なめらかな会社が好き。

第7回 だれかの足を引っ張るよりも

2013.11.15更新

 シリコンバレーで一番印象に残っていることはなにか、と言われれば、僕は人の圧倒的なポジティブさだと答えると思います。とにかく前向き、ポジティブ。

 現地でお世話になった女性の弁護士さんに最初に会ったときのこと。
 たしかダウンタウンのカフェか何かで顔合わせをして、日本でやってきたことや、シリコンバレーでやろうとしていることの説明をしたのですが、その彼女は間髪入れずに、
「すごいね! Junya! 日本でそんな素晴らしいことをやったんだ! そのあなたがやるんだから、絶対にこちらでもうまくいくね! おめでとう! 一緒に仕事ができてすごくうれしいわ!」
 と言って、はてなの仕事に協力してくれることになりました。

 僕としては、もちろんうまくいくだろうかという不安がありましたし、弁護士さんというともう少し硬い職業のイメージがありました。あなたなら絶対にうまくいくわ! と満面の笑顔で祝福を受けて、びっくり面食らいました。が、とにかく嬉しかったのを覚えています。シリコンバレーで経験のある方から、ぜったいにうまくいく、と言われれば、さすがに少しはそうかもしれないな、と自信になったのを覚えています。

 結果的には、最初に目論んだほどシリコンバレーでの挑戦は簡単ではなかったわけですが、じゃあ最初に、あなたならきっとうまくいくね、と言ってくれた人を、話が違うじゃないか、と憎んでいるかというと、そんなわけがありません。背中をぽんと押してくれた人には感謝の念しかありません。

 そういうポジティブさは、日本ではちょっとないテンションです。何でもかんでもうまくいくなんて言って、無責任じゃないか、と思うわけですが、よく考えてみれば、人間は結局のところ、やれると信じてやれるだけやって、それでダメならちゃんと自分の責任で次を考えるわけです。

 だから、挑戦したいと思っている人の足を引っ張ったって意味がない。
 むしろいかに面白そうな人を見つけて、その挑戦に自分も参加するか、というマインドなんだと思います。

 これは、シリコンバレーという地域が、コミュニティとして学んだことなんだと思います。アメリカならどこでもポジティブか、というと、全然そんなことはなくて、東海岸には東海岸なりの雰囲気がありますし、アメリカの中でもシリコンバレーはやはり特別な雰囲気があるように思います。

 最初はみんながそういう感じだったわけでもないと思うのですが、本当にそんなのうまく行くのかな、なんて思っている間に、あれよあれよと世界的企業に成長する会社が何社も生まれて、その可能性を信じて最初からリスクを取って挑戦に参加した人が億万長者になる。そういうことを何度も何度も繰り返していると、さすがに多少保守的な人もだんだん考え方が変わってくるんだと思います。

 そんなアイデア、うまくいくわけがない、なんて批判をしていても何も得をすることはなくて、そんな暇があったらさっさと将来性のありそうな起業家を見つけて、自分も一緒に働くなり、お金を投資するなどした方が得をする。
 そういうことを、地域として学んだ結果、新しいことに挑戦しようとしている人を見つけたら、とりあえず賞賛する。自分も挑戦に乗れないか考える。あわよくば一緒に成功してやろうと可能性を模索する。そういうマインドが、文化として浸透しているのだと思います。

 この文化は、数字では測れないものですし、目にも見えない力ですので、なかなかこれです、と示せないものですが、その力は凄まじい威力があると思います。

 誰でも自分が生まれた環境からは、大きな影響を受けていると思います。両親や家族、友だち、先生、いろんな人に囲まれて育って、いわばコミュニティの中から価値観を吸収して、成長していくのだと思います。だから、なぜシリコンバレーからたくさんの起業家が生まれるのか、といえば、それは、挑戦を賞賛する文化があるから、だと思うのです。

 優秀な人が集まっているとか、スタートアップを支援する資金が豊富とか、ベンチャー経験のある人材が豊富とか、ベンチャーが成功する要因になっている要素はたくさんあると思いますが、一番最初の、なぜ人は起業するのか、という部分、0から1が生まれる部分について言えば、僕はそこが一番大きいと思います。

 そもそも起業というのは、旅に出るようなものだと思います。僕はあっちに行きたいので、出発します。一緒に行きたい人はぜひ一緒に行きましょう、という旅です。

 だから、案外出発すること自体は難しくありません。たとえば、自転車で日本一周をしようとする。出発する瞬間というのは、ただ、家の前で自転車にまたがって、ペダルを漕ぎ始めるだけです。もちろん多少の荷物の用意は必要ですが、そんなに難しいことではありません。

 起業家がなぜ生まれるか、ということで言えば、問題は、旅に出たい気持ちがどこから生まれるか、だと思うのです。周りにたくさん旅をしている人がいて、その物語に子供の頃から慣れ親しんで、憧れて、そして自分もちょっと、出発してみようかと思えば、周りの人たちが本気で自分の成功を信じて応援してくれる。だからたくさんの人が旅に出るのではないでしょうか。

 たくさんの伝説的な旅の奇跡が語り継がれている場所、現在進行形で世界をリードする挑戦が行われている場所、自分と同じかもっと若い人たちが次々と挑戦をしている場所、それを温かく、社会として応援している場所。

 えいや、と会社を作り、起業家として自分の職業人生を送ることになった自分が、一度でもそういう場所に身を置いて、ポジティブな文化を身体で吸収できて良かったと思います。

 そして少なくとも自分は、新しい挑戦をしようとする人のことを、応援できる人でありたい、と思っています。

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近藤淳也(こんどう・じゅんや)

1975年三重県生まれ。京都大学理学部卒。2000年同大学院中退後、2001年7月に「人力検索はてな」を開始し、有限会社はてなを京都で設立。2003年「はてなダイアリー」サービス開始、2004年2月に株式会社はてなに改組。現在、京都に本社、東京に本店がある。著書に『「へんな会社」のつくり方』(翔泳社)。

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