脳内会議

第8回 うまくいかないことだって、あります ~その2~

2012.12.04更新

前回は「どうせわかってくれない、と相手への信頼を欠いてしまう」ことで、失敗してしまった事例をお伝えしました。今回は、逆パターン(?)で「こちらは相手への信頼を欠いているつもりがないけれど、相手の信頼を得られなかった」というケーススタディです。

ケース2:自分に酔ってしまい、相手からの信頼を損なう

会議の仕切り役を担当するようになり、最初は戸惑ったものの経験を積むにつれ慣れてきて、毎回成果を出せるようになってきたと感じていた頃の話です。「ファシリテーション」なる言葉を知り、それを実践したつもりになっていた頃とも言えます。

ファシリテーションとは、狭義には「会議やミーティングが円滑に運営されるための議事進行のスキル」、広義には「グループでの活動を円滑に進め、かつ創造性を最大化させるための中立的な立場での支援行為」とされます。ファシリテーションを行う人はファシリテーターと呼ばれ、参加者の発言を促したり、話の流れを整理したりするなどを通じて、合意形成や相互理解をサポートする役割を果たします。大事なポイントとして、あくまで主体は参加者にあり、ファシリテーターが意思決定や指示、指導を行わないこと。参加者本人の理解や納得を促進することで、自立した行動・意思決定の支援に徹するのがよいとされます。

あるとき上司から「広告営業部と商品企画部の会議がどうもうまくいっていないようだ。このままでは来期の売上計画もままならない。ちょっとサポートしてやってくれ」と相談され、その会議に仕切り役として参加することになりました。僕としては、まずはファシリテーターに徹し、営業と商品企画のメンバーの相互理解を深めてあげることが先決だと思ってはいたものの、売上計画の提出期限が迫っていたこともあり、頭のなかには「だいたいこれくらいの数字だな」というゴールイメージを"事前脳内会議"したうえで参加しました。

今日のゴールは、広告営業部と商品企画部の考え方にどんなギャップがあるのかを明らかにすることと、そのギャップを埋めるための解決策についての議論をしたいと思っています。可能であれば、具体的な計画数字の落とし所まで進行できれば最高ですね。では営業部の方から、お願いします。

広告営業まず紙メディアAの売上計画は、今期から120%アップとなっていますが、Aは部数が増えているわけでもなく、特に商品価値が上がったとは思えない。それなのになぜ120%なのか、納得がいかないですね。

商品企画今期の振り返り調査によると、広告を見て実際に動いた読者数が昨年対比130%を超えており、アクション率が上がっています。この背景には、メディアのブランド力が高まったことと、アクション率の高いターゲット読者層をつかまえるための流通手法が成功したことがあると思われます。この傾向は、来期以降も継続的に続くと考えられますので、部数は増えなくても広告効果が高まっているのであれば、計画数字を増やすのは妥当だと思います

広告営業とはいえ、アクション率は広告訴求内容や時期によってバラつきがあります。全体130%だからと言って、どの広告も効果が上がっているわけではありません。また広告効果を補償するようなセールスは、かなりリスクが高いので現実的と言えません。

なるほど。広告営業として、来期はどれくらいの売上
見込みなんでしょう?

広告営業前年比アップは当然目指したいですが、部数アップなしの現状では105%が限度かと思います。競合雑誌が掲載料金を値下げしたり、読者モデルを使ったタイアップ広告企画を新しくつくったりしていますので、環境は厳しいです。部数増という明確な打ち手がなければ、120%は絶対無理です。

商品企画営業部の希望通り部数を増やすと、コストを圧迫してしまい、売上計画を達成しても利益が出なくなってしまいます。昨期までは、雑誌のブランド認知度向上のための先行投資期間だったので部数を増やしてきましたが、今期からは投資回収フェーズですのでこれ以上コストを増せません。

ここまではヒアリング役に徹していた僕ですが、双方の言い分はそれぞれ筋が通っているものの、落とし所を見つけるにはあまりにも距離がありすぎました。そこで僕はあらかじめ事前にイメージしていた計画数字に近づけるよう、少しずつ議論を動かし始めます。僕の計画数字は極めて商品企画部に近いもので、昨対115%~120%での着地を、広告営業部に"飲ませる"ことができればよいと考えていました。

部数増なしで、昨対120%は、どうやっても難しいんですかねぇ? なんとか方法はないものでしょうか。

広告営業部うーん、我々もいろいろ考えてはみましたが。。。

先ほど、競合が読者モデルを使ったタイアップ企画を実施する、と言ってましたが、我々も同じようなことを検討してみたりはしました?

商品企画部現状、我々の雑誌には読者モデルがいませんので。。。

えっ、つくればいいんじゃないの? 部数も増やせない、読者モデルもいないじゃ広告営業だって売れるわけないじゃない。ねぇ

広告営業部そうですねぇ。。。

他にも、読者モデル企画みたいに、コストを増やさずに工夫で価値を上げられそうな打ち手はないですか?

広告営業部たとえば、雑誌の広告をwebで1カ月無料掲載するとか、簡易的な読者アンケートをつけて結果のレポートを提供するとか、編集記事枠の一部をサービスするとか、ですかねぇ。

商品企画部いま上がった打ち手は、これまで内規でNGとしてきました。

どうして?

商品企画部手間がかかる、という理由ですね。

コストを増やさず、手間もかけないってのはないよ。手間がかかっても、工夫で価値を上げることにチャレンジしようよ。内規についても、変更が必要なら経営会議に起案して変更すればいいじゃない。

商品企画部藤井さんがそうおっしゃるなら。。。


僕としては、商品企画部を少し悪者に仕立てつつ、広告営業部の味方になったかのように話を進めていきました。できない、一点張りだった商品企画部を譲歩させたんだから、次は広告営業部の譲歩の番でしょう、というシナリオです。


これまでできなかった打ち手が実行できるのであれば、条件は変わると思うんだけど、どうですかね?

広告営業部うーん。。。それならば、なんとか昨対115%までは頑張れるかもしれません。

あと5%はどうしても無理?

広告営業部やってみないとわかりません。

そうしたら、こうしませんか? 工夫による価値アップで115%を目指し、残り5%は部数増含めたコスト増による価値アップとし、120%の目標は変えない。商品企画部も5%のコスト増くらいは、別の原価や経費を削って捻出できるよう考えてみてください。

商品企画部検討してみます。

では今後の動きですが、営業側は115%打ち手を具体案にして商品企画部に要望をあげてください。それを受けて商品企画部は、できるできないを判断し、必要があれば内規の変更起案を経営会議にあげてください。残り5%の打ち手は、コスト削減案とともに、商品企画部側が営業に具体案を投げてください。よろしいでしょうか?

広告営業部&商品企画部わかりました


計画数字を変えず、相互の歩みよりを促し、具体的な打ち手の方向性と、今後の動き方についても整理する―――ほぼ"事前脳内会議"通りに会議を進められたことに、自分としてはかなり「手ごたえ」を感じていました。上司にも「なんとか、計画通り進められそうです」と伝え、昔だったら絶対まとめられなかったよなぁ、自分の能力値も上がったもんだ、なんて悦に浸ったほどです。

そんな、うまくまとめられた、と手ごたえのあった会議でしたが、その1カ月後、広告営業部がそのとき決めた検討事項を、ほとんど進めていないことがわかりました。会議で決まったことを進めていないのは、会社としてはルール違反だと、かなり腹が立ちましたが、その理由を聞いて愕然としました。曰く「会議でハメられた」―――。

広告営業部の主張はこうです。
・もともと僕が商品企画部の出身であるがゆえ、営業についてわかっていない。
・売上に責任を持ったことのない人間が、単に責任を営業になすりつけただけ。
・工夫による価値アップ、なんてキレイごと。
・どうせ藤井のシナリオ通りにならないと、会議が終わらないから、話を合わせていただけ。

僕としては、まったく想定していなかった主張でした。相互理解が進んでいるどころか、会議を通じて不信感を増幅してしまった結果になっていたのです。このことが発覚したときは、それはもう悔しいというか情けないというか、本当に夜眠れないくらい落ち込みました。

複雑な想いを整理しながら、そのときの会議を振り返っていくと、悔しいですが「ファシリテーター」として失格だったことに気づきました。確かに僕は、広告営業部に計画数字を"飲ませる"ことを目的として、途中から会議を仕切ってしまいました。"飲ませる"ことをゴールとしてますから、広告営業部がどんな主張をしようが「理解したふりをしつつも、結局は押し通す」ことを、僕は端から決めてしまっているのです。ファシリテーターはあくまで"中立"で"意思決定には参加しない"こととされているのに、僕の行為は"中立でもなければ、意思決定をはじめからしている"、まさにやってはいけないファシリテーションだったのです。

結局会議は再度仕切り直しをし、広告営業部の頑なな姿勢もあって、計画数字を彼らの主張通り昨対105%にすることにせざるを得なくなりました。僕の会議の仕切りがよかったとしても、最終的には105%になったかもしれませんが、ファシリテーターに徹していれば、少なくとも広告営業部と商品企画部の相互理解の促進はでき、その後の作業工程をスムーズにすることはできたはず。。。うーん、今振り返っても、悔しい気持ちでいっぱいになる苦い経験でした。

"事前脳内会議"通りに物事を進めても、それはあくまで"脳内完結"のシナリオ。実際は相手があってのことなので、相手の信頼を勝ち取るために、その場での自分の立場・振る舞いの"誠実さ"や"柔軟さ"が試される―――「好事魔多し」の言葉通り、自分が手ごたえを感じたときほど、リスクも孕んでいる可能性があるということを思い知りました。

次回も、もう少し失敗談を吐露させてもらいます。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。

2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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