声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第22回 シャガール

2011.05.13更新

Марк Захарович Шагал

ロシア人ぽくない名前をしたロシア人は、どうもロシア人であることを忘れられがちです。
その代表がこの人かもしれません。
マルク・シャガール。

大学時代に友人に、「ロシア人って、画家とかは全然有名じゃないよね」と言われ、「シャガールがいるじゃん」と言ったら、「え、あれフランス人でしょ?」とか言われた記憶があります。
「他にもルブリョフとかマレーヴィチとかカンディンスキーとかいるだろ!」と強く主張しようと思いましたが、どう考えてもひとりも知らんだろうと、言わずに心のなかにしまいこんだ思い出があります。

ちなみにこの名前の由来になったと思われる単語は「シャガーチ」という動詞で、これは「歩く」という意味。
彼の先祖が何を思ったのかは不明。

前回紹介したセルゲイ・ブブカと同じく、彼の名前もロシアっぽくありませんが、それはひとつには彼がユダヤ系だということ。
そして、生まれたウィテブスクという街が、現在で言うところのベラルーシであること。
ただ、彼の生まれた19世紀末の状況から考えれば、彼自身が自分を「ベラルーシ人」だと思っていたわけではないでしょう。

絵の勉強はサンクト・ペテルブルグでしたのですが、革命後ソ連に見切りをつけパリに。
画家として名声が高まったのは、ほぼこれ以降になります。
エコール・ド・パリの巨匠と呼ばれ、最終的にはフランス国籍を取得。
しかもユダヤ人で、ユダヤの歴史についての絵を数多く描いている。
そんな彼が自分をどれだけロシア人だと思っていたかどうか、少々疑問です。

ただ、彼の代表作でもある「私と村」を見てもわかるとおり、少なくとも彼の故郷・ウィテブスクは、彼の心のなかにずっと存在し続けていた、ということは確かなはずです。
ロシアびいきの人間としては、そのことにちょっとだけほっとします。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

KYOTO的
マックスコーヒー

バックナンバー