仕事で少し傷ついた夜に

第2回 行き過ぎた自責は他責よりもタチが悪い?

2013.05.10更新

 前回は、フリーマガジン『R25』の読者アンケート結果を元ネタに、「悪いループに陥ってしまいやすい人」について書きました。まずは、アンケート結果のおさらいです。

Q.「仕事の自分」と「普段の自分」はどのくらい違いますか?(回答はひとつ)
a.かなり背伸びしている 12.2%(103人)
b.ちょっと背伸びしている 34.8%(293人)
c.ほとんど変わらない 43.2%(364人)
d.ちょっと楽をしている 8.0%(67人)
e.かなり楽をしている 1.8%(15人)

 「ほとんど変わらない」か「ちょっと背伸びしている」という人が主流派ですが、「ほとんど変わらない」の考察は前回終えていますので、今回は「ちょっと背伸びしている」について書いていきたいと思います。

 仕事で少し傷ついたときに、これ以上傷つかないようにと保守的な選択をし、結果さらに傷を大きくしてしまう――これを"悪いループ"と表現しましたが、「ちょっと背伸びしている」人が悪いループに陥ってしまいやすいパターンは、大きく2つあります。ひとつは「できないことを他人に言えない」、もうひとつは「理念や理想に走りすぎてしまう」です。

「できないことを他人に言えない」
 「仕事の自分」が「普段の自分」よりもちょっと背伸びしている状態は、向上心を持った取り組み姿勢だったり、新たな領域へのチャレンジ精神だったりがある状態とも言えます。むしろ適度なストレッチがないとマンネリ化しやすくなるので、どちらかといえば好意的に受け止めてよいと思うのですが、危険なのは「自責的」な傾向が強く出すぎるタイプの人です。

 「自責的」とは大辞林によれば、"欲求が満たされないような事態にぶつかったとき、その原因を自分に向け、自責の感情を持つ傾向"とのこと。その対義語であるのが「他責的」で"思い通りに物事が運ばない時に、それを自分以外のもの、状況や他の人などのせいにしようとする傾向"になります。「自責的」と「他責的」を解説文だけで比較すると、自責的な方が他責的よりも人として正しい、と感じる人が多いのではないでしょうか。
 特に2000年代に入ってから、何かと"自己責任"という言葉が出回っていることもあり、自責的にふるまう人の方が、ある意味社会人として正しいとされているように思えます。結論から先に言ってしまえば、「行き過ぎた自責は、他責よりも問題をうやむやにする」ので「自責と他責、両方の視点でちゃんと考える」ことが大切です。
 少し事例を使って説明しましょう。

 あなたは、会社の「コスト削減と業務効率化」の方針から、新しい業務委託先に仕事をお願いすることになりました。当然、初めての委託先なので、これまで業者には「いつもどおりで」とざっくり発注できていたことが、「きちんとマニュアル化していただかないと、できません」と突っぱねられてしまいました。
 前任担当者はすでにいないので、自分なりに業務のプロセスを分解し工程ごとに解説をつけることで、なんとかマニュアルを作ったつもりでしたが、新しい委託先はそれでも「これではわかりません。もっと細かくしてください」と言ってきました。
 さて、あなたなら、どう対処しますか?

 自責的な振る舞いとしては、「自分のプロセス分解が甘かったんだ。再度、業務を見直してみよう」「マニュアルの書き方がわかりにくかったのかもしれない。図や写真を増やしてみよう」といった類のものになります。
 一方、他責的な振る舞いは、「この委託先の理解度が低すぎないか?そもそもコストが安いと言っても、業務範囲が限定的すぎるのでは?」「そもそも前任者がマニュアルを作ってないのが悪い」「こういう状況になることを想定して、上司はジャッジしているのか?」などとなります。

 この事例の問題の根幹は、「新しい委託先に業務をちゃんと移行する」です。その問題を解決するために、「自責的」な視点だけでは足りないはず。おそらくどんなに完璧なマニュアルを作成したところで、そもそもお互いの業務分掌や役割分担がはっきりしていないと、今後も似たようなトラブルは起こり続けるでしょう。
 ありがちなのは、ジャッジした上司は単なる月額コストの安さで委託先変更していて、こういった移行に関するリスクをきちんと認識していないケース。その場合は、今回のトラブルの状況を上司に報告しつつ、「移行のリスクについて、××さんはどういう認識だったのですか?」としっかり確認する必要がありますが、この振る舞いはどちらかといえば「他責的」になります。

 「自責的」な傾向が強い人ほど、問題の根幹をきちんと多面的に把握することなく、自分ができる範囲での解決策に埋没してしまう危険性があります。
 そして、問題がなかなか解決できないうちに期限が迫ってきて、上司から「そういえば、あの件どうなってる?」と聞かれて初めて、問題が明るみになってしまう――そうなってしまうと、会社にも損失を与えてしまいますし、上司の仕切りが悪かったことが原因のトラブルでも、自分が必要のない結果責任を負うことになりかねません。

 経営判断は、いつも正しいわけではありません。やってみて、気が付かなかったリスクが初めて明るみに出ることだってあります。そのリスクをできるだけ正しく、すみやかに上司なり経営ボードに伝える。
 その結果、上司や会社の判断を再度仰ぎ、方向性の軌道修正を行うことができれば、「あいつは他責的なやつだ」というより「あいつは信頼できる」という評価になるはずです。

 また、自責的な振る舞いの裏には、「自分はもっとできるはず」「恥ずかしくて言えない」などのプライドも見え隠れします。プライドを持って仕事をすること自体はとても素晴らしいことですが、そのプライドのせいであなたの仕事を、他人から見えなくさせてしまっていないか、注意してください。
 「できないことは、できない」とはっきり言える。いわば、"他人の責任にしてしまうくらいの勇気とスキル"を身につけることができれば、傷つく夜をもう少し減らすことができるでしょう。


「理念や理想に走りすぎてしまう」
 「少し背伸びしている」と答えた人は、少し背伸びした自分像をイメージし、そのイメージを具現化するために行動している――いわば、"ちょっとした演技"をしている感覚があるのではないでしょうか(かくいう僕もそんな感覚です・・・)。

 少し背伸びした自分像を形作っているのは、書物で読んだり、セミナーで学んだり、目指したい先輩の発言や行動だったりしますが、それらのほとんどが"自分自身では実体験のない"ことになるかと思います。頭でわかっていたり、空気感はつかめているのですが、実際はできていないので、まだ自分の血肉にはなっていない。逆上がりできない子が、何度もトライしてようやくできるようになるプロセスと一緒で、仕事も何度か失敗することでようやく自分のスキルになる。
 つまり、「失敗して傷つく夜を何度か過ごす」ことを経ない限り、自分の成長にはつながらないのです(まったく人生ってやつは・・・)。

 とはいえ、その失敗が自分の成長につながっている感覚があれば、傷つく度合は軽減されるし、傷つく覚悟もできるってもの。そこで意外と難しいのは、失敗している最中に(成果がでるまでの間に)成長している感覚をどうやって得るか。
 ポイントは、"理想像の置き方"と"到達へのプロセス"にあります。

 仕事の成果がすぐに出るビジネスもありますが、多くは数か月、場合によっては一年以上経過しないと成果が見えないものもあります。しかも、管理職や経営ボードに近づくほど、そのスパンは長くなり成果そのものもわかりにくくなるものです。ですので、自分なりに成長を実感できるプロセスを作ることが大切です。

 たとえば「理想の置き方」が、「スティーブ・ジョブスのように、世の中を変革させたい」だったとします。この理想そのものは素晴らしいですし、ITやベンチャービジネスに携わる人なら一度は憧れるのも当然かと思います。ジョブスの書物やインタビューを読んで、彼のフレーズにアンダーラインを引き、心のメモ帳に書き留めている人もいるでしょう。
 ここで肝心なのは、ジョブスの理念や理想の実践を、自分の仕事に置き換えることができるかどうか、です。自分の、世界から見たら些細でこぼれそうな仕事の、その背景に理念や理想を混ぜ込むことができるかどうか――最終的にジョブスの成果と同レベルの仕事ができる人は世界でもほんの一握りですが、同じ理念や理想で仕事ができる人は数多くいるでしょうし、僕やあなたもそのひとりになれるのです。

 目の前のやらなければいけない仕事の背景に、目指すべき理念や理想を置き、そこから導き出された自分なりのゴールを作っておく。どんな小さなプロセスでも構いません。
 打ち合わせに遅れない、上司に報告したときに一発で納得してもらう、一緒に仕事をする人がリラックスできるように会議のはじまりを工夫する、などなど。それは自分だけのささやかなゴールですが、そういった小さなプロセスの積み重ねにこそ、理念や理想の実現はある。まさに、千里の道も一歩から、ということです。


 最後に、ちょっとだけアンケートに戻ります。
 「楽をしている」と答えた人は、もともと仕事への期待値を低減することで自分を守っているのかもしれません。もしくは「普段の自分」が掲げる大きな目標のため、現在の仕事はあくまで生活の手段であるとの割り切りができているのでしょうか。
 僕のキャラクターとはかなり異なるので、大変申し訳ないのですが考察は控えさせていただきます。


次回は「飽きる」「燃え尽きる」について、書いてみたいと思ってますが、テーマが変わってしまったら、すみません。。。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。

以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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