仕事で少し傷ついた夜に

第6回 「会社員はリーダーにならないとダメなの?」

2013.07.12更新

 フリーマガジン『R25』の編集者として、20代・30代男性会社員へのインタビューを積極的に行っていたのが2003年~2007年。いわゆる「リーマンショック前」で、ITバブル崩壊から日本の景気が持ち直し始めた頃になります。当時、インタビューでよく聞いていた質問が「出世したいですか?」と「結婚して子供を育てたいですか?」の2つ。どちらの質問に対しても、だいたい次のような反応が返ってきたものです。

「いやー、そりゃしたいですよ。でもね、今の自分じゃ、責任背負いきれませんから。。。
まだ早いっす」

 当時の20代・30代男性会社員の胸のうちを僕なりに解説すると、
・右肩上がりで給与があがる、という前提はもはや過去のものだとわかっている
・"社会も会社も、自分を守ってはくれない"といった危機意識や被害者意識が強い
・自分が育った生活環境と同じレベルのものを、自分の子どもに提供できるかどうか自信がない
・今後予想される経済的困難に対し、自分でなんとかしなくちゃいけない、と意外と真面目に思っている。しかしその解決方法については、見当もついていない
・とはいえ、与えられた目の前の課題をひとつひとつこなしていくことで、もしかしたら何かが開けてくるかもしれない、とも思っている
といったカンジです。

 こういった話を勉強会などでお話させていただくと、優秀な大人の方々からは「最近の若者はホントに元気がない、特に男子は」「結婚すらも躊躇するなんて、どれだけ頼りないんだ」といった感想をもらったりしましたが、僕個人としては、彼らは極めて真面目であり、日本社会の明るいとはいえない未来に対し今のうちから欲望を最小化することで自己防御している―――ないしは、希望のない社会が訪れても生きていけるような心の準備をしているのではないか、と思っています。

 次に日本経営協会が「出世について」の調査を発表していますが、2012年6月の調査結果は以下のようになっています。

Q.現在の会社でどの地位まで昇進したいか
(調査対象:就労後3年目男女700名)

昇進したくない 37.4%
管理職(部長・課長など) 25.4%
監督職(係長・リーダーなど) 22.3%
経営陣(社長・理事) 12.7%
その他 2.1%

 この調査を元ネタに"昇進拒否が約4割!?"なんてタイトルのネットニュースが出回ったりもしましたが、拒否しているというよりも「いやー、まだまだ器じゃないんで。。。」と謙虚なフリをしているか、「昇進したところで、大変さが増すだけでメリット薄い」と冷静に会社を眺めているかのどちらかではないでしょうか。そういう意味では、20代が憧れるような働き方をしているリーダーや管理職が少ないことの裏返しなのかもしれません。リーダーといえば聞こえはいいですが、中間管理職は現場と経営の板挟みでストレスが半端ないのは事実ですし、実際そういったストレスで病んでしまう人を見た経験もあるのでしょう。「そんなにしんどい思いをしてまで、リーダーになる必要があるの?」と20代・30代が考えるのは、ある意味自然だと思います。


■そもそも、なぜ会社にはリーダーが必要なのか?

 会社は、基本的に"人の集まり"でできています。とはいえ、人が集まっているだけでは、特に意味をなしません。何かしらかの目的を達成するために、ある一定の秩序・規律を持った集団である必要があります。そしてその目的や秩序・規律を会社に万遍なく浸透させ動かすために、"組織化"が必要となります。そして組織は、会社全体という最も大きい単位から、部署やグループ、プロジェクト、チームといった小さな単位に分解されていき、それぞれの単位毎に目的と秩序・規律が振り分けられていきます。これらの大小さまざまな単位の頂点に立つ人、そのすべてがリーダーということになります。リーダーは、単なる"人の集まり"を統率し牽引することで"組織化"し、目的をもって動く集団へと導く役割を担っているのです。おそらくその役割は、小さな3人程度のチームリーダーであろうが、1万人以上の従業員を持つ大企業のCEOであろうが、根本的には変わらないものだと思います。そう考えると、後輩が入ってきた時点でリーダーの第一歩を踏み出している、と言えるかもしれません。教えられる立場から教える立場になるわけですから。そういう意味では、会社は"人の集まり"である以上、それを大小さまざまな単位で組織を動かす必要があり、社員には当然のように組織を動かす人材になってもらうことを期待しているのです。

 会社員は、いつかは必ずリーダーになるときがくる―――そういうと「従業員規模が1000人以上の会社ではほとんどが平社員で、管理職になれる人は18%しかいないはず」との反論が返ってくるかもしれませんが、出世や昇進は会社として肩書きを貸与し、集団に認知されやすいように工夫した一種の演出みたいなものにすぎません。出世や昇進にかかわらず"人の集まり"をあなたに託された時点で、あなたはリーダーとしての役割を期待されているのです。後輩に仕事を教えて、自分ひとりではなくチームとしての成果を求められるときから、リーダーの第一歩を踏み出しているのです。

 どんな会社員もリーダー的な働き方を期待されているといっても、当然ながら出世や昇進の早い・遅いはあります。会社として肩書きを貸与するレベルのリーダーと、そうでないリーダーの違いはどこで生まれるのでしょう。肩書きがつくためには、ある程度の規模の"人の集まり"と"目的達成への責任"がセットで必要となります。そして肩書きが偉くなっていくことは、その規模が大きくなっていくことを示しています。つまり会社から任せられる範囲が大きくなっていくわけですが、会社はどういった人に任せるのか? 僕が考える条件は次の2つです。

"みんなで気持ち良く仕事ができる"
"人の能力を引き出し、伸ばすことができる"

 個人の能力・才能は特筆してすばらしいのに、あまり出世には縁がない―――ひょっとしたらそんな人があなたの周りにもいるかもしれません。あの人はプロフェッショナルだから、とか、ちょっと近寄り難いよね、自分の仕事しかしないよね、とか言われてはいませんか。個人としての職務遂行能力は高くとも、リーダーとしてより大きな"人の集まり"を統率する力がなければ会社は肩書きレベルの単位で組織を任せてはくれません。それは、個人が極めることによる成果よりも、集団がまとまって動くことの成果の方が大きいからに他なりません。大きな"人の集まり"を動かすために必要なのは、個人の能力がそこまで高くなくても、「みんなが気持ちよく働き、かつ、人が育つ環境」を作ることができる人の方が、会社としては出世させやすいし、任せる範囲を大きくしやすいわけです。

(ちなみにリーダーとして責任範囲が大きくなっていけばいくほど、不確実性の高い判断ばかりが増えていきます。あちらをたてればこちらがたたず、二律背反するような状態であっても、その両方を解決するような別の判断軸を提示するなど、リーダーとしての人間力や胆力が試される機会の連続になります。その緊張感を楽しめ、最終的には巨大な"人の集まり"が気持ち良く仕事ができる状態と、継続的に人が育つ環境を維持向上していく能力を獲得した人が、役員や社長へと出世していくわけですが、さすがに誰もがその地位まで目指す必要はないでしょう)


■リーダーとしての能力を高めるためには?

 さきほど挙げた2つの条件、"みんなで気持ち良く仕事ができる""人の能力を引き出し、伸ばすことができる"を、リーダーとして身につけるためには何をすればよいのか。少し事例を使ってご説明したいと思います。

 まずは"みんなで気持ちよく仕事ができる"から。この言葉は、一見すると当たり前に思えるかもしれませんが、秩序・規律が厳格に保たれていなければ、実現することはできません。交通ルールが厳格に保たれていなければ、車の運転など恐ろしくてできないのと同じです。その秩序・規律を保つ役割こそ、リーダーに求められていることです。

 たとえば、Aさん、Bさんという2人の後輩社員がいて、どちらも同じく「請求モレ」というミスを初めて犯したとします。「請求モレ」はその部署では重大ミスとされており、始末書を役員まで提出しなければならないルールとなっています。Aさんは、普段からあなたの補佐役をつとめ、難易度の高い仕事もこなしてくれるので「今回のミスは、Aさんにちょっと仕事を振りすぎてしまったことが原因。自分にも責任がある」と思い、Aさんの始末書を自分が肩代わりすることにしました。一方Bさんは、元々ミスの多いタイプだったので、これまでは一緒に事前チェックを行うことで事なきを得ていたのですが、今回は事前チェックをしなかったことでミスが起きてしまいました。「Bさんから目を離したとたんにコレだ。教育的観点からも厳しく対処しよう」ということで、Bさんにはそのまま始末書を提出させました。後日、あなたのいない場所で、Aさんが「リーダーはとても優しくて素晴らしい。この前も、私のミスをかばってくれた」と発言したことがきっかけで、AさんとBさんの対応に差があったことが発覚。あなたはその対応の背景を説明しましたが、チーム全体の中で「リーダーは素晴らしい」と評価する人と、「あの人はえこ贔屓をする」と批判する人が生まれてしまい、結果的にチームがバラバラに。これでは、みんなが気持ちよく仕事ができる状態、とは言えません。

 "みんなが気持ちよく"を保つためには、みんなに平等であることが大切です。メンバーひとりひとりの評価には良し悪しがあって当然ですが、その評価によって適応されるルールやガイドラインが変わることはあってはなりません。これが意外と難しい。人には相性があるので、自分と合う人は評価したくなるし、そうでない人は批判したくなる。それはリーダーの立場でも、メンバーの立場でも同じ構図です。平等であることは、決して好き嫌いや相性の良し悪しをなくすことを意味していません。好きか嫌いかによらず、会社の秩序・規律に則って平等にメンバーと接し、判断を下しているか。そのためにも、リーダーにはある水準以上の倫理観が求められることとなります。

 次に"人の能力を引き出し、伸ばすことができる"ですが、人材育成ほど難易度の高い仕事はありません。育成とは、できないことをできるようにする、がベースです。しかし組織には会社から短期的な目標達成が与えられています。つまり"できない人ができるようになる時間"と"成果を出すまでに残されている時間"を天秤に掛けながら組織を動かしていくことが、リーダーには求められています。

 たとえば、Cさんは営業経験がまだ浅く、汎用的なセールスシートでの営業はできるようになったものの、自らプレゼンテーション資料を作ったことはありません。そんなCさんに、担当している顧客から「Cさんは親身になって対応してくれている。これまで以上に、わが社の課題解決につながる提案をお願いしたい」と要望がきました。Cさんはあなたに「自分はまだ自信がないので、どうすればよいかアドバイスをください」と言われました。
Cさんが顧客の信頼を勝ち取りつつある状態なので、Cさんが一皮むけるチャンスだとあなたは思いましたが、「とはいえ今期の売上が目標をショートしている。Cさんの育成よりも、目標達成が優先だ。Cさんには自分のプレゼンを見て学習してもらうことにしよう」ということで、あなたが提案資料を全て作り顧客へのプレゼンテーションも行いました。おかげで見事受注を挙げることができましたし、Cさんも「リーダーのおかげで個人業績も上がりました。ありがとうございます!」と感謝してくれました。しかし、はたしてこれでよかったのでしょうか?

 "人の能力を引き出し、伸ばすことができる"を実現するためには、メンバーに能力開発の機会を提供することが不可欠です。先ほどの事例では、リーダーとしてCさんに花を持たせることはできたので、優しくて頼れるリーダーということでCさんからの信頼度も増すでしょうが、肝心な能力開発の機会を奪ってしまっています。では目標達成よりもCさんの育成を優先させるべきだったのでしょうか? それも違います。Cさんに期待して任せながらもどこかでしっかり手綱な握りつつ、肝心なところをアドバイスしながら最終的には成果に結びつける―――そういったことができるリーダーは、メンバーを伸ばしつつ、最終的には自らの人間力や胆力を同時に伸ばすことができるのです。

 ちなみに、リクルートの個人ミッションシートの文末には、「ひとり一人の思いを信じて、期待して、求める。ちゃんと」という言葉が記されています。メンバーへの会社としての姿勢を示した言葉であり、かつメンバーを持つ組織長への教訓的なメッセージにもなっています。個人的には年齢を重ねるに従い、身に染みる言葉になってきました。

 さて、今回のまとめです。
 会社という"人の集まり"の一員である限り、いつかは必ずリーダー的な役割を会社から求められます。まずは小さな単位からスタートしていくわけですが、小さなチームリーダーであろうとCEOであろうと、リーダーに必要な条件は基本的には変わりません。その後、自らが成長しリーダーとしての条件が少しずつ整っていくことで、会社から任せられる責任範囲が大きくなって昇進・出世へとつながっていきます。逆を言えば、会社が従業員に求めていることは、ほぼこれだけです。もちろん研究職やクリエイティブ職のようなエキスパートが出世する職場もあるでしょうが、基本そういう職種であっても個人よりもチームで成果が出やすいことに変わりはないはずで、エキスパートでありながらもリーダー資質のある人を会社は期待しているはずです。

 会社員である限り、リーダーになることは宿命です。なりたくない、などと言っても、そんな贅沢なことは基本許されませんので(笑)、あきらめてリーダーになることと向き合っていきましょう。

 次回は、「会社員のステージと、壁にぶつかったときの対処」について書いてみたいと思います。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

藤井大輔(ふじい・だいすけ)

1973年 富山県生まれ。1995年 株式会社リクルート入社。

以来、編集・メディア設計職に従事し、主に『ゼクシィ』『ABROAD』『ダ・ヴィンチ』『住宅情報』『都心に住む』等に携わる。

2003年9月『R25』を立ち上げ、編集コンセプト・ネーミング・コンテンツラインナップを立案する。2005年4月『R25』編集長に就任。2012年3月まで『R25』フリーマガジン・デジタルメディア戦略担当。

現在はシニア向け温泉予約サービス『ゆこゆこ』の経営企画室長。著書に『R25のつくりかた』(日本経済新聞出版社)。

バックナンバー