声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第40回 マクシム・ゴーリキー

2012.11.16更新

Максим Горький

最近、剛力彩芽さんってタレントがよくテレビに出てるそうですね。
宮崎あおい派の私は、まったく興味がございませんが。

それはともかく、ロシアの剛力彩芽と呼ばれているのが、作家のマクシム・ゴーリキーです。

ゴーリキーという名前はペンネームで、意味は「苦い」。
前に紹介したアクーニン(悪人)もそうですが、なぜ彼らはみな、どんよりしたペンネームをつけたがるんだろう。

さらに代表作のタイトルは『どん底』(На дне)という始末。
今は読む人もほとんどいませんが、昭和の学生運動の頃には人気があったそうです。
ちなみに新宿三丁目にある老舗バーの「どん底」は、この作品が由来。

まだまだ帝政華やかなりし1868年に生まれたゴーリキー、本名ペシコフは、幼くして両親をなくし、いろいろな職を転々とした後、革命運動に。
そういった体験からまさに社会の底辺の人々のことを知り尽くした作家でした。
もっとも、彼らの力強さを信じていた作家でもあり、『どん底』もタイトルほどは、暗い話ではありません。

むしろ彼の生涯でどん底だったのは、晩年だったかもしれません。
国外で暮らすも資金が底をつき困窮し、ソ連へ帰国。
ソ連では有名作家の帰国ということで歓迎されるも、じきにスターリンの粛清が激しくなると軟禁状態に置かれ、その後謎の死を遂げます。
毒殺説もあります。

ちなみに、ロシアで結婚式を挙げている男女に対して「ゴーリカ! ゴーリカ!」とはやし立てる、という習慣があります。
苦いからキスをして甘くしろ、というわけです。
私もロシアで見かけて、やったことがあります。にらまれました。

そんなどうでもいい個人的な記憶も含め、なぜか思い出すたびにほろ苦さを感じる作家・ゴーリキー。
読み次がれていってほしいものです。

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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