声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。

第35回 ビクトル・ザンギエフ

2012.06.15更新

Виктор Зангиев

私の中学、高校生時代だから、だいたい1990年前後。
おそらく当時の中高生たちの間でもっとも有名なロシア人(当時は「ソ連人」)は「ザンギエフ」でした。

えーと、実在の人物ではありません。
格闘ゲーム「ストリートファイターⅡ」の登場人物で、ニックネームは「赤いサイクロン」。超マッチョな肉体を駆使してソ連っぽい無機質な工場のなかで戦い、グルグル回転しながらパイルドライバーを決めたり、ラリアットしながら敵の飛び道具をすり抜けたり、勝ってゴルバチョフっぽい人と一緒に筋トレしたりする人です。
知らない人にはまったくわからないかと思いますが、まぁ、そんな人です。

後に本格的にロシア語を勉強するようになり、当然「ザンギエフ」を調べました。
推測される元の単語は「ザンギー」とか「ザンギヤ」。
でも、どこを探してもそんな単語は見つからず。
「なんだ、適当にロシアっぽい名前をつけたのか」と思っておりました。

モデルになった(と思われる)人物がいたことを知ったのは、つい最近。
プロレスラーに「ビクトル・ザンギエフ」なる人物がいたのです。

ソ連崩壊前後の混乱のなか、稼ぎ口がなくなったロシア人レスラーが、日本に出稼ぎに来ることがあったようです。そんなひとりがこのザンギエフさんだったようで、どうもほんの数試合出て、以来日本には来ていないようです。

その後どうしたのか、気になって調べるも消息はつかめず。
ロシア語のサイトをあちこち捜し歩いてわかったのは、「1959年生まれで、父親も有名なレスリング選手。やはりレスリング選手となり、ヨーロッパチャンピオンになる。アンジョさんなるライバルがいたらしく、彼との名勝負は有名」ということのみ。
ちなみになぜ語源がわからなかったのかというと、彼は実はオセチア人(コーカサスに住む民族)で、「ザンギエフ」の語源もきっと彼らの言語のオセット語かと思われます。

彼の出たほんのわずかな試合を「ストリートファイターⅡ」開発関係者が見かけて、名前を拝借した、ということなんでしょう。
それが日本でこんなに有名な名前になっていること、彼は知っているのでしょうか?
今年53歳、普通に考えれば、まだお元気なはずですが・・・。

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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