似合わない服 ミルコの六本木日記リターンズ

第8回『似合わない服』発刊!!

2017.08.28更新

2015年9月〜2016年2月までミシマガで連載されていた、「5年後、」と本連載に、大幅に加筆・修正した書籍『似合わない服』が、8月20日に発刊になりました!!

 おかげさまで『似合わない服』ぶじ発刊となった。
 お力添えをいただいた方々、まことにありがとうございました。
 去年の今頃は、本書の書き下ろし部分を書いていた。
 『似合わない服』は2年前にミシマガで連載させていただいた「5年後、」が母体となっているのだが、新たに原稿をたくさん書いた。加筆する際にミシマ社長からいただいたお題のレベルが高く、難儀した。落とした原稿も本一冊分近くある。
 書いて落として書いて落として、ようやっと「そろそろ本にしましょう」となったあと、
 「う~ん・・なにか足りない気がする・・・なんだろう・・・?」
 「5年後、」の連載中から、がん後の話として本書を書きすすめてきたが、出版直前になって、「がんになる前の話を読みたい」とのお声をミシマ社内外からいただいた。
 そして始まったのが、当コーナー「六本木日記リターンズ」である。
 ぶじ本が発刊されたということで、お役目を終えるのかと思っていたら、
 「もうちょっと続けてください」(ミシマ社)
 とのありがたいお言葉をいただいたので、いましばらくお付きあいください。

 ここ最近は、次の本を書いている。『似合わない服』のあとに出る。
 編集者をやめた私が考えた、出版社についての本だ。
 私は2009年春に退社したあと、自分が出版の仕事に戻ることはもうないだろうと思っていた。なので編集者時代の仕事グッズも人脈も、ほとんど棄ててしまっていたのであるが、にわかに戻らなくてはならなくなった。すでに日本の出版というシステムから降りた人間であるのに、出版社と編集者の仕事を伝えよというご用命だったのである。はて、どうしたものか?
 会社をやめてだいぶ時間がたってしまい、あらゆる記憶が遠のいている。
 思い出すと辛いので思い出さないようにしているうち、いつのまにか何がどうだったのか、わからなくなってしまった。

 私は大学を卒業後、外資系金融機関にいちど就職したものの、メディア+ものづくり業への希望を諦められず、転職をした。
 そこからまる20年、出版業界に身を置いて、仕事に励んだ。
 雑誌編集を5年、のちに会社を変わって主に書籍編集を15年、独立の際私に声をかけてくれた直属の上司(元雑誌編集長)が社長となった出版社で、編集者をつとめた。
 出版物の制作のほかにもプロデューサーとして映画製作にかかわるなどメディア関連の事業に携わってきた。ずっとこの仕事をやっていくのだろうと、信じて疑わなかったし、何があっても社長についていくものだと思っていた。

 会社が大好きだったが、あのとき私は会社をやめた。
 アメリカ発の金融恐慌が世界を駆けめぐった頃のことである。
 アメリカでは東アフリカにルーツをもつ上院議員が新大統領となり、日本では会社の倒産、リストラがあいついで、その後一回きりの政権交代があった。私は会社に辞表を出すと同時期に乳ガンに罹患していることが判明し、退社後は闘病生活を送った。

 手術に始まって、放射線、抗ガン剤、ホルモン剤・・・・・・とガン治療のフルコースを受けた私はクタクタになったが、投薬後は日に日に元気になり、抜けていた毛も生えた。そして毛がフサフサになってみると、いったいあれはなんだったのかと、思うようになった。
 "あれ"とは自分の退社である。
 ガン治療があまりにたいへんだったので、記憶が失われている。
 私はガンになったから会社を辞めたのではない、そのことは、私が今後を生きていくにあたり間違えてはならないマターなのではと考えるようになった。
 どこで物語がすり替わってしまったのか?
 ノドに刺さった小骨のように、問いは私の中にあった。
 だがその問いの前には手も足も出してはならない気がして、私は長いあいだモタモタした。

(次回につづく)

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山口ミルコ(やまぐち・みるこ)

1965年東京都生まれ。出版社で20年にわたり、さまざまな本をつくる。数々のベストセラーを世に送り出した末、2009年3月に退社。闘病を経て作家活動に入る。著書に『毛のない生活』(ミシマ社)、『毛の力 ロシア・ファーロードをゆく』(小学館)がある。

毛のない生活

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