声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第2回 スヴィドリガイロフ

2009.08.07更新

Аркадий Иванович Свидригайлов

実在の人物ではなくて、ドストエフスキーの長編『罪と罰』の登場人物。
本名アルカージー・イワーノヴィチ・スヴィドリガイロフ。
「スヴィドリ」というあたりで舌をかみそうになりますが、さらに「ガイロフ」と続くあたりが最強、いや最凶といってもいいでしょう。

若者が背伸びして『罪と罰』を読み始めると、最初に主人公の名前「ラスコーリニコフ」に、「なんだこの長ったらしい名前は」と驚き、次に「マルメラードフ」「ラズミーヒン」なる見慣れぬ文字列に、「こりゃ、人の名前を覚えるのが大変だ」と感じ、満を持して登場する「スヴィドリガイロフ」の前にひざまずいて、本を放り投げる。
にわか文学青年に向けてドストエフスキーが仕掛けた周到なワナ、それがスヴィドリガイロフなのです。

さてこのスヴィドリガイロフ、一応、どんな人か説明しますと、いろいろと黒い噂が付きまとう金持ちの地主のおっさんで、金にモノをいわせて主人公ラスコーリニコフの若い妹を手に入れようとする、典型的な悪役キャラ。

なのにどこか哲学的で、虚無的で、結局主人公の妹に振られると、なんだかあっけなく参ってしまい、自殺してしまう。

ちなみにロシア語において、子音で終わる単語、あるいは「o」「e」で終わる単語(ロシア語では中性名詞という)を元に姓にする場合は、最後に「オフ」(場合によっては「エフ」)とつけることで苗字にします。
「イワン」(人名)→「イワノフ」、「ゴルバーチ」(せむし男)→「ゴルバチョフ」など。

ということでこの人の名前は「スヴィドリガイル」あるいは「スヴィドリガイロ」という、この時点ですでに発音しにくい単語から来ているはずなのですが、そんな単語、手元の辞書には載ってません。
どんな意味なのやら。

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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