声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第8回 チェルノムィルジン

2010.02.05更新

Виктор Степанович Черномырдин

ヴィクトル・ステパノヴィチ・チェルノムィルジン。
ソ連崩壊直後の1992年、ロシア共和国の首相に任命されたこの人物の名前を初めて聞いたときのことを、いまだによく覚えています。
「なんだこの複雑怪奇な名前は!」

ニュースキャスターもあからさまに読みづらそうだったし、私などは、
「外交官が言い間違えて、日露関係に亀裂が入ったらどうするのだ!」
と、外交への悪影響すら勝手に懸念したものでした。

もっとも、ロシアのトップはあくまで「大統領」であり、首相はその下。
今でこそ真の権力者と言われるプーチンが首相、彼が任命したメドヴェージェフが大統領という歪んだ構造になっていますが、本来はそれほど表舞台に出てくることはない立場。
おかげでこの長ったらしい名前が日本人を困らせる機会は、それほどありませんでした(多分)。

もっとも、ソ連崩壊直後のロシアは、あの「酔いどれ」エリツィンが大統領だったこともあり、経済通の彼が果たした役割は非常に大きかった。
いきなり資本主義社会に放り出されたロシアの舵取りをするという大役を果たしたわけですが、金融危機を招いたり、国家権力と結びついた一部財閥が極端に肥大化するなどの弊害もあり、評価が分かれる人物でもあります。
1998年に首相を退いた後は駐ウクライナ大使を務め、現在は政府顧問をしているようです。

ところで、当時多くの日本人が、この長い名前を一息では発音できず、
「チェルノム・イルジン」と区切って読んでいましたが、これは明らかな間違い。
この「ム」「イ」という部分は、前に取り上げた「ウとイの中間音の母音」なので、「ムィ」で一音なのです。しかも、この母音にアクセントが付きます。
「チェルノ」とはロシア語で「黒い」という意味なので(チェルノブイリも同じ)、ここで区切って「チェルノ・ムィールジン」と読むと、通っぽく聞こえます。

まぁ、彼の名が日常会話に出てくることは、まずないと思いますが。

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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