脳内会議

第2回 "受動型"脳内会議の基本スタンス

2012.07.25更新

脳内会議とは、リアクション芸である。

――いきなり断言から始めてみましたが、脳内会議が必要となるシチュエーションの多くは、自分以外の他者によって引き起こされます。もちろん、自分の考えを整理したり、アイデアを生み出すための脳内会議もありますが、ここでは受動型脳内会議について話を進めたいと思います。("能動型"脳内会議のやり方については、のちほど。。。)

たとえば、ある商談が思いのほかうまく進み、取引先から「正式な見積もりをお願いします」と頼まれたとしましょう。正式な見積もりをするためには、いったん社に戻り、きちんと上司の承認をもらわなければ見積書は提出できないのですが、
「ざっくり、どれくらいになりそうですかね?」
と言われてしまいました。さあ、どうしましょう。

おそらく正式な回答は、「上司と確認のうえ、あらためてご返答させていただきます」なんでしょうが、それはそれで他人行儀と言うか、せっかくのよい商談の雰囲気を壊しかねない可能性もあります。でもいいかげんな金額を伝えてしまうことで、のちのち不利を被ることになったら困ります。上司に絶対怒られます。

経験的に取引先がお金にまつわる部分に会話を進めてきたら、その商談は80%は成功しています。ですが、お金の部分は、一番齟齬が起きやすい部分でもあります。「いいものを、より安く手にいれたい」と思うのが取引先、「価値あるものを、できるだけ高く売りたい」のが我々。その差を埋めるための、擦り合わせ(腹の探り合い)のスタートが、先ほどの「ざっくり、どれくらい?」という一言なのです。さあ、どうしましょう。

僕の脳内会議では、まずこのリアクションになりました。

「そうですねぇ、ご予算ってどれくらいか、お聞きしてもいいですか?」

相手の予算がわかってないまま商談が進むことは、僕のような企画商売だと割とあります。またパッケージ化されていて、商品の値段が明らかな場合でも、そのままの正価でお買い上げいただけるケースは稀です。取引先の懐具合をダイレクトに聞くことは失礼にあたるのでは? と心配される方もいるかもしれませんが、相手の予算感がつかめれば、「できるだけご希望に沿うよう頑張ります」と答えることができますし、上司への相談もしやすい。
コストの相場をつかむことができれば、リアクションは各段にやりやすくなります。

ところが、取引先はこう答えました。
「効果が想定通りなのであれば、予算どりはそれなりに可能ですよ」
・・・なんて意地悪な人でしょうか。

価格の値引きよりも、やっかいなのは、効果(品質)の予測と保証です。広告であれば、投下したコストを上回る利益が出るのならば、誰だってお金を出します。システム開発であれば、それまでの人件費分をシステムが代替することでコストが削減でき、数カ月後に最初に投資したコストを回収できる効果が保証されるのであれば、誰だって投資しますよね。そういった効果を保証することで取引を成立しやすくするケースもありますが、効果保障はリスクも伴います。特に広告の場合はどんな理論武装しても、ぶっちゃけ効果は「やってみなければわからない」ので、できるだけ期待値調整をしながら、取引先にもリスクをある程度飲んでいただかないと、我々にとっては不利になりかねません。

とはいえ、この会話からヒントとして、取引先の担当者は「予算を自分自身の判断で決める権限がある、もしくは決裁者から予算を引き出す自信を持っている人である」ことが予測できます。与えられた予算内で仕事をするのではなく、提案内容が取引先の事業拡大に寄与するのであれば、継続的にチャンスをもらうことが期待できそうです。いわゆるwin-winの関係性をつくることができるタイプです。

僕の次のリアクションはこうなりました。
「いつまでに、どの程度の効果が、最低限必要ですか?」

取引先がお財布の紐を緩める条件のうち、必要最低限なものを探ることは、個人的に今後の継続提案をする上でも最も大切なことだと思います。取引先との期待値の相場が形成されるので、各段に期待値の調整がしやすくなるからです。

「半期後に、10%のコスト削減」とか「新商品発売2週間の初速売上が、過去類似商品並み」とか、短期的で具体的な数値目標について語られれば、今後はその数値目標をゴールにしながら約束できること/できないことの細部と納期を詰めていくことで、商談を進められそうですよね。

「3年後に、現在の売上の倍を目指している」とか「1年で新規事業領域の足がかりになる兆しが産めればよい」とか、中長期的で抽象的な目標について語られれば、今後はその提案や取組がどのような成長性や拡張性があるか、どういった「違い」を市場で形成していくことができそうか、など大きめな視点で語りつつ、そのファーストステップとして「いつまでに、何をやるか」を落とし込めればよさそうです。
(余談ですが、僕個人は、中長期的な目標を一緒につくっていきながら、ステップごとに課題を明確にして仕事を一緒に進めていける取引先を一番大事にしています)

逆にこの質問で「そういうのはまだ考えてない」「とにかく儲かればいい」といった、お茶を濁すような発言をする取引先の場合は、注意した方がよいでしょう。提案内容を理解していない可能性もありますし、そもそもの「予算どりはいくらでもできる」発言も疑わしい。単に自分を大きく見せたくて、そういった発言をする人もなかにはいますから。

「そういった最低限の目標についても、一緒に考えてもらいたいと思っている」と答える取引先は、まだ脈ありというか、うまくはまれば大きな商売になるかもしれませんが、目標設定するだけで時間や工数が余計に取られて、あまりおいしい商売にならないケースもあります。

ここまでの振り返りですが、僕のつたない経験で語ると、ビジネスで求められるリアクションは、ほぼ「価格」と「効果(品質)」と「納期」です。その3つについて、取引先の期待値の相場を知ることができるかどうかで、リアクションの質が変わってきます。取引先に有利な条件を提供するだけが、よいリアクションとはいえず、ときには厳しい話もできる関係性をつくることができれば、リアクションの幅も広がるというもの。そういう意味では、「価格」「効果(品質)」「納期」の期待値を探ることは、取引先の目標を一緒に達成するパートナーとしてお互いが認め合う状態までいけるかどうかを探ることと同義かもしれません。

自分以外の他者のアクションがきっかけで始まる"受動型"脳内会議ですが、あくまできっかけが受動なだけであり、ずっと取引先との関係において受身である必要はありません。リアクションをしていくうちに、取引先と同等の立場、もしくはリードする立場まで持っていくための技術として、僕は活用しています。

(今回のシミュレーションは、「関係者2人」で「利害関係が推測できる」パターンの脳内会議でしたが、それ以外のパターンもビジネスでは起こりえます。とはいえ、どんどん複雑怪奇になるので、基本的にこのパターンをベースに説明していきます)

次回も、"受動型"脳内会議を成功させるために必要な技術について、もう少し考察してみたいと思います。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。

2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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