仕事で少し傷ついた夜に

第4回 「自己評価」と「会社評価」のギャップ

2013.06.14更新

いきなりですが、質問です。
あなたは仕事に対して、成長意欲や達成意欲を持っていますか?

この問いに、「NO」と答えられる人は、ある意味大物というか達観している人なのだろうと思われますが、ほとんどの人は「YES」と答える、もしくは答えざるを得ないのではないでしょうか。

「成長意欲」と「達成意欲」。似たような言葉ですが、微妙なニュアンスの違いがあります。
成長意欲は、主に"自分自身"を対象としており、知識・経験を積むことで人として成長し結果仕事の成果も大きくなっていくことに意欲的かどうか。達成意欲は、主に"仕事の成果"を対象としており、会社から示された目標・ゴールを達成するための努力を自ら行うことに意欲的かどうか。もちろん、人として成長するためには目標達成で培われる自信は不可欠ですし、より大きな目標を達成するためには人としての成長がなければ実現できません。よって「成長意欲」と「達成意欲」は仕事をしていく上で、両輪の役割を持っていると言えます。

さて、日本企業の正社員の給与体系は、主に「職能給」と「職務給」のふたつに分かれます。その違いをわかりやすく言えば、「職能給」は"人"に値段をつけ、「職務給」は"仕事"に値段がつく。職能給は人が成長するのを前提としているので、基本的には定期昇給がベースです。逆に職務給は、その与えられた職務に対する成果に応じて給与を都度算出するので、ものすごく成果があがれば大幅アップも可能ですが、一方成果がでなければ降給もありえます。つまり。「職能給」は成長意欲、「職務給」は達成意欲に、それぞれ重点を置いて評価をしていると言えます。なんとなく、大企業は職能給、ベンチャー系企業は職務給が多いと言われていますが、どちらの制度がよいかは、その会社の風土や規模であったり成長ステージやビジネスモデルによって一概には言えません。しかし、働く立場の僕たちからすれば、求められることの違いを知っておく必要があります。自己評価と会社評価のギャップで苦しむパターンは、上記の理解が薄いことが原因のケースが多いように感じますので。

(ここまで読んでいただいて、あまりに基本的な情報ばかりでつまらんという方、すみません。今回は読み飛ばしていただいて構いません)


自己評価と会社評価のギャップで苦しむパターンについて、いくつかモデルケースをご紹介していきたいと思います。

■「職能給」で生まれるギャップ
前述しましたが職能給のベースになっている考え方は、「人は知識や経験が多ければ多いほど成長する」です。よって基本的には、年齢が高い人の方が成長度合は高いと考えられ、会社で言えば入社年次が高い人の方が給与水準は上になる。つまり年功序列になりやすい制度です。同期入社は、かなりの優劣の差がない限り、ある一定レベルまでは同じ成長とみなされ昇進スピードおよび給与は横並び。その中で評価を競い合い、組織長へのスピード出世を目指す、極めて相対評価な制度です。

「同期のことは気にしない。あくまで自分が仕事を通して成長できているかどうかが重要なんです」―――などと綺麗事を言いたくなるところですが、正直、会社員をやっていると他の同期がどのポジションに就いたのか、自分のポジションと比べて上なのか同等なのか、というのはやっぱり気になります。さすがに同期同士の足の引っ張り合いは経験したことがありませんが、お互いが牽制し合うことで自然と距離ができてしまったことはあります。

「職能給」の難しいところは、相対評価がベースになっているのに、競争相手である同期の評価を知ることができないこと。自分の評価の善し悪しが、他人との比較によって決まるわりに、評価基準がオープンになっていない。なので、自分が今回はよくできたと自己評価しても、会社評価は結構辛口でしかもその理由がわかりにくい、なんてことが起こりやすいのです。

たとえば、同期Aがいたとします。彼と自分は同じエリアの営業職で、お互いの営業成績はほぼ同じレベル。今回の半期では、自分の方が営業成績は高く、社内の表彰対象にもなったほどです。ここ1年を振り返っても、成績ではほとんど負けていない。そんな彼に、自分より早く「チームリーダー職」の発令が出た。当然、「どうして、自分じゃないのか?」と思いますよね。その疑問を上司にぶつけても、おそらく納得できる答えは返ってこないどころか、その返答に不可解さを覚えることになるでしょう。

曰く「君にはまだリーダーを任せられない。彼の方にリーダーシップを感じた」「3年間見てきて、ふたりの営業成績は変わらないが、彼の人間性を評価したんだ。彼もまだリーダーというには足りない部分はあるが、役職が人を作る場合もある」「君も決して悪いわけじゃない。次にチャンスが来るから頑張ってくれ」「確かに君があのクライアントを攻略したことは評価している。しかし難易度の高いクライアントを攻略することと、リーダーになることは違うことなのだ」などなど。

その答えに納得できないからといって、さらに追及していくと。。。「君のそういうところが、子どもっぽいんだ。だからリーダーにはまだ早い」「もっと会社組織全体を見なさい。視野を広く持つことができれば、自然とリーダーになる」「だいたい君は、人材育成の経験はないだろう? リーダーの役職に相応な技量を身につけなければダメだ」などなど。彼については"役職が人を作る(リーダーになれば後から技量がついてくる)"とか言ってたのに、自分には"役職に相応な技量が必要"と言っている。あきらかに矛盾しているじゃないか。

こういった返答に、いちいち反応して、傷ついた夜を過ごしてしまうこともあるでしょう。しかし"相対評価"には、そこまで論理的な答えはありません。なので上司に求めても仕方ない部分はあります。同期Aと自分に営業成績や日々の行動にそこまで違いが感じられないのに差がついてしまう理由は、おそらく"上司や経営者に評価されやすい人かどうか"、もっと言えば"上司や経営者に似ている性格や志向性かどうか"ということでしょう。それを上司は正直に言うことはできませんし、あなたもそこを掘ってもしょうがない。

「職能給」は"人"が"人"の値段をつける。よって、ある程度恣意的にならざるを得ません。長く勤めていく中で、全体の帳尻は合ってくると思いますが、それでも自己評価と会社評価のギャップが続くようだと、その会社とあなたの相性が悪いのでしょう(そもそも短期的な成長意欲が強い人が、「職能給」企業を選択してしまう、など)。そのギャップを飲み込んだ上で続けるのか、もっと自分との相性がよい職場を見つけるのかを選択するときが、いずれ訪れると思います。

■「職務給」で生まれるギャップ
期が始まる前に自分の職務の目標を設定され、期間内にその目標を達成しているかどうかで査定の善し悪し、給与の高い低いが決まります。また"仕事"に値段がついているので、
大抜擢や降格も頻繁に行われます。その仕事で成果を出せば、次はより大きな仕事を任せてもらえるし、その逆もあり得るという制度です。いわゆる"成果主義"というやつです。

ときには運が味方して成果が出ることもあります。その期はよい査定がつき一時的に給与が跳ね上がりますが、次回も成果を出さなければ、また給与は元に戻るか、査定次第では元よりも悪くなることもありえます。毎期、毎期ごとの成果によって給与が決まりますから、安定性は低いです(職能給は、基本的に給与は下がらないので、安定性は高い)。短期間で成長したい、若いうちから組織長として活躍したいと思う人には向いている制度だと思います。

上のポジションに就けるかどうかは、"継続して成果を出し続けられるかどうか"。どんな環境でも成果を出し続けられる人が、組織長に抜擢されます。成果を上げ続けるためには、個人としての技量はもちろん、チームを動かす力、市場環境を予測する力、根本的な課題を発見し解決する力などがなければ難しい。僕のリクルートでの経験から言うと、成果を上げ続ける人には、上記の力量を先天的もしくは後天的に備わった人ばかりでした。

しかし、成果主義も理不尽な部分はあります。そもそもの目標設定が適切なのかどうか。自分のポジションに合った難易度に、きちんと目標が設定されていればいいのですが、リーダーポジションでもないのにリーダーをやらされて、その責任まで負わされ、結果給与が下がったり。また、目標設定が細かすぎるゆえ、査定で辛い点がつきやすくなる(数値目標以外に行動目標も厳しく指標化されているケース)。さらに自分が所属している事業自体が成長している場合と、成長が止まっている場合では、成果の出しやすさが異なる。そういう意味では、最終的に職務給も上司の恣意性や運に左右されてしまう、ということです。

「設定されている業務とその目標に納得がいかない」「達成しているのに、細かいところでダメだしをされる」「そもそも事業がうまくいっていないのに、自分の目標が高すぎる」「できないことができるようになっているのに、それが成果に結びつかなければ給与反映されない」など、職務給には職務給なりのギャップは生まれます。ただ職務給は職能給に比べれば、まだ"絶対評価"な分、上司も論理的な説明が可能なので、どうしてもギャップが自分で消化しきれないときは、上司に説明を求めてみてもいいでしょう。そこで会話した内容が、自分の性格や価値観とズレていると感じた場合、職務給制度(=成果主義)の会社で長く続けるのは正直難しいと個人的には思います。

***

人事制度というのは、会社の経営者の思想を反映していますし、制度を何度か変更している会社は、変更タイミングで必ず経営方針も変わっているはず。そういう意味では、会社員の人は、自分の会社の人事制度についてもっと興味を抱いてもよいと思います。給与規則や評価制度については、基本的には従業員がいつでも閲覧できる状態になっているはずなので。

ちなみに新卒採用で学生を評価する場合も、会社によって評価軸が違うのは当然ですが、大きく2つ、「持続的な成長意欲を持ち続けられるタイプ」なのか「自ら進んで行動し周囲を巻き込むことで成果をあげた経験があるタイプ」なのかで分かれるのではないかと思っています。その会社が、「職能給」「職務給」のどちらに重きをおいた給与体系になっているかを知れば、その重点評価軸がある程度は見えてくるはずです。

もっとも一番の理想は、どんな人事制度であれ、"仕事という機会を通して人間的成長と事業的成果を両立できる懐の深い人間であること"なのですが。。。 

次回は「計画を立てる」と「振り返りをする」。その難易度・タイミングについて、書いてみたいと思います。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。

以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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