声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第27回 ウラジーミル・コマロフ

2011.10.06更新

Владимир Михайлович Комаров

「名前」(イーミャ)の話題をもうひとつだけ。
日本のロシアに関する報道や記事などを見ていて、大多数の人にとっては別にどうでもいいのだけど、ロシアマニア的にはどうしても許せないことがひとつだけあるのです。

それは、「ウラジーミルというロシア人名を、ウラジミールと書くな!」ということです。

ウラジーミル・レーニン、ウラジーミル・ナボコフ、ウラジーミル・プーチン、みな「ウラジーミル」です。
なのに、書籍などでも普通に「ウラジミール・プーチン」とか書いてあったりします。
チェコ語などでは「ウラジミール」らしいので紛らわしいですが、ロシア語のアクセントは明確に「ジー」です。覚えるジー。

まぁそれはそれとして、ここまでに挙げたウラジーミルさんは有名すぎる人ばかりなので、ここでは、あまり知られていないウラジーミルさんを。
宇宙飛行士のウラジーミル・コマロフさんです。
ソユーズ1号のパイロットです。

1967年は、ロシア革命50周年の年。
当時のソ連のトップだったブレジネフは、なんとしてでもこの年にソユーズを飛ばすよう厳命していました。
今では「世界でもっとも安全性の高い宇宙船」などと言われるソユーズですが、この時点でのソユーズ1号は完成にはほど遠く、無人の試験飛行はことごとく失敗。しかも、その欠陥すら十分に改善されていないにもかかわらず、有人飛行が決行されることになったのです。

コマロフのバックアップ(控えの飛行士候補)は、あのユーリー・ガガーリンでした。
自分が逃げたら、親友であり、すでに宇宙飛行を実現し全世界的な有名人だったガガーリンを死なせることになる。コマロフは最初から、死を覚悟していたそうです。

一方のガガーリンも、親友を救うべくあらゆる手を尽くし、それが適わないとなると、発射直前に宇宙服を着て「俺を乗せろ」と暴れた、という話もあるそうです。

そうして打ち上げられたソユーズ1号は、案の定数々のトラブルに見舞われ、コマロフの必死の努力でなんとか大気圏への突入に成功したものの、着地に失敗。有人宇宙飛行史上、初の犠牲者となってしまいました。
そしてガガーリンもまた、その翌年の1968年に、飛行機での訓練中に事故で亡くなりました。

ウラジーミルは、古式ゆかしき古代スラヴ系の名前です。
ソ連という支配体制の犠牲者になったコマロフにとって、ウラジー(支配)ミル(平和)という名前は、少々皮肉かもしれませんが。
そんな彼のため(?)にも、「ジー」を伸ばしてください、「ジー」を!

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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