脳内会議

第4回 "前提"が揃ってないことに原因あり?

2012.09.04更新

今回は「会議を成功させるための、脳内会議」についてお話します。

ビジネスの現場では、ひとりの成果よりもチームで仕事を進め成果を出すことの方が評価される傾向にあります。会社員であれば、30歳を過ぎたころには、チームリーダー的なポジションを試され、組織マネジメントの才覚がありそうかどうかを見極められたりします。大きな仕事をするためには、当然ヒト・モノ・カネを動かす必要がありますが、まずはヒト(組織)を動かす能力を身につけることを要求されることが多いです。

人や組織を動かすためには、それぞれが抱えるいろんな思惑を、ある共通の目的に集約していかなければなりません。大きな会社では、意見の異なる偉い人や利害が相反する組織を動かすだけの"調整"で1年以上経過することも珍しくないです(その期間を経て相互共感/共有が高まり、既存の商慣習を超えるイノベーティブな取組につながったりすることもありますから、"調整"自体に意味がないわけではないのですが、個人的には大会社の調整役は担当したくありません。。。)。

調整のタイプとしては、
「自分が責任をとるからついて来い」→カリスマ型
「みんなの意見から共通ゴールを見つける」→ファシリテート型
「声の大きい(影響度の大きい)人の意見でまとめていく」→長いものには巻かれろ型
「会議が始まる前に調整済み。会議は承認のみ」→根回し型
「偉い人にお伺いを立て、指示通りに進める」→虎の威を借る型
などがありそうです。

ちなみに、最近の若い人はカリスマ型に憧れるみたいです。その場の意思決定が明らかですし、誰が統率しているかも見えやすい。体育会系で育ってきた人は、キャプテン的な存在がわかりやすいのでしょう。決められない日本の政治に呆れているのもあるかもしれません。しかしカリスマ型の限界は、そのカリスマ役個人の責任範囲と能力の限界に一致するので、意外と脆くもあります(意思決定した内容が上位組織から却下される、一致団結はするが議論が深まらない、初歩的なミスがおこりやすい、など)。個人的にはファシリテート型が好きですし、できるだけ実践するようにしています。うまくハマれば、声の小さい人や少数意見も拾いながらボトムアップで議論ができるのでメンバーの納得度も高く、その後の各人の行動が自走するようになるので。ただ、うまくハマってくれるのは、今でも5回に1回くらいですが。。。(昔はハマった気になってただけで、10回に1回成功してたかどうかでした)

調整のタイプはいろいろあれど、共通する課題として「総論OK各論NG」の議論に陥ってしまうことが挙げられます。「利益のためにリストラを行うのは仕方ないが、我々のグループから減員はできない。ただでさえ人が足りないのに」とか「顧客の声を商品に反映するのは賛成だが、我々のグループでクレーム電話の受付はしたくない」とか「品質チェックをしっかりして不良品を減らすのは当然だが、チェックの時間をとるために納期を1週間前倒しはできない」とか「この連載を単行本にするのは大賛成だし光栄で嬉しいことなのですが、1週間1本ペースで原稿アップはさすがにちょっと無理そうかも」とか。。。

総論というのは面白くて、抽象度が高ければ高いほど全員が合意しやすくなります。「売上、利益の最大化」とか「顧客満足度を高める」とか「日本を元気にする」とか。なのですが、「日本を元気にするために、我々のグループが大変な思いをしなければならないのは嫌」「我々のグループの業務改善が、日本を元気にすることにつながるとは思えない」などの理由で、その抽象度の高い共通のゴールはいとも簡単に反故されてしまいます。

日本人の特性なのかもしれませんが、せっかく会議で集まったのに何の合意もないのはいけないと思う人が多いようです。反論するにも、ここまでは理解してるし、全部が全部反対と言ってるわけではないんですよ、という言い訳を発言の枕にする人も多いです(さきほど●●さんがおっしゃった意見に近いのですが、的な発言)。

総論をブレイクダウンしていけば当然各論になるわけで、「総論OK各論NG」状態のときも、総論と各論の"際(きわ)"が必ず存在します。その"際"をうまく発見し、会議の主題や論点に設定することができれば、噛み合ない議論にはならないはずです。

では、「総論OK各論NG」の"際"をどのように発見すればいいのか。ここで脳内会議の登場です。

結論から先に言えば、「参加者の前提がどこまで揃っているかを確認」することです。言葉にすれば簡単なのですが、実際は結構テクニックが必要です。
前提の確認、というと、会議の始まりのときに「前回会議はここまで進行し、この項目には決議承認をいただいております。本日は、●●という議題についての議論をしたいと思っております」みたいに仕切れることができれば終了と思われるかもしれませんが、僕は決議を必要とする会議以外では、ほとんどすべての時間を「前提の確認=各論と総論の際の発見」に使っています。ちょっと具体的に説明してみます。

まず会議スタート前に脳内で、その会議の前提となる総論〜各論を、抽象度の高い順番から3-4番目くらいまで用意しておきます。一番抽象度の高いものは「売上利益の向上」「顧客サービスの向上」「地域活性化」の3つあれば、だいたいの企業の議題は網羅されると思われます。そこからは、組織単位で大きい順番に想定される課題を想定しておけば、概ね大丈夫です。

たとえば、あなたがインターネットサービス企業に努めているとしましょう。会議では、「売上利益の向上」を一番抽象度の高い総論として置いてあります。その組織が事業本部→事業部→担当グループ→担当チームとなっているとしましょう。あなたは担当チームリーダーとして会議に参加しています。そのときに脳内で準備しておく総論〜各論は以下になりました。

抽象度1番目→売上利益の向上
抽象度2番目→担当サービスの成長率の鈍化
抽象度3番目→売上を支える営業企画部門のてこ入れ
抽象度4番目→おそらく競合の参入による商品単価の下落が最も大きい。

では脳内会議スタートです。
今日のテーマは、抽象度3番目の、成長率鈍化の原因となっている部の特定のようです。
会議の途中で、ある部長が言いました。

「そもそも、私の部のサービスは地域経済を活性化するためのものであり、元々そこまで売上利益を追求するものではなかったはずだ」
→この発言は、抽象度1番目まで、議論の前提を戻している発言です。1番目ですら、参加者の前提が揃っていない証拠です。

「とはいえ、3カ年の目標を達成するためには、前年比10%成長を3年持続すると約束したじゃないですか」
「それはわかったが、他の競合も参入した結果、期初の想定よりもこのサービスの市場全体の成長が鈍化している。競合のA社ですら、前年比5%成長に留まっているなか、我々は7%成長している。十分健闘しているとはいえないか」
→この発言は、抽象度2番目の議論です。最初の発言はさすがに前提を戻しすぎと反省したのか、問題を成長率の鈍化ではなく、目標と設定された成長率が高すぎる、ということにすり替え始めました。

「このサービスの市場全体の今後の成長はありえそうか」
「アメリカでも、スタートから3年目で市場は鈍化しはじめて、その後はほぼ前年並みが続いている。日本でもおそらくそうだろう。とはいえ、S社はこのサービスに別の機能を追加することで、ユーザー課金型のマネタイズを成功させている。その事例をうまく取り込めば、10%以上の成長を続けられるかもしれない」
→現在の既存サービスでの持続的成長は難しいので、新たな新規サービスを行う提案に切り替わっていますが、抽象度2番目の議論であることには変わりありません。しかし、こうなると抽象度3番目より下の論点は、変わってしまいます。営業部の問題ではなく、新規事業開発担当部門の問題になっています。

「中期的な成長のために、ユーザー課金型サービスが実現可能かを検証してみてください。とはいえ短期的な売上利益のために、できることはありませんか」
「商品単価の下落を押さえるために、付加価値の高い商品を現在検討中です。次回の会議は、具体的な提案をお持ちします」
→いきなり抽象度4まで議論が落ちてきました。そもそもの前提通りで着地しそうです。部長さんは、中期的な打ち手を考えなければ根本解決にならないことを、今回の会議で勝ち取りたかったのでしょう。次回の会議では、抽象度2の前提は「目標成長率を達成するためには既存サービスに加え、新規サービスの参入が必要」になるので、抽象度3以降の担当部署は、営業部と新規事業開発担当部の2つになります。

相変わらず強引なシミュレーションで恐縮なのですが、お伝えしたかったことは、総論〜各論の仮説を持って会議に参加し、脳内会議を働かせておくことができれば議論の"際"が見えるようになり、「今、議論されているポイントはどこか」「決まったことは何か」「自分がすべき次のアクションは何か」がわかりやすくなる、ということです。

次回は、"会議を壊してしまう人の対処として脳内会議を活用する"について書いてみたいと思います。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。

2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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