脳内会議

第1回 脳内会議の基本パターン

2012.07.11更新

昔から人の顔色を伺うタイプの子どもだった記憶があります。
自分の言いたいことを伝えるときに、その場の空気とか、相手の機嫌とか、そういうことをすごく気にしていたように思います。
同じ内容でも、伝え方次第で結果が変わる、損得があるってことを、何かの契機で気がついたんだと思います。

多かれ少なかれどんな方でも発言するときには人の顔色が気になると思いますが、人の視線の中で生きてばかりいると、それはそれで疲れます。
人の意見に同調することばかりで自分の意見を閉じ込めていては、ストレスが貯まりますから。

自分の意見と異なる相手に対して示す態度には、大きく3つあるそうです。
「No」
「Yes,but」
「Yes,and」
それぞれ日本語にすると、
「いや、それは違うでしょ」
「うん、わかるわかる。でもさ、、、」
「確かにそうだよね。さらに付け加えると、、、」
という感じでしょうか。

ちなみに、コピーライターの糸井重里さんは、「会議で相手の意見を否定するのはダメ。
だって、価値を増やすのが僕らの仕事。否定は価値を増やさない」とおっしゃっているそうです。
ブレインストーミングの基本とも言えるスタンスですし、アイデアを創造する仕事にとって"否定"が害になるのはその通りだと思います。
(僕が創刊に携わったフリーマガジン『R25』の編集会議でも、会議で相手の意見を否定しないブレインストーミングをベースとした会議運営を行っていました。具体的なやり方については、のちほど。。。)

とはいえ、ときには相手に対し強めのアタリで「No」ということも、ビジネスの現場では必要です。
当然ながら、「とき」と「場合」によって示すべき態度は変わるわけですが、それを瞬時に嗅ぎわけるには、それなりの技術がいります。

「『脳内会議』というタイトルの本を書きませんか?」と、ミシマ社さんからご提案いただいたとき、なぜ僕にそんなオーダーが? と、最初戸惑ってしまいました。
いただいた企画書には「じぶんのアイデアが、認識が、他人から見てどの段階にあるか、見えていない人へ。」というコピーがありました。
正直僕自身も、まだまだ"見えていない人"のグループだと思うのですが、編集者として事業企画者としてこれまで経験してきたこと、直面した事象を振り返ることで、何かしらか読者のみなさまに感じていただくことができるのであればと、筆をとってみた次第です。

「とき」と「場合」の空気を嗅ぎ分け、その場で(おそらく正しい)態度をとる技術――こう書くと、とっても嫌味な言い回しになってますね――は、脳内で自分以外の人をどれだけたくさん囲っているかどうかで、その善し悪しが決まるのではないかと思います。
自分の直感的な感性に対し、それとは異なる感性をぶつけることで、周りが見えてくるというか。
自分自身がある程度の距離を置いて見られるようになるというか。

そんな脳内会議が、僕の頭で毎日繰り返されては、新たな経験(苦いものの方が多いですが)として蓄積されていく。
でも、それって特別なことではありません。
どんな人でも少なからず脳内会議は開催されているはずで。
アイデアを生み出したり、プレゼンを成功させたり、商談をまとめたり、メンバーをマネジメントしたり。
ビジネスの現場の数だけ、そこに参加している人の数だけ、脳内会議は日々行われているのです。

あなたの脳内会議がちょっとだけグレードアップする方法について、僕のつたない体験談を元に、僭越ではありますが書いていきたいと思います。


Chapter0 脳内会議の基本パターン

どんな人でも少なからず脳内会議は開催されている、と前述しましたが、いくつかのパターンに分けて考えることができそうです。

サザエさんでカツオくんが1000円を拾ったときに、天使のカツオくんと悪魔のカツオくんが出て来て、

<ここは交番に届けようよ。落とし主が困っているんだから>
<どうせバレやしないさ。欲しかったグローブが買えるぜ>

とやりとりが始まる、みたいなシーンを見たことはありませんか?

カツオくんの中で「良心」と「邪心」が葛藤している状態ですが、これは実際の場面でも、脳内でもカツオくん1人しか登場していません(落とし主や交番のおまわりさんがいるじゃないか、という指摘はごもっともなのですが、話がややこしくなるのでスルーさせていただきます)。
慣例としての正義に従順なカツオと、他者からの告発がないことを前提に正義よりも自分の欲望を優先するカツオ。
どちらを選ぶにせよ、メリット/デメリットの影響範囲はカツオくん本人だけでほぼ完結するといえるでしょう(1000円程度なら落とし主はあきらめる確率が高そうなので。。。)

そんな葛藤中のカツオくんの前に登場するのが親友の中島くんです。
「あれ磯野、何してるんだい?」カツオくんの脳内にも、中島くんは現れます。

<中島はいつから見てたんだろう。僕が拾ったところは見てないはずだけど>
<中島には拾ったことを正直に伝えた方がいいかな>
<いっそ中島も共犯にしてしまおうか>
<半分の500円をあげる代わりに秘密にしてもらおう>

――脳内会議のスピードはどんどん加速していくのですが、これは不正を告発する可能性のある他者が登場してきたことで、リスクが増大したためです。
リスクを低減させる方法がないか、脳内でシミュレーションを行う必要性があるからです。

<中島ならきっと、交番に届けようというだろうな>
<でも僕がグローブを欲しがっていたことを知っているし、もしかしたら黙っていてくれるかも>
<いや、それ以前に中島は僕が1000円拾ったところなんか見てるはずがない。
 だから何もなかったフリして誤魔化せばいいだけだ>。

このとき、カツオくんの脳内には、中島くんを含め2人が登場していますが、
1人登場人物が増えただけで、ものすごく複雑になり拡散していくのがおわかりでしょうか。

まず中島くんはカツオの行為を見ているのか、見ていないのか。
次に見ているとして、彼はカツオに正義なふるまいを期待しているのか、期待していないのか。
さらに期待しているとして、カツオが正直に告白すれば黙っていてくれるのか、くれないのか。
今度は黙っていてくれるとして、それは誰かに追求されたときでもずっと黙っていてくれるのか――。
どんどん場合分けが膨らんでいくのです。

脳はできるだけ省略したがる特性があるので、ここで会議をショートカットすべく一つの制約事項を設けます。
「親友の中島は、正義感が強い」。
この条件下ならば、リスクは低減どころか膨張する一方。

<バレたら、親友の中島の信頼を失ってしまう可能性がある。たかが1000円ごときで。。。> 

よってカツオくんの脳内会議は収束に向かいます。

「おう、な、中島。いま、ここで1000円拾って、ちょうど交番に届けようと思ってたところなんだ」
「へぇー、磯野って、偉いなぁ」


仮に花沢さんが登場してきて3人になると、当然ながらさらにややこしくなります。
それは中島くん→花沢さんという、カツオくんの介在しない関係性に対してもカツオくんは配慮する必要があるからです。
3人目の登場人物が花沢さんではなく、どこかの知らない人であれば、なおさら話は複雑化します。
友人ならば考えていることがある程度想像できるし、カツオくんがどんな人物であるかを知ってくれているので誤解が少なそうですが、利害関係や信頼度合いが量れない相手の場合は、その度量を探るところから脳内会議を始めなくてはいけないのです。

脳内会議は、関係者の数と利害関係によってパターンが決まるのではないかと考えます。
具体的には、関係者が「1人」「2人」「3人以上」と、利害関係が「判明している」「判明してないが推測できる」「わからない」の掛け合わせ(1人の場合、利害関係というのはヘンかもしれませんが、その事象のメリット/デメリットを判定できるかどうか、と考えてもらえるとありがたいです)。
もちろん「3人以上」で「関係者の利害関係がわからない」ときが、最も技術が必要になるわけで、僕自身、その対処についてはまだまだ勉強中というか、毎回苦慮しているところです。。。


次回からは、脳内会議をスムーズに行う基本的なスタンスやツールの解説をしていきます。
できるだけ想起しやすいケーススタディを用いて、わかりやすくお伝えできるよう頑張っていきますので、おつきあいいただければと思います。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。

2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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