おせっかい宣言

第4回 男は弱い・・・

2014.11.06更新

 大きな病院に行くと、年配の「カップル」がたくさんいる。
 8割がた、おばあさんのほうが、おじいさんの車いすを押している。あるいはおばあさんがおじいさんの手をひいて、連れている。女性のほうが平均余命が長いのだから、当たり前と言えば当たり前である。それにしても、女性のほうが男性を世話している、という状況が圧倒的に多いのにいつも驚く。

 男性にとても優しく介護されて車いすにのっていたり、世話をされたりしている女性もいるが、正直、すてきな光景だなあ、とぼんやり見てしまったりする。
 いや、そういう女性はきっと、献身的に男性の人生を支えてきたやさしい人だったんだろう。男性のほうも、あんなによくしてくれた妻が具合が悪くなったんだから、と、恩返しも含めて、調子を崩した妻に尽くしているのだろう。
 要するに、人生は自分がしてきたことの反映なのである。いや、世の中の妻の皆様は、「たとえ自分が具合悪くなっても、あんなに気もつかない、不器用なうちの夫に面倒みてもらうくらいなら、つきそいなしで自分で入院してしまったほうがよっぽどいい。自分は介護はしても、介護されることだけはごめんこうむりたい」と思っている方も少なからずおられるにちがいないことも、想像に難くないのであるが。

 特別養護老人ホームなどの高齢者の施設でも、とにかく「おばあさん」が多くて「おじいさん」は少ない。行ってみればわかるが、圧倒的に女性が多い。
 小規模で家庭的な雰囲気で認知症の高齢者のケアを担っているグループホームの単位は9名である。9名の方を一単位としてグループホームができていて、小さなお家のようなところで穏やかな暮らしをしておられるところが多い。
 ある経験豊かなグループホームの経営者によると、この9名の黄金比は「7対2」なのであるという。つまりは7名が女性、2名が男性、という割合が一番運営しやすく、穏やかな雰囲気になりやすい、というのだ。
 男性がたった1人だと「ハーレム状態」になってしまうので、あまり望ましくなく、男性が3人以上になると、派閥ができて、男たちがいがみ合い始めるらしい。男がふたり、そのまわりに女たちがたくさん、という状況は、いちばんおだやかで感じのよいグループホームをつくりやすいのだそうだ。
 とはいえ、その「ふたりの男性」の確保がなかなかたいへんなのでそうである。男性が認知症になったら、妻に面倒を見てもらうことが多い、ということもあるのだろうが、とにかく、長生きするのは女性が圧倒的に多い。施設に入りたい女性はたくさんいるけれど、男性入居希望者は少ない、と介護現場の方は実感として感じておられる。

 それはわたし自身の少ない実際の経験とも合致する。義理の母は認知症を発症して、すでに20年以上たち、寝たきりの状態になって10年以上経つ。
 特別養護老人ホームでお世話をしてもらっているが、車いすで身体を起こして、食事を口まで運べばしっかり食べることができて、三食ちゃんと食べている。いつ会いに言ってもお肌はぴかぴかできれいで、食欲もある。誤嚥性肺炎、という、食べ物が気管にはいって肺炎を起こす、という寝たきりの老人にはよくある肺炎を起こしたこともないし、腸閉塞もおこしたことがない。しっかり食べられている。今年93歳になった。長生きしてほしいと思う。
 実の父も認知症を発症したが、まだ受け答えは十分にできるころに腸閉塞をおこしたために入院して寝たきりになり、退院してものを食べたら、こんどは誤嚥性肺炎を何度も起こし、寝たきりになってから半年ほどで85歳で亡くなった。男はあっという間に死んでしまう、と、思ったものだ。男のほうが弱い。


 とにかく、男のほうが具合が悪い。男のほうが早く死ぬ。男のほうが病気になりやすい。
 低体重の赤ちゃんが生まれたときも、女の子のほうが生き延びる確率は明らかに高い、と新生児科医の友人は言う。
 乳児死亡率をみても明らかに男の子のほうが高い。人類の生存のために、まずは女がたくさんいなければどうにもならない、という生存上の理由にかなう事実だと思うが、赤ちゃんや子どもは男の子のほうが病気にかかりやすく、死亡率も、女の赤ちゃんを喜ばない社会でないかぎり、男の子のほうが高いのである。

 さらに、男としての「ライフ・スタイル」が拍車をかけていく。大人になってからのことを考えるとよい。たばこに、お酒に、とんでもない多忙な社会生活に、ストレスある人間関係。食生活などかえりみず、身を粉にして働かねばならない。
 いや、働くことができるなら、それはそれで幸せかもしれない、というような世の中になってしまって、働くことすらできなければ、それは更なるストレスとなって男性の身にふりかかる。「健康リスク」とよばれるものに、あきらかに男性のほうが曝されている。よって生活習慣病にもなりやすい。いやなことがあったら「女子会」でもやって、ぱーっと忘れちゃいましょう、みたいなストレス発散も男はやりにくい。どんどん心身ともに病気になっていく。だいたいどの国でも、主な生活習慣病の罹患率は男性のほうが高く、平均余命は男性のほうが短い。

 それに、service utilization、と業界では言うのだが、「ヘルスサービスの受診」の割合も世界中で、男のほうが低い。こちらも皆さん、生活の実感としてあると思うが、女性のほうが「あら、具合悪いわ、ちょっとお医者さんにみてもらおうかしら」ということを気軽に出来るのである。
 世界的に見ると、女性の方が、妊娠したときに妊婦健診とか、産後健診とかに行き慣れているので、こういうヘルスサービス利用に関してバリアーが低く、ちょっと具合悪かったらすぐヘルスサービスを利用するようになりやすいのだという。男はちょっとくらいのことで医者には行かない。世界的にそうであるらしい。

 わたしは長く、「母子保健」の研究をしてきた。そのなかでとりわけ女性の保健、について仕事をしてきたし、発展途上国と呼ばれる国で、女性の健康を高めるために、仕事をしてきた。妊産婦死亡率はどうやったら低く出来るか、とか女性の健康をどのように向上させるか、とか考えてきたし、WHO(World Health Organization:世界保健機構)だって、いろいろな戦略を出して次から次に女性保健向上のために尽力していた。
 しかし、はっと気づくのである。もちろんまだまだ女性の健康についてやらなければならないことも多いし、世界では悲惨な状況もある訳だが、数値だけ見たら、女性は男性よりずっと長生きもするし、健康だし、病気にもかかってないじゃないか。女性の保健について尽力するのは大切だけど、男性はどうなっているのだ・・・。

 男性の保健、男性の健康、について真剣に取り組もうとすると、それはとりもなおさずタバコ、アルコールの使用にも関わるし、それよりなにより、男性の働き方、現在の労働と産業構造のありようを変えることに切り込まざるをえない。
 そんなことは、とてもできないから、まず女性の健康、からやっていたほうがいいのかな、それが世界的合意だったのだろうか。
 それでよかったのだと思うけど、本当にそれだけでいいのだろうか。まわりでどんどん病気になっていき早死にしていく男たちをみていると、せめてあんまり男の人をいじめてはいけないのではないか、と、ちょっとは思ってしまうのだ。早死にする男たちを、ちょっと大切にしてやらなければ、とか思ってしまうのである。

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三砂ちづる(みさご・ちづる)

1958年、山口県生まれ。兵庫県西宮市で育つ。
1981年、京都薬科大学卒業。
1999年、ロンドン大学PhD(疫学)。津田塾大学国際関係科教授。
著書に『オニババ化する女たち』『月の小屋』『不機嫌な夫婦』『女を生きる覚悟』など多数。最新刊は『女たちが、なにか、おかしい おせっかい宣言』(ミシマ社)。

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