそは!」と思う方は、こちらをご覧ください。


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タテタカコ

1978年生まれ。長野県飯田市在住。シンガーソングライター。
2004年、映画『誰も知らない』(是枝裕和監督作品)の挿入歌「宝石」を収録したアルバム「そら」をリリースしデビュー。以降、映画の主題歌や、CM等に楽曲を提供。2007年には、ドキュメンタリー番組「情熱大陸」で、その独特な音楽活動の様子が放送され話題を呼んだ。

年間100本以上のライブを行い、人と、街と、そこにある歴史や文化と出会いながら、独自のスタイルで表現を鍛錬している。
2010年4月、二年ぶりとなるアルバム『Harkitek or ta ayoro』をリリース。企画を募りながら、1年かけて日本全国をゆっくりじっくりまわるツアーの真っ最中。

HP
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Tour 2010 “Harkitek or ta ayoro”企画募集

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