脳内会議

第10回 柔軟さと頑固さ

2013.03.01更新

仕事の打ち合わせや会議で物別れに終わったとき。
「あいつはまったく頭が固いな。自分の意見以外は聞く耳を持たないなんて。あんなヤツとは仕事にならん!」
と思ったり、
「あいつには自分の意見というものがないのか。こっちが指摘したら"ああそうですね、その方がいいかもしれません"だなんて。あんなヤツとは仕事にならん!」
と思ったり。

同じく、上司や先輩に対して同僚と愚痴をこぼすとき。
「あの人はまったくメンバーの意見を聞いてくれない。頑固にもほどがある。現場をわかってないあんな人とはやってられない!」
と思ったり、
「あの人は物事の判断をコロコロ変える。優柔不断にもほどがある。リーダーとして威厳のないあんな人とはやってられない!」
と思ったり。

"柔軟さが大切"なのか"頑固さが大切"なのか。人とのコミュニケーションやビジネスの判断・決裁が求められる場において、"柔軟さと頑固さ"はどちらも必要不可欠な要素です。みなさんの仕事の悩みやストレスも、原因を探っていくと"柔軟さと頑固さ"のどちらか、もしくは両方が関係する問題点に辿り着くはずです。この二律背反した要素を、時と場合によって的確に使い分けできる技術を身につけることができれば、問題解決力や状況判断力が飛躍的に向上し、一段上のビジネスパーソンになれる―――はずなのですが、一朝一夕で身につけるにはなかなか難しいのが現実です。今回は、日々の行動をケーススタディで振り返りつつ、自分自身の特徴を知ることからスタートしたいと思います。

<ケーススタディ>
ある会議に出席したところ、営業グル―プのマネージャーが「あと20万円でチームの営業目標が達成できるんだ。今回だけ特別に、100万円の商品を20万円にディスカウントしてもらいたい。なんとかお願いできないだろうか?」と依頼されました。あなたは商品企画のメンバーですが、その会議には直属の上司は参加していません。

次のうち自分に最も近いのは、どの気持ち・発言でしょうか。

A)
営業の気持ちをできるだけ汲んで、実現できる方向で検討してあげたい。その上で「なるほど、あと20万円ですか。この場でははっきり言えませんが、できるだけその方向で実現できるよう上司と相談してみます」

B)
今回だけ特別だという理由があいまいすぎる。一度例外認めてしまえば、次回以降の抑制が利かなくなる。その上で「ルールを変更することは基本的には難しいと思います。ご協力したいのはやまやまですが。。。」

C)
ここで営業グループに貸しを作っておくと、他のことで有利になることがあるかもしれない。その上で「本当はNGですけど、なんとかなるかもしれません。とりあえず上司に掛け合ってみますよ。その代わり、来期の新商品の件、よろしくお願いしますね」

D)
営業が達成することよりも重要なのは、顧客にとって必要なものを販売しているかどうか。その上で「取引先はその商品を必要としているのでしょうか? 今回20万円にディスカウントし導入実績を作ることで、今後の継続した取引が見込めるかどうかが重要です。必要ない商品を目標のために格安で販売しても意味はありません」

※当てはまるものがひとつもない場合は、そのまま飛ばしていただいても構いません。

上記のA)B)C)D)のうち、"柔軟さ"に分類される対応はA)C)、"頑固さ"に分類される対応はB)D)になります。それぞれ微妙な違いがあるので、少し解説を。

"柔軟さ"のA)とC)には、「営業の役に立ちたい」と「自分の益になるなら」の違いがあります。A)を選んだ方は、仕事において周囲の喜びを自分の喜びと捉えることが多く、人の役に立っている実感があることが何より重要。その分、頼まれた仕事を断れず抱え込みすぎてしまい、業務時間が長くなる傾向があるかと思われます。一方、C)を選んだ方は、仕事において自分のアイデアを行動に移していくことが大切。人と違うことを考えるのがなにより面白くて快感。その分、好き嫌いで仕事を選り好みしてしまったり、自分のやりたいことが抑制されるとやる気がなくなったりする傾向があるのではないでしょうか。

"頑固さ"のB)とD)には、「これまでのルールを遵守」と「最も大切な価値観こそが重要」の違いがあります。B)を選んだ方は、仕事において与えられた課題を的確にこなしていき、これまでのルールに従いながら改善を進めていくことが好きです。その分、これまでのルールと異なる判断を求められると不安になったり、決断を先送りにしてしまう傾向があるかと思われます。一方、D)を選んだ方は、自分の中に確固たる価値観があり、その価値観を推進していくことが何より重要。また実現のために努力を惜しまないため、その姿勢から自然とリーダー的な存在に。その分、相手が自分の価値観と異なるとあまり意見を聞き入れず、独善的になったり支配的になったりする傾向があるのではないでしょうか。

このように人にはそれぞれ特徴・傾向があり、その本質はなかなか変わらないと言われます。ちなみに僕は、どちらかといえばC)タイプで「自分の益になるなら」柔軟に対応する傾向が強いようです。「自分が面白いと思うことは熱心」「人と違うことをするのが好き」な反面、「拘束されるとイライラする」「人から蔑ろにされるとやる気がでない」「しまいには捨て鉢な態度をとる」人間だそうです。

「人の役に立ちたい」「面白いことで人を驚かしたい」「ルールをきちんと守りたい」「ぶれない価値観を持ち続けたい」―――あらためてそれぞれの特徴・傾向を書き記すと、どれも間違っていないし、ビジネスの現場ではどれも必要とされるものです。とはいえ、それぞれの特徴が活かされる機会や力を発揮する場所というのは異なっています。つまり、適材適所を理解する、もっとわかりやすく言えば、"自分が得意な時と場合"と"自分が苦手な時と場合"を知ることがとても重要になります。そのためには、専門的な適正診断を受けることやビジネス心理学のセミナーを受講するなどもひとつの方法ですが、僕からは日常的にできる『自分観察・脳内会議』をおすすめします。これまでの脳内会議が相手からのアクションが前提だった"受動的な"脳内会議だったのに対し、今回は自分自身のために働きかける"能動的な"脳内会議と言えそうです。

『自分観察・脳内会議』が最もやりやすいのは、「決裁・判断が求められるような会議」もしくは「重要な情報共有が行われる会議」に参加しているときです(こう書くとものすごく大それた会議に見えますが、そんなことはありません。どんな職場にも週に1度以上は必ず何かしら、課題解決や情報共有のための打ち合わせがあるはずです)。その会議では、自分が主体的に起案や議論しなければならないときはどれくらいあるでしょうか? 毎回自分が主体的、と答えた方には申し訳ありませんが、主体的でないときこそ、『自分観察・脳内会議』の出番です。

『自分観察・脳内会議』のやりかた
1)前述したA)からD)のうち、自分とは特徴・傾向が違う人を3人程度ピックアップする。
2)
自分が尊敬するもしくは学ぶべきところがあると思っている順に並べる。
3)
それぞれから「学びたいポイント」を事前にメモしておく(脳内で記憶しておくのも可)。
4)
会議に参加しながら、その人の発言内容はもちろん、資料の作成の仕方、プレゼン時の表情や声のトーン、それに呼応して周囲の人のリアクションや会議全体の空気がどう変わったか観察する。
5)
普段の自分の考え方や行動とは違うポイントが見えたら(良いことも悪いことも)、なぜ違うのか、自分がなぜそうしないのか、どこに違和感を覚えるのかを感覚的で構わないので、考えてみる。

こうすると、基本的に"つまらない会議"というのは激減します。注意すべきは、あくまで自分観察のためであり、他人の評価をしているわけではないこと。上から目線で評価するような観察だと、結局、自分の特徴・傾向と合うか合わないかしか見えなくなり、せっかくの学ぶ機会を失ってしまう恐れがあります。

慣れてきたら"反面教師編"(自分と特徴・傾向が似ている人から「学びたくないポイント」「自分もやりがちな失敗ポイント」を事前にメモしておいて観察する)や、"同種成功編"(自分と似ているのに成功している人を観察する。これができるようになると、自分のスキルアップに直結する)など、観察の幅を広げていくのも面白く勉強になります。

ちなみに、先程、人のタイプを4つに分けて記しました。これを誰もが知っている昔話の『桃太郎』に当てはめることができます。

「ぶれない価値観を持ち続けたい」→桃太郎。鬼を倒す、という大義を持つ。
「ルールをきちんと守りたい」→犬。目標達成するためのプロセスを明確化。
「面白いことで人を驚かしたい」→猿。困難を解決するために知恵を絞る。
「人の役に立ちたい」→キジ。組織が円滑に活性化するための調整役。

桃太郎の登場キャラクターに照らし合わせて、自分自身はもちろん、会社の上司や同僚がどのタイプなのかを考えてみるのも結構面白いです。また自分の会社やグループが、桃太郎が多いのか、犬が多いのか、猿が多いのか、キジが多いのかで、組織の持つ特徴が変わってきますので、ざっくりと特徴をつかみたいときには、意外とあなどれない例えなので、ぜひ使ってみてください。


次回は「相手の特徴・傾向を活かすには?」について書いてみたいと思います。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。

2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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