声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第21回 セルゲイ・ブブカ

2011.04.15更新

Сергей Назарович Бубка

先日、アフリカについての本を読んでいたら、チュニジアの政治家で、「バビブ・ブルギバ」という名前の人が出てきました。
前に「ロシア人は濁音を好む」みたいな話を書きましたが、ここまでの濁音っぷりの人はさすがにいない。
「この濁音っぷりには、ロシア人も泣いて喜ぶに違いない」
とか思って調べてみたら間違いで、実は「ハビブ・ブルギバ」さんでした。
まぁこれでも、十分すごい濁音っぷりですが。

でまぁ、そんなこんなで思い出したのが、この人。
セルゲイ・ブブカ。
「鳥人」と呼ばれた、旧ソ連の棒高跳び選手です。

世界選手権で6回優勝、ソウル・オリンピックで金メダル、いまだに棒高飛びの世界記録保持者。
この人の実力は圧倒的で、全盛期には7メートル以上(自身の持つ世界記録は6メートル15センチ)飛べたとか、本当はもっと飛べるのに、世界新記録更新の話題を盛り上げるためにわざと失敗しているだとか、すさまじいエピソードが満載です。

名前の語尾が、ロシア人名に特有な「コフ」とか「スキー」じゃないなぁ、とお気づきの方も多いと思いますが、実は正確にはロシア人ではなくウクライナ人。
ロシア人、あるいはソ連人でそれっぽくない人の名前は、ウクライナ系が多いです。

ソ連が崩壊したのは、まさに彼のアスリートとしての全盛期。
もっとも、実は彼の生まれたルガンスク(ウクライナ語ではルハンシク)は、ウクライナ最東端で、今でもロシア人(自分のアイデンティティをロシアだと思っている人)のほうが多いというような街。
ソ連崩壊後、ブブカが自分のことをどう考えたかはわかりませんが、「ソ連の鳥人」は、そのまま普通に「ウクライナの鳥人」となり、その後も世界選手権を連覇し続けました。
誕生間もない「ウクライナ」という国名を世界に意識づけるのに、彼の功績は絶大だったはずです。

そして、そんなことお構いなしに、名前のインパクトためか、日本でもサブカル系の雑誌の名前(月刊ブブカ)やら、ラーメン屋の名前(ぶぶか)やらに使われています。
訴えれば勝てますよ、ブブカさん。

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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