声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第26回 ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ

2011.09.01更新

Мстислав Леопольдович Ростропович

前回、リヒテルの話ではさらっと流してしまいましたが、本当はこの名前にこそツッコミを入れるべきだったと思います。
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ。
「長くて発音しづらくて珍妙」という、三拍子そろった名(めい)名前です。
こんなに長いのになんとたったの二音節(msti+slav)!

この人は日本にもよく来ていたので、知っている人も多いかと思います。
20世紀ロシアを、そして世界を代表するチェロ奏者。
人権擁護活動などに積極的にかかわったためソ連にいられなくなり、亡命。その後は世界中を飛び回って活躍しました。
一方で、社交的なところが「俗っぽい」と評されることもあり、特に彼の「無伴奏チェロ組曲」がクラシックファン以外まで巻き込んだ異例のヒットになったこともあってか、マニアからは軽視されがちなところもありました。
(それにしても、チェリストというのは彼といいヨーヨー・マといい、なんかお茶の間ウケがいい人が多いのは、なんでだろう?)

でも、4年ほど前に故人となった彼の無伴奏を今になって聞いてみると、普通にいい演奏だと思えます。
芸術家ってものは、死して初めて純粋に作品を評価してもらえるのかも、などと偉そうなことを思ったりもしました。

ともあれ、この長ったらしい名前はあらゆる民族を苦しめたらしく、西欧では名前の語尾から「スラーヴァ」、日本では「ロストロ」などと名前を切り取られがちでした。
「スラーヴァ」は、例の「スラフ」を愛称化したものなのでいいのですが、「ロストロ」はかなり適当にぶった切っている感じです。
語源は「ロストロープ」さんの「子ども(ヴィチ)」なので、日本語で言えば「聖澤」さんを「ひじりさ」と呼ぶようなものでしょう。日本に来るたびに、「ロストロさん」などと呼ばれ、さぞ気持ち悪かったのではないかと。

ちなみに「ムスティ」とは、古代スラヴ語で「復讐」なんだそうです。
つまり、ムスティスラフ(栄光の復讐)。
失礼な呼び方をしたことで、復讐されないだろうか?

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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