仕事で少し傷ついた夜に

第5回 「計画」「実行」「振り返り」の難しさ

2013.06.27更新

 Plan-Do-SeeやPlan-Do-Check-Actionという言葉が、ビジネス用語として当たり前のように使われている現場も多いかと思いますが、この言葉をきちんと理解し実践できている人はどれくらいいるでしょうか。
 僕自身も、実は胸をはって自信があるとは正直言いきれません。それほどこの言葉は奥が深いというか、やればやるほど難易度が上がっていくように個人的には感じています。

 Plan(計画を立てる)→Do(実行する)→See(振り返る)をひとつのサイクルとして考える――そう思うとビジネス以外のことであっても同じで、夕食を何にするか、夏休みの家族旅行をどうするか、期末テストに向けた勉強をどうするかなど、僕たちの日常生活でも「計画」があり「実行」をし「評価・振り返り」をする、は普通に行われていることであり特別なことではないのです。ただ、その精度や内容の深さ、改善のスピードや継続性などが問題であり、それこそが仕事の質の違いとなり、果ては企業サービスの競合優位性にまでつながっていく。当たり前のことを、愚直に当たり前にこなし、さらにそれを継続し続けられるか。辛かった受験生のときと変わらず、結果や成果の出しかたに近道はないのかもしれません、残念ながら。

 社会人としてのステージによっても、Plan-Do-Seeのサイクル(今後はPDSサイクルといいます)の質について求められるレベルが変わってきますが、いくつか事例をあげて説明してみたいと思います。PDSサイクルの要求レベルの違い、期待されている質が何かを見極めることができれば、むやみに傷つく夜を過ごすことがなくなるはずなので。

<ケース1>
「自分ではそこそこやれていると思っているのに、周囲や上司がついてきてくれない」

 会社の表彰式で優秀営業マンに選ばれたAさん。営業として個人目標を連続して達成し、自分の担当顧客とのリレーションも良好。表彰の場では「これからは個人業績の達成はもちろん、Aさんの経験をチームにも積極的に波及し、チーム全体を引っ張っていくような
活躍を期待したい」と言われました。直属の上司であるチームリーダーからの相談も増え、チームの売上目標数字を設定する際にも、積極的に自分の意見を伝えました。

 あるときに、チームの業績が思わしくなく緊急チーム会議を開催。あと3週間で不足した数字を巻き返せるかについての議論で「すでに達成しているAなら、どうする?」とリーダーからの質問に、Aさんは以下のように答えました。

 「自分は当たり前のことをしただけです。まずはお客様のことを知ること。そして課題を特定し、自分たちのサービスならどんな解決ができるかを示す。あとは結果が出れば、それを繰り返せばいいし、結果が出なければ最初から戻ればいい。数字が足りない人は、それができてないんじゃないでしょうか」
 「足りない数字は、私の顧客で追加の取引をお願いすることでなんとかしてみます。その代わり、新人教育担当の役割を3週間だけ外してもらえませんか?」
 「そもそも目標数字が高すぎたのだと思います。次回からは、きっちり数字の読み合わせをして、達成できる目標に修正していきませんか」

 Aさん的には、チームの数字を達成するために、自分ができることを最大限示したつもりでしたが、のちのちリーダーからは「もう少し周りを巻き込むことを勉強しないと、いくら個人業績が良くても、そのうち頭打ちになる」「新人からも"Aさんは、僕の教育担当の業務を、面倒だと感じていたんですね・・・。"と相談を受けた」と言われました。Aさんとしては、営業担当として目標はハイ達成しているのに、なんで? 正直どうすればよいかわからなくなりました。

 ――社会人も4~5年を過ぎてくると、ある程度、与えられた仕事はこなせるようになり、自分でも"一人前"になった自覚を持ち始めます。先輩のサポートも必要に応じて受ければよく、任せられる業務量も増えてきます。次のステージは、チームへの影響力を発揮していけるかどうかになっていきます。

 Aさんは、自分自身の仕事についてはPDSサイクルがうまくいっていると言えます。個人業績が達成できるのも、そのおかげでしょう。しかし個人業績の達成率の高さだけが、その人の仕事の質を示しているわけではありません。達成にこだわることは非常に重要ですが、逆に達成していればそれでよい、とはこのステージではなりません。
 またAさんのPDSサイクルがなぜうまくいっているのかを「当たり前のことをしているだけ」と説明するのは、もしかして謙遜なのかもしれませんが、この場合は不遜に聞こえてしまってる可能性があります。"うまくいっている理由を、わかりやすく伝える"というのは、ナレッジ推進の第一歩。これができるかどうかで、個人の力がチームの力にまで波及するか否かが決まります。
 またチーム業績達成のために、個人の業績を達成しているにもかかわらず追加で数字を作りに行くのは、チームのための行動に思えるかもしれませんが、期待されている新人育成を放り出してしまうのはいただけません。そもそも、会社から次のステップを期待されているときは、業務負荷が大きくなるものです。なぜなら独力では限界がある業務量を、周囲の協力のもとに成し遂げられるようになってほしいと思っているので、あえて業務過多になるようにしているのです。新人教育も完璧にやりきりつつ、さらに数字も作るくらいの気概が必要です。
 最後に"目標が高すぎる"という発言。目標設定のときに自分も関与しておきながら、それを言ってはいけません。リーダーは何のために自分を巻き込んだのでしょうか。もし本当に高すぎると感じたのであれば、目標設定会議のときにその理由をきちんと伝えて修正すべきです。チーム全体に影響する難しい決断をリーダーに委ねているくせに、その決断を"間違っていた"としたり顔で話せば、確実に周囲からの信頼を失うことになります。

<ケース2>
「データを抽出し振り返り資料を提出したが、"これは結果の報告で振り返りになっていない"とダメ出しされてしまった」

 Bさんは経営管理部門で給与・労務関連業務に従事。従業員の労働時間管理から、残業代を含めた正しい給与支払い、社会保険や厚生年金、産休・育休や福利厚生まで幅広く担当しています。チームリーダーとして、数名のチームで日々業務を推進しており、会社からも「労務関連業務はBさんに任せておけば大丈夫」と信頼もされています。

 あるとき経営ボードから「労働時間管理が適性に行われているかが疑問だ。深夜残業をしているのに、勤務表には記していない社員がいる可能性がある。会社としてサービス残業を強要することはないし、そもそも認めない。勤務表が正しくつけられているかどうかを調査してほしい」と依頼されました。Bさんも噂を耳にしたことがあり、気にはなっていました。

 その後、1か月間の勤務表のデータと入退室時間のデータを突け合わせてみたところ、退出時間が勤務表での記録と乖離している社員が20名出現。うち5名は深夜残業をしているのに、勤務表上はそうなっていないことがわかりました。Bさんは、エクセルの表組で差異のあった日と乖離している時間を示し、ボードメンバーが出席する会議で報告しました。

経営ボード「やっぱり存在していたか。いつごろから始まっていたかわかる? そしてそれは増えてきているのか、減ってきているかが知りたい」
Bさん「1か月間の勤務表を突合しただけなので、いつごろから、とか、増減についてはわかりません」
経営ボード「そもそも、原因はなんだと思う?」
Bさん「深夜残業は申請しなければいけないのですが、それを忘れたのだと思います」
経営ボード「深夜残業の発生率と申請率の乖離については、チェックしてる?」
Bさん「そこまでは見ていません」
経営ボード「どうしても深夜残業しなければいけない場合は、適切な労働時間範囲であれば認める。そのために申請制を導入している。しかし、深夜残業をしたのに正しく申告されていない状態を一刻もはやく是正したい。どうすれば是正できるか、アイデアはあるか?」
Bさん「正しく勤務表をつけてほしい、と啓蒙をするくらいしか、ちょっと思いつきません」
経営ボード「Bくん、これでは議論が深堀できない。そもそも調査をお願いした時点で仮説を持って取り組んでもらわないと。これでは単なる事実の報告に過ぎないよ。次回までには、深夜残業の申請モレ・不正申告のない状態にするための実行計画について、調査事実をベースにまとめてきてほしい」

 Bさんは、「正しく勤務表がつけられているか、を実態調査してほしいと依頼があったからそうしたのに、不正ゼロの計画まで立てろと言われるなんて。。。」とちょっと不満気でした。

 ――チームリーダーとして、日々の業務を大きなミスなくとりまとめることができるようになってくると、会社から"変革"や"進化"の推進を期待されるステージになります。変革・進化と聞くと、ものすごくレベルが高いことのように思えますが、むしろどんな業務でも変革・進化なくしては劣化していくだけです。
 Bさんの場合、従業員の勤務表をベースに正しく給与を支払うフローについては、絶対的な自信があったと思われますが、勤務表そのものを疑ったことはなかった。経営ボードから調査依頼があった時点で、「勤務表そのものが間違っていたとしたらどうなる? その影響範囲は? その原因は? 解決方法は?」などとシミュレーションすべきでしたが、そこまで考えが至らなかったのでしょう。よって自ら調査し、不正申告が明らかになった時点で、「不正をゼロにするには?」という方向に報告の焦点を変えることなく、そのまま「不正の事実を報告する」だけになってしまったのです。
 Bさんが、労務担当者としての業務範囲を広くとらえることができれば、今回の経営ボードからの依頼は、会社に正しい変革を起こさせるチャンス、と考えることができたかもしれません。さらに欲を言えば、噂で聞いて気になっていたのであれば、経営ボードから依頼される前に、自ら問題意識を持って行動し経営ボードに起案・提言するくらいまでになったなら、Bさんは次のステージ、組織マネージャーへの階段をのぼることができるでしょう。

 今回は2つのモデルケースを使って説明しましたが、一言にPDSサイクルといってもそのステージによって求められる質の違いがあることを、おわかりいただけたでしょうか。

 ちなみに、僕が働いてきたリクルートでは、マネジメント層に求めることとして「広さ」「長さ」「深さ」がキーワードになっていたように思えます。「広さ」とは自分の担当領域だけでなく、事業全体・マーケット全体を見渡す視野の広さ。「長さ」とは1か月・半年という短期業績だけでなく、1年・3年・10年といったその先を考えて行動・決断をしているかという時間軸の長さ。「深さ」とは誰よりも事業に精通しているかどうか、その事業の未来を考え抜いているかという当事者意識の深さ。
 僕自身はリクルートに長く勤めていくなかで、この「広さ」「長さ」「深さ」を極めることの重要性に気づき、最近は「広さ」「長さ」「深さ」を実践することの壁の高さ&自らの器の小ささに愕然となる機会が増え、少しどころか大いに傷つく夜を過ごす回数も増えています。とはいえ、それはそれで自分を成長させてくれる機会であると前向きに捉え、今日も「広く」「長く」「深い」PDSサイクルの実践を目指して頑張っています。


 次回は「リーダーにならないとダメなの?」について。自分は現場が好きなのに、ある年齢になったら"現場だけ見ててもダメ、リーダーになりなさい"と言われた――よく聞く話ですが、そもそもなんで会社はリーダーを求めるのか、そして会社員はいつまで成長し続けないといけないのか、を書いてみたいと思います。

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藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。

以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

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