声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第32回 ゲンナージー・ロジェストヴェンスキー

2012.03.16更新

Геннадий Николаевич Рождественский

おそらくどんな国にも「ありがたい名前」というものは存在しているはずです。
たとえば私の高校時代の英語の先生は「神(かみ)」という苗字でした。
なんか言うたびに「神のお告げだ!」なんてからかわれていましたが、多分今も「神降臨!」とか言われ続けていることでしょう。うっとうしいだろうなぁ。元気かな、神先生。

それはともかく、ロシア人の苗字で「ありがたい」のはやはり、ロシア正教関係の名前でしょう。
このロシア正教というのが曲者で、ただでさえ長い単語の多いロシア語のなかでも、この正教関係は特に長ったらしいのが多い。
大体「正教」という単語すら、「プラヴォスラーヴナヤ・ツェールコフィ」という長さ。モスクワにある有名な寺院は、「ブラゴヴェシチェンスキー・サボール(生神女福音大聖堂)」。和訳すら長くてよくわからないという始末です。そもそも何て読むんですか?

そんな感じなので、当然、あのキリスト教最大の祭日も、
フランス語 ノエル
英語    クリスマス
ロシア語  ロジュジェストヴォ
と、思わず「どうしてこうなった?」と叫びたくなる仕様となっております。

この「クリスマス」を名前に冠しているのが、「ロジェストヴェンスキー」という苗字。
指揮者のゲンナージー・ロジェストヴェンスキーが特に有名かと思います。

1931年生まれで、ソ連がまだ華やかななりしころにモスクワ放送交響楽団などで活躍。
亡命する音楽家が相次ぐ中ソ連に留まり続け、「ロシア的な重厚さ」を体現し続けた指揮者。その音楽は確かにロシア的で重厚だけど、結構派手でもあります。

まぁそんな説明がなくとも、名前だけで重厚さを表している稀有な存在です。
「ロジェストヴェンスキー指揮のムソルグスキー」なんて、クラシック初心者には怖くて買えたもんじゃありません。

でもそんな彼、実は「クリスマス」さんだったんですね。
そう考えると、今までのロジェストヴェンスキー像がガラガラと音を立てて崩れていくようで、困ります。

ちなみに、より正確に発音すると「ロジュジェストヴェンスキー」となり、さらに重厚に。

80歳を超えてご存命。ぜひ長生きして、ご活躍してください。

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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