声に出して読みづらいロシア人

主旨

「ロシア人の名前は何であんなに長ったらしいのか?」と、よく言われます。時にはもっと単刀直入に、「なんであんなに滑稽なのか?」とすら言われたこともある。
確かに、ロシア人といえば、「ドストエフスキー」「ムソルグスキー」「ゴルバチョフ」など、ゴツイというか愛想がないというか、そんな名前ばかり。
ですが、「グジェ」とか「ドヴァ」とか、「ルグスキー」なんて不可思議な文字列は、ロシア人の名前でも呼ばない限り、一生声に出すことはないはず。
だったらせっかくなので、読みづらいけど、大声で唱えてみよう。気分が晴れたり晴れなかったりするかもしれません。
本連載では、そんな怪しげな響きのロシア人名を厳選して紹介するとともに、その人物のプロフィールを解説。ロシア人の名前の仕組みについてもわかる。役には立たないが。

第41回 セミョーン・ブジョンヌィ

2012.12.27更新

Семён Михайлович Будённый

ロシア語に特徴的な音に「ヌィ」があります。
この音が入るだけでどんな名前も一気にヌボッとした感じになる魔法の音。
チェルヌィシェフスキー(人名)、グロズヌィ(地名)・・・。

なかでも私イチオシのヌボッとさをかもし出しているのが、今回ご紹介するブジョンヌィ氏。
ヌィだけでもっさりしてるのに、さらに「ブジョン」がつく。
この名前を聞くたびに、私は冷めてびちゃびちゃになったパンケーキを思い出します。なぜだろう。

でもこの人、セミョーン・ミハイロヴィチ・ブジョンヌィ氏は、ソ連時代の非常に優秀な軍人で、しかも騎兵隊を率いたら向かうところ敵なしという、名前に似合わない(?)さっそうとした人物。
ソ連誕生直後に起こった内戦で大活躍し、1935年にはソ連初の元帥になった人物でもあります。

ちなみにこのとき、同時に五人の軍人が元帥に昇格したのですが、その後のスターリンによる粛清で、そのうち三人が犠牲になるという運命を辿ります。
あまり日本では知られていない人たちですが、どの人も非常に個性的、かつ悲劇的で、紹介したい人ばかりです。

さて、このブジョンヌィさんですが、幸いにも生き残ったほうの一人です。その理由はある意味、無能だったから。

騎兵として活躍してきた彼ですが、近代戦にはまったくついていけず、第二次世界大戦時には完全にどうでもいい人になっていたのです。
別にそれだけの理由ではないでしょうが粛清を生き延び、しかも戦後も長生きし、軍人というより馬の品種改良なんかで活躍したみたいです。
コサック騎兵で有名なロストフという地域の出身なだけに、本当に好きだったのでしょう、馬が。

ちなみにトレードマークはヒゲなのですが、なんかすごいことになってますので、ぜひネット等で見てみてください。
このあたりも含め、「前近代的な軍人さん」というイメージです。

そういえば、なぜ彼の名前からパンケーキを思い出したのかわかりました。ロシア語でパンケーキのことをブリヌィっていうのですよ。
べちょべちょになったブリヌィ=ブジョンヌィなんでしょう、きっと。

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松 樟太郎(まつ・くすたろう)

「四面楚歌」をモットーとする編集者。
1975年、ザ・ピーナッツ解散と同じ年に生まれる。某大学ロシア語科を出るも、その後は特にロシアとは縁のない仕事と日常を送る。そのためロシアに関する知識が間違ってたらすいません。そろばん3級。
KYOTO的では、「マックスコーヒー1人旅Y」を連載。全国のファンに惜しまれつつ最終号を迎えた。

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