脳内会議

第7回 うまくいかないときだって、あります ~その1~

2012.11.19更新

脳内会議という題材でこれまで偉そうに書いてきた雑文を、あらためて読み返してみて思ったこと―――書いてあるほど、自分がビジネスの現場をうまく捌けてるとは到底思えない。。。

僕が書いてきたことを要約すると「つねに物事を俯瞰し、総論OK各論NGになりがちな議論のボトルネックがどこにあるのかを冷静に把握しつつ、取引先や会議参加者の"前提"を確認しながら適切に相手との擦り合わせを進めていきましょう」となるわけですが、そんなに毎回毎回、うまくいくわけではありません。今回は、"脳内会議、失敗"なケーススタディを、恥ずかしながらみなさんに晒してみたいと思います。

ケース1:どうせわかってくれない、と相手への信頼を欠いてしまう

「コミュニケーションの本質は、相手を完全に理解することはできない、という前提に立つ上で、理解するための努力を怠らないこと」と第3回のときに書いているのですが、"相手を完全に理解することはできない"が"どうせ相手はわかってくれないんだから"に摩り替わってしまうことがあります。

僕は編集者時代に、雑誌のタイトルや表紙のデザインについてプレゼンしたことが何度かありますが、タイトルやデザインの良し悪しの判断にはそれこそセンスが必要で、正直、毎日営業数字を追っかけているような上司や役員には絶対にわかんないだろう、と思っていました。そうは言っても、その上司や役員に決裁をもらわないと前には進めないわけで、プレゼンのときには数種類の比較案を提示したり、事前に街頭アンケートを実施した結果を持ち込んだりと、それなりに工夫を凝らして臨んでいました。ここでは、ある雑誌の表紙をリニューアルしたときのことを振り返ってみます。

今回のリニューアルの狙いは、これまでよりも年収の高い人にアピールするために、高級感を重視しました。紙質にもこだわり、ビニール加工にすることで、書店に並んだ時にも目立つように工夫をしております。パターンとしてはA、B、Cの3種類をご用意していますが、Aは写真重視、Bはテキスト重視、Cはその中間となっています

上司ふーん、なるほどね。で、どれがオススメなの?

そうですね、Aがオススメです。

上司なんで?

今回は高級誌△△の表紙でも活躍されている写真家の××さんに特別に協力いただき、彼の撮りおろし写真を使用する許可をいただきました。彼の写真を全面に出すことで、他の高級誌に負けないクオリティの表紙を作ることができると思っています。

上司うーん、なんかあんまりピンとこないなぁ。。。そんなに有名なの?

えっ、ご存知ないんですか? 海外の広告賞を受賞されたり、タレントの○○さんの写真集を手掛けたりされている売れっ子ですよ。うちの雑誌をやってもらうことは、かなり特別なことだと思います。

上司俺はこの写真、あんまりいいと思わないな。Bのように、どんな特集がやっているのかをちゃんと見せる方が好きだな。

そうでしょうか。今回は読者ターゲットも変更しているわけなので、これまでと同じ手法では高所得者層は動かせないと思いますが。

上司別にこれまでと同じ手法だから、Bがいい、と言ってるわけじゃないけど。

実は街頭アンケートもしていまして、銀座のブランドショップの近くで20名にお答えいただいたところ、Aが10票、Bが5票、Cが5票となっており、Aが一番支持が高いとの結果が出ています。

上司たった20名の結果だろう? 信憑性ないよ。あと写真家が有名かどうかも関係ない。とにかくAは、ピンとこない。


実際にあった話をベースにずいぶん簡略化していますが、上司がこうなってしまったら、オススメのAを推し続けることは難しくなります。どうしてこんな展開になってしまったのでしょうか。

この上司は編集者としての僕を信頼してくれてはいましたが、何もかも丸投げするわけではありませんでした。当たり前ですが、上司は上司で説明責任があるので、自分が納得する答えを探しているわけです。僕の今回の主張は「センスのある写真家を連れてきたので、大丈夫です。街頭でも結果出てますし」と言ってるだけで、それをわかってくれない上司を"センスのない人"扱いしています。表紙は編集センスの領域なんだから、高級感という方向性が合ってれば、後は任せてほしい―――これが僕の本音です。上司がAにピンとこないのは、単に編集センスがないとしか思っていないのです。

これは編集という仕事に限らず、"専門領域を担当している"と自負されている方は要注意です。会話している相手が、その専門領域出身でない場合、本来であればより丁寧に説明すべきなのに、「どうせ相手は深く知らないから」「詳細はわかってもらえないから」と大雑把に概要を伝えるだけでその場をやり過ごそうとしてしまうことはありませんか? あまりにも初歩的な質問をされてしまうと、「えっ、そのレベルから会話しなきゃいけないの?」とゲンナリすることもあるかもしれませんが、手強い相手の場合、知らないフリをしてあなたの"言動の一貫性"を観察していることもあります(ビジネスの現場で経験を積んでいくと、専門領域の知識のある/なしに関わらず、話者の"言動の一貫性"を見極めることで信頼に足る情報なのか、信頼できる人物なのかを判断できるようになります。あなたの上司も実はそういう人かもしれませんよ)。どんな質問に対しても相手への信頼や敬意を欠くことなく、その選択に至ったプロセスをきっちり伝えることが肝心なのです。

さきほどの表紙の話に戻れば、次の打ち合わせで最終的に上司からAでOKをもらうことができました。あたり前なのですが、「上司がAにピンとこない理由」についてきちんとヒアリングすることで、改善点をあきらかにできたからです。
このとき上司がピンときてなかったのは「他の高級誌とあまりに同質な表紙に思える。逆に書店で目立たなくなってしまい、これまでの顧客を逃し、新たな顧客も獲得できないリスクを感じる」ということでした。これはかなりの正論で、自分の雑誌の表紙を前後で比較して「前より高級感あるよね」と論じても意味はなく、ライバル雑誌との比較や販売時の陳列の状態をちゃんと意識しているのかどうかを、上司は気にしていたのです。僕自身もそれは意識していましたが、上司の観点を入れることで、よりリスク回避の具体策を明確にすることができました。その議論を数分交わしたことでお互いの認識の擦り合わせが完了し、「じゃ、いいよ。あとは任せた」となったのです。

逆の立場になるケースもあります。例えば著名なデザイナーさんや作家さんとお仕事をさせていただくとき、あがってきたデザインや原稿が、どうもピンとこない。打ち合わせした内容とも違っている。そんなときに思い切って「ちょっと違和感あるんですが」と伝えると、場合によっては相手を怒らせてしまいます。特に編集者との阿吽の呼吸を大事にするタイプのデザイナーさんや作家さんは、「わかってもらえないなら、もういい!」とお付き合いすら止められてしまう。とはいえ、僕の立場としては、ビジネスやサービスとの相関性がない限りは、どんなによい作品でもOKは出せない。そんなときは、相手を尊重しつつ、"僕"の意見ではなく、読者の立場になった意見を言うように努めました。できるだけ客観的に、読者としての違和感を伝えることに徹する。そのデザインや文章の"受け手"をイメージしながら―――。とはいえ、会話する自分では最大限努力したつもりでも、結局わかりあうことができず疎遠になった人もいるので、なかなか難しいのが現実です。今でも、自分のどんな行動が疎遠になった原因になったのだろうかと、同じような事態に遭遇するたび思い出して暗くなったりして。。。

こういった失敗体験を通して、僕の頭のなかの"脳内会議"は、一歩づつ進歩することができ、「このケースはあのときのケースに似ている」とアラートが自然と鳴るようになっていきました。つまり、脳内会議というスキルには完成形がなく、自分の立場やビジネスモデルの違い、時代の変化などによっても変わっていくもの。そういう意味では失敗を繰り返すことでしか練磨されることのないスキルとも言えますので、失敗をして凹んだときこそ技術を磨くチャンス! と捉えて、前を向けるか否かが大切なのです―――なんて、僕もうまくいかないときは風呂場でシャワーを浴びながら、自分自身に言い聞かせている日々を送っています。

次回の失敗談は、「ケース2:自分に酔ってしまい、相手からの信頼を損なう」を吐露させてもらいます。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。

2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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