声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第3回 ショスタコーヴィチ

2009.09.04更新

Дмитрий Дмитриевич Шостакович

ロシア語を始めて10年以上になるので、すっかりロシア語の響きに慣れっこになってしまいました。それにより、返す返すも残念だなぁと思うことがある。
「ショスタコーヴィチ」という名前の響きの面白おかしさが、もはや味わえなくなってしまったことです。

ドミートリー・ドミートリエヴィチ・ショスタコーヴィチ。
この名前を初めて聞いたとき、確かに自分は「なんだこりゃ」と思ったはず。
「ヒョットコ」と、「スットコドッコイ」が合体したような奇妙な響き。
江戸っ子が、「この、ショスタコが!」とか言って若い衆を怒鳴りつける様子が、目に浮かぶようです。

一応説明すると、ショスタコーヴィチはソ連の作曲家。
自由に曲を作ってはソ連当局ににらまれ、今度は社会主義万歳の曲を作り、名誉回復したらまたもや怪しい曲を作ってにらまれる・・・そんな綱渡りな人生を歩みつつ、ソ連時代を生き抜いた偉大な作曲家。
そんな危なっかしい時代に、「革命」の愛称(正式なものではない)で知られる第5番や、包囲下のレニングラードで完成された第7番など交響曲を15曲も残し、そのほかにも膨大な作品を残したのだから、たいした人です。

ところで、ショスタコーヴィチという響きに幻惑され、前半の「ドミートリー・ドミートリエヴィチ」の部分がスルーされがちですが、ここも十分、突っ込みポイントです。
「どんだけドミートリーが好きなんだ!」という感じですが、この二つ目のミドルネームに当るところは「父称」と言って、お父さんの名前に息子を表す「ヴィチ」を付けたもの。
つまり、「ドミートリーさんの息子のドミートリーさん」ということになります。
結局、「どんだけドミートリーが好きなんだ!」という疑問は解決しませんが......。

交響曲ばかりが注目されがちなショスタコーヴィチですが、私が好きなのはむしろ弦楽四重奏曲集。
暗くて、美しくて、でもどこかひねくれたような響きです。

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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